24.【SIDE:勇者】オリバー、何の根拠のない自信から戦闘の心得をぺらぺらと騙りウザがられる

 俺――オリバーには、まったくやる気にならなかった。

 何故、勇者たる俺が村に来たのに、出迎えがないんだ? 同行する冒険者の態度もでかい。何もかもが気に食わない。

 それだけでなく、



(くそっ。ルーナめ、何をそんなに怒ってるんだ?)


 いつもはニコニコと微笑んでいたルーナ。

 しかしエミリーがパーティを飛び出していって以降、態度を一変させていた。俺の言うことに、いちいちケチをつけるようになったのだ。パーティの空気ははっきり言って悪い。


(ふん。これから実績で黙らせればよいさ!)


 俺は能天気にそう考えていた。




 そうこうしている間に、リレックの村で作戦会議が行われた。


「そうやな、作戦会議には私が参加しておこう。だからオリバーには、外で待っていて欲しい――」


(ふむふむ。分かってるじゃないか、ルーナ!)


 俺はあっさりと乗っかりそうになり、


(待てよ?)

(ここで俺が、颯爽を指揮を取って事態を解決したならば――! 誰もが俺のことを褒めたたえるに違いない!!)


 ふと気が付いた。何も戦うだけが勇者の役割ではない。完璧な作戦を立てて、小生意気な冒険者どもを黙らせるのだ。



「ま、ルーナが心配だから残ってやるけどな。そうだな! 勇者たる俺が、素晴らしい作戦を考えだしてやるぜ!」


 そうして俺は、自信満々にそう宣言した。




◆◇◆◇◆


「斥候部隊が厄介です。この規模となると、ゴブリンキングが居る可能性も……」

「ふむふむ。状況は良くないな――巣の構造が知りたいところですね」


(ふむ、どうやら俺たちの代わりにクエストを受けた冒険者たちは、随分と臆病なようだな)


 別にゴブリン程度、何体いたところで変わらないだろう。真正面から殴り込めば良いだろうに。



「恥ずかしながら、俺たちのパーティは攻撃魔術しか使える者が居ない。そちらに攻撃索敵魔法を使える者は居るか?」

「パーティで色々あってな。今は魔術を扱える者も居らんのや。オリオン君がおったらなあ――」


(くそっ、オリオンめ。ここに居ないあいつの名前が、どうして出るんだ!?)


 オリオンが頼られているのが気に食わない。なんだか作戦会議を聞いてるだけでイライラしてきたな。



「ええい、やるべきことは決まってるだろう。おまえら、それでも冒険者か!!」


 ここは俺が、ビシっと言ってやらないとな。


「勇者たる俺が居るのだ。ゴブリンキングも繫殖期も恐るるに足らず! 真っ向から突撃して、すべてのゴブリンを切り伏せれば良い!」

「アホ~!」


 ルーナに、スパーンと頭を叩かれた。

 何故だ。



「何すんだよ、ルーナ!」

「下手に繫殖期のゴブリン突いたら、刺激することになるやろ! そんなん駆け出しの冒険者でも常識や! 繫殖期のゴブリンは凶悪や。刺激して村が襲われたら、目も当てられへんで」


 部屋中から「何言ってんだこいつ」みたいな視線が向けられる。

 むう。ルーナの言葉が正しいのか?



「ならどうすんだよ?」

「そうやな……。これほどの規模となるとウチらだけでは、殲滅するには心細いな。状況が変わりすぎとる。ギルドに助けを求めて――」


 ルーナがテキパキと案を出す。

 たしかに、ここまで状況が悪化しているとは、冒険ギルドも把握していないだろう。



「まずは村人を避難させるべきかと」

「そうやなあ。でも見たところ、老人や幼い子供も多そうやな。護衛しながらとなると、少しばかり非現実的やな」


「斥候ゴブリンを相手取るときは、こちらの戦力を大きくみせたいな。この村を襲っても割に合わない。そう思わせたい」

「そうやなあ」


 作戦会議は順調に進む。俺を抜きにして。


(むむむむむむ!)


 そうして、あっさり結論が出た。ギルドから救援が来るまでは、とにかく時間稼ぎに徹するという方針。



「ルーナさん、どう思うよ?」

「リスクを最低限に抑えられるしな。私もそれで構わんで」


「ならそれで行こうか。殲滅作戦では、ナイトの負担が大きいかもしれないな。頼りにしてるぜ、ルーナさん」

「元は勇者パーティが招いた事態やからな。是非、キリキリとこき使ってな?」


 ふう、と髪をかきあげため息を付くルーナ。

 なんかいつの間にか、ルーナが作戦の中心人物のようになって居た。解せぬ。




「ふふん。ならここからは、俺がゴブリンとの戦いの心得を話そう。冒険者たるものな! 格下のモンスターが相手であっても、つねに全力で――」


(勇者たる俺の経験談だ)

(どうだ! みんな、俺にひれ伏せ――!)


 つまらない作戦会議も終わり。せっかく同じクエストを受けるのだ。勇者である俺が直々に、冒険者として大切なことをレクチャーしてやろうではないか。

 そう思って意気揚々と話し始めた俺だったが、


(あれえ……?)


 みんなガンスルーで、部屋の外に行ってしまった。ルーナからは、頭を抱えながら生暖かい目線を向けられる。



(くそっ。みんなして俺を舐めやがって! そうだな。ゴブリンごとき、別にギルドの助けとか必要ないよな?)

(俺1人でゴブリンどもを全滅させたら、大手柄なんじゃないか?)



 そうすれば、一緒にクエストを受ける偉そうな冒険者も、ギルドの面々を出し抜くことが出来るだろう。小うるさいことを言っていたルーナも、事態が解決しさえすれば俺のことを見返すはずだ。

 そうと決まれば――



(くっくっく。楽しくなってきやがったぜ!)


 楽しいことを思いついた。

 俺は明るい未来を疑いもしなかった。

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