俺だけ使える古代魔法~実は1万年前に失われた伝説魔法らしいです。え、俺のこと基礎魔法すら使えない無能だって追放しませんでしたか? 今さら助けて欲しいとか、何の冗談ですか?~
13.古代魔術師、ドラゴン退治に向かう。勇者が逃げ帰ったダンジョンも軽々と踏破する
13.古代魔術師、ドラゴン退治に向かう。勇者が逃げ帰ったダンジョンも軽々と踏破する
(ドラゴン退治だと……!? ほんとうに向かうのか?)
(かといって、今さら止めることも出来ないよな……)
ギルドでの決闘騒ぎの翌日。
俺とアリスは、ほんとうにドラゴン討伐クエストに向かうことになっていた。
何故かアリスはノリノリだった。今さら「諦めてもらうためだった」なんて、到底、言えない空気。
(だとしても、ドラゴンのソロ討伐とか、さすがに不可能じゃないか?)
いや、アリスはクワッド・エレメンタルの天才だ。その天才が「やれる」と言うのなら、やれるに決まってる――! 微力ながら、俺だって支援を惜しむつもりはない。
自分に言い聞かせ、俺たちはダンジョンを進んでいく。
「オリオンさん! ちゃんと見ててくださいね!」
「あ、ああ……」
隣を歩くアリスは、この上なく楽しそうだった。鼻歌を歌いながら、上機嫌にスキップしている。
「なんだか機嫌が良さそうだな、アリス?」
「はい! 憧れの人と、こうして一緒にクエストを受けられて。今、とても楽しいんです!」
にこり、とアリスが微笑む。そのあまりに純真無垢な笑みを見て、思わず俺はドキリとした。
『アイスニードル!』
『アイシクルランス!』
『ブリザード!』
アリスが魔法を詠唱していく。空中に魔法陣を描く速度は、これまで見てきたどの魔術師よりも高速。瞬く間に魔法を完成させ、アリスは敵をバタバタと薙ぎ払っていく。圧倒的な実力だった。
「ありがとうございます。支援があると、ここまで戦いやすくなるんですね。消費魔力はいつもの半分以下で、詠唱にかかる時間なんて1/4未満。いったい、どんなトリックを使ったんですか!?」
「クエストに同行する訳だからな。支援は惜しまないぞ?」
アリスは、キラキラした目でこちらを見ていた。
「おまけに火山の中に居るのに涼しいです。常時展開型の支援魔法を、オリオンさんはいくつ重ね掛け出来るんですか!?」
「アリスは大げさだなあ……」
1つ1つは、そこまで複雑な魔法ではない。アリスだって、やろうと思えば同じことが出来るだろうに。
「それで、それで! オリオンさん、私の魔法はどうでしたか?」
「正直、感動したよ。無駄が多いギルド式の魔法術。それでも……クワッド・エレメンタルともなれば、かなり最適化しているんだな! とてもきれいな魔法だと思う」
最低限の詠唱を行い、杖を媒介として魔力を注ぐ。一切の無駄のない美しい詠唱。まるで教科書のよう。アリスの腕は、とても見事なものだった。
「えへへ、ありがとうございます。魔法陣の最適化は、私の専門分野なんですよ!」
惜しむべきはその凄さを、俺では真の意味で理解出来ないことだろう。
「でもオリオンさんの領域には及びません。詠唱もなしで……。私には逆立ちしても出来ない芸当です――」
そしてアリスは、自らの魔法に納得していない。
(だとしてもなあ……)
「なあ、アリス……。俺の魔法は、ギルドで定められてる法則とは、まったく別の方法なんだ。参考に出来ることは、たぶん無いと思う」
アリスが使う魔法と、自分の魔法は、方法論からしてまったく異なる。これまでアリスが積み上げてきたものが、無駄になってしまうかもしれない。俺としては、どうアドバイスするべきか分からなかった。
(って。べつにアリスの師匠になった訳じゃないんだけどな!)
ついついアリスにかける言葉を探していたことに気付き、俺は首を振る。
そうこうしていると、魔物の群れとぶつかった。
「あ、クレイゴーレムですね! その後ろには、ダンジョンバットの群れ。申し訳ありませんオリオンさん……。この組み合わせだと、少し手間取るかもしれません――」
アリスは、懐からマジックポーションを取り出し飲み干した。戦意はおとろえていないが、疲労を隠し切れない。
(アリスは、ドラゴン退治の切り札だからな――)
(雑魚散らしは、俺がやっとくべきだな)
「アリス、ここは任せてもらえるか?」
「はい。オリオンさんの魔法、ぜひとも近くで見させて欲しいです!」
俺が声をかけると、アリスはパっと顔を明るくして振り向いた。それからワクワクとこちらを見る。
「水のマナよ――」
俺は大気中のマナにささやきかけた。
炎熱の洞窟。ここには炎のマナが満ちている。素直にいくなら、炎のマナを使うべきなのだが、基本的に相手は炎属性には耐性を持っている。
(そうだな。幸いアリスが唱えてくれた魔法の残滓が、空中に漂っている。そのマナに呼びかけてみるか――)
「水のマナよ――敵を貫け!」
イメージするのは、アリスの使ったダブルの魔法『アイシクルランス』。俺の声に応えるように、空中に無数の氷の槍が現れた。
「な!? それはアイシクルランス!? また無詠唱で……」
「詠唱魔法は俺には使えないからな」
「それになんて数なんですか!? オリオンさん――何ですかそれ!?」
「ええっと……。アイシクルランス――もどき?」
さっきのアリスの魔法を、再現した魔法だ。
空中に現れた氷の槍は、瞬く間にモンスターの群れを串刺しにしていく。断末魔の悲鳴すら上げられず、モンスターは光の粒子に変わっていった。
アリスは、呆然と目を見開いていた。
「私、自分が恥ずかしいです。こんな規格外なことを出来るオリオンさんを相手に、ああんな稚拙な魔法を見せびらかしてはしゃいで……」
「いやいや、謙遜は要らないよ。アリスの魔法の腕は確かなものだよ」
(そう、アリスは噂に違わぬ天才だ。それなのに
(ランク外の魔術師に、弟子なんてさせて良い才能じゃない! 俺が面倒を見れる相手じゃない――何としても諦めて貰わないと!)
なんだかアリスは、ますますと尊敬の色を深めていたような気もするが――きっと気のせいだろう。そうして俺たちはダンジョンの攻略を順調に進めていく。
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