11.【SIDE:勇者】ナイトのルーナ、クエスト無断キャンセルの督促状が届いて戦慄する

(はあ。最悪や――)

(どうして、こんなことになったんや……)


 今日はあまりにも、色々なことがあった。

 私はルーナ。勇者パーティでナイトをやっている。


 今日1日で、目まぐるしい変化があった。リーダーのオリバーが、何を血迷ったのか、パーティのかなめのオリオンを追放してしまったのだ。それに激怒したエミリーは、そのままパーティを出て行ってしまった。



(これから、どうしようかな――)


 目下の悩みはそれだ。

 本音を居れば、このパーティには愛想が尽きかけていた。勇者はどこまでも考え無しで、メンバーも残り2人。結局、自信満々だったのにオリバーは魔術師の勧誘にも失敗していた。

 はっきり言って、このパーティには未来がない。



(かといって、パーティを抜けても行く宛もないんよなあ……)


 多くのトラブルの果てに、空中分解したパーティ。そこに最期まで残っていた訳ありのナイト。誰も拾ってくれる人などいないだろう。こういうことは、何よりも信頼関係が大事なのだ。



(オリオンのパーティに加えてもらえるように頼む?)

(それこそ今さらやな。一方的にパーティを追放しておいて、どの面下げて仲間に入れて欲しいと頼めるんや。裏切っておいて「ふざけるなっ!」と、怒鳴り返されも文句は言えんな……)


 もしかするとオリオンなら、許してくれるかもしれない。そんな甘い考えも、頭をよぎる。


 だとしても、あまりにも身勝手すぎる。どんな恥知らずだ。それに必ずしもオリオンの歩む道が輝かしいとも限らないし、もう少しだけこのパーティの様子を見ても良いかもしれない。

 なんだかんだと理屈をつけて、私はこのパーティに残り続けることを選択してしまった。本当は出ていったパーティメンバーと合流したいと願いつつ、ただ現状に流される道を選んでしまったのだ。



 理屈っぽい考え。どうしても思考が行動を妨害してしまう。ずっとそうだった。こういうとき、エミリーの行動力が羨ましかった。その真っ直ぐさが羨ましかった。私には無い部分で、だからこそ――オリオンの隣に並んでいる姿も想像することができた。



 そんなことを考えていたとき――


「勇者オリバーのパーティですか? お届け物で~す!」

「なんや?」


 私の泊まっている宿の部屋に、何か手紙が届いたことを知る。その手紙を読み、私は思わず青ざめるしかなかった。



(オリバーのアホ~!?)

(ほんっまに、ほんまに。なにを考えとるんや!!)


 差出人は冒険者ギルド。

 中身には、クエスト無断キャンセルによる違反金――支払いの督促状であった。



 クエストの達成がどうしても難しいときは、あらかじめギルドを通じて報告しておくのが最低限の礼儀。それすら怠ったパーティに対して、依頼主の怒りは非常に大きいようだった。


(え、ゴブリンの掃討クエスト? なんやこのクエスト。見覚えないで!?)


 バタン! とオリバーの泊まる宿の扉を空ける。


「オリバー! 何やこれは!!」

「どうしたんだよ、ルーナ。今日はオフだ。あと1時間は……」


 寝ぼけ眼のオリバー。そのすっとぼけた表情にイラっとした。



「ええから、これを見るんや! オリバー! あんた、何ってことをしてくれたんや!!!」

「落ち着けって。ええっと。ああ。……ま、そういうこともあるよな?」


「そういうこともあるよな! や、無いわ!!」

「落ち着けって……」


 ものすごくかったるそうに、勇者がベッドから体を起こした。

 私はオリバーの顔の真ん前に、その督促状を叩きつけた。クエストの内容は、人命にかかわりかねない重大なもの。過失の罪は大きい。そう判断され、突き付けられた違約金は、実に50万ゴールド。

 とても今のパーティに払えるものではない。


「無断キャンセルの支払いの督促状が届いとる。あんた、メンバに内緒でクエストを受注したんやな!?」

「あー。そのクエストなー……。とりあえず受けてみたんだけど、冷静に考えるとだるいし遠いし、報酬は安いしで。ちょーっと気が乗らなくてな」


 へらへらと答えるオリバー。そこに反省の色はない。それどころか――



「ルーナ、ちょっとポケットマネーで、変わりに支払っておいてもらえないか? 今は持ち合わせがなくてな。ついでにクエストの断りの連絡も頼むわ。ふあー、じゃあ俺は二度寝するので……」

「ふざっけんな! ポケットマネーどころか、パーティの全財産はたいても足りへんわ!」


「は? まじかよ……?」


 ようやく深刻さに気が付くオリバー。

 どうして、こんなことになるまで放っておいたのか。



「クエストの内容は、近くの街に住み着いたゴブリンの巣の掃討作業。たしかに、すぐに処置しないと危ないクエストや。この町の住人は、勇者パーティの訪問をずっと待ってるはずや。それなのに。それなのに――!」

「ルーナ、うっとおしいぞ。そんな地味なクエスト、冷静に考えれば勇者パーティにはふさわしくない。受注したのは――ちょっと魔が差しただけだ。エミリーといいお前といい、どうしてそう口うるさいやつが多いのか……」


 開いた口がふさがらないとは、このことだろうか。

 私は思わず、オリバーの首根っこを掴んでいた。



「おい、ルーナ?」

「ギルドに行くんや! これからも勇者パーティで活動していくつもりなら、こういうことは絶対にしてはアカンのは分かるやろう? このまま評判が落ちて行けば、メンバーの勧誘どころやない!」


 不機嫌そうにオリバーがこちらを睨んでくるが、私は構わずにズルズルと引きずって行こうと試みる。



「分かった、分かった。行けば良いんだろう、行けば?」

「分かって、もらえて助かるよ」


(こんなとき、オリオンさんならどう対処するんやろうな……)

(アカンな。オリオンさんはもうおらんのやから、自分でどうにかするしかないのにな……)


 次々に叩きつけられる予想外の事態。

 私はどうにか冷静になろうとしながら、オリバーを引きずっていく。そうして冒険者ギルドに向かうのだった。

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