俺だけ使える古代魔法~実は1万年前に失われた伝説魔法らしいです。え、俺のこと基礎魔法すら使えない無能だって追放しませんでしたか? 今さら助けて欲しいとか、何の冗談ですか?~
33.古代魔術師、一瞬で村を元通りにしてものすごく感謝される
33.古代魔術師、一瞬で村を元通りにしてものすごく感謝される
俺──オリオンは、まずは間に合ったことにホッとしていた。
繁殖期のゴブリンの群れは凶暴だ。
すでに村が襲われ全滅している最悪の自体も想定していた。今回の事件のトリガーを引いたのはオリバーであるらしい。
「ルーナちゃんのおかげだね」
エミリーがしみじみと呟く。
「ああ。随分と無茶をする──本当に無事で良かった」
まさに間一髪であった。オリバーには4体のゴブリンキングを相手にできるだけの戦力は無かったはずだ。
オリバーもルーナも、最後こそ気まずさも残るものの、長年旅をしてきた大切な幼馴染には違いない。心の底から助けられてよかったと思う。
しばらく経った頃。
リレックの村の住人が戻ってきた。冒険者が命がけで足止めをして、その間に自分たちが逃げることに、若干の後ろめたさはあったらしい。
「本当にありがとうございました!」
「あなた達が居たおかげで、私たちは救われました!」
「ルーナさんたちが無事で良かったです!」
涙ぐみながらルーナの無事を喜ぶ村人たちが居た。
短時間で随分と打ち解けていたらしい。ましてルーナは自分たち村人を守るために、命がけでゴブリンたちを食い止めたのだ。村人たちが感極まったように涙ぐむのも、無理はない。
「あなたたちが、ゴブリンの群れを倒してくださったのですね!」
「これほどの群れを──! いったい、どんな手を使ったのですか!?」
それから興味津々といった様子で、村人たちは俺の方にも集まってきた。
「えっへん! 師匠は世界唯一の古代魔法使いです。ほんとうにすごいんですよ──!」
「だから俺は師匠なんかじゃ……」
「そうでした、いつかドラゴンの首を献上するので待っていてくださいね!」
(随分と物騒なことを言うな──!?)
(でもこの子なら、やってしまうんだろうな……)
弟子入りを諦めさせようと言ったドラゴン討伐の準備を、アリスは着々と進めて居るらしい。末恐ろしい少女だ。
そんなアリスは、ドヤ顔で俺を村人に紹介する。
彼女はすっかり俺の実力を過大評価していたようだ。どうにかアリスに教わりながら、すこしずつアイスドラゴンの再現が上手くなってきたに過ぎないのに。
一方、村の中で絶望の声を上げる者も居た。
死傷者は出なかったものの、ルーナが引きつけ切れなかった攻撃により、畑はボロボロ。家も倒壊しており酷い状態であった。
「これからの生活が……」
「せっかく育ってきたのに。畑もボロボロだ」
「くそっ。何が勇者だ。あれだけ刺激するなって釘を刺したのに──よりにもよって、村に群れを連れ帰ってくるなんて……」
まったくもって、その通りだ。
知らなかったでは済まされない重大な過失である。ゴブリンの襲撃は、ミスにミスが重なって発生した人災にも等しい。
(オリバー。ああ言ってたけど──ただでは済まないだろうな)
さすがに危機感を感じたのか、俺をパーティに勧誘していたのを思い出す。その功績があれば帳消しに出来ると思ったのかもしれないが、流石にそこまで甘くないだろう。
「オリオンさん……」
アリスが気の毒そうに呟く。
もちろん王都からの復興支援はあるだろうが、これから先の生活が厳しくなることは間違いない。それなら……、
「分かった。試してみるよ」
俺は道中で、アリスから「古代魔法」の教本を受け取っていた。
それは既存の6属性の組み合わせの枠組みには収まらぬ究極の魔法形態。まさしく異端であり、ギルドに見せたら、バカバカしいと一蹴されそうな概念であったが──
「時のマナよ──」
俺が呼びかけたのは、第7の属性。
アリスの渡してきた教本は、まさしく目から鱗の一品であった。
魔術の常識に対して懐疑的だった俺だが、それでもこの世の中に6属性の外側のマナが存在しているとは想像もしていなかった。
他のマナに付随して無意識に触れており、不思議と中途半端に干渉してきた未知のマナ。
「タイム・リバーシ!」
時魔法とでも命名しようか。
それは記憶の再現。
誰もが知覚できなかった第7のマナは、この世の不可能を可能にする。
「すごい──!」
記憶を読み取り、村が再現される。
まるで逆再生されているように、ボロボロだった村が再生していく。
まさしく奇跡のような光景だった。
(1万年前に失われた伝説魔法だっけか……)
(こうして目の当たりにしてしまうと──信じるしかないのかもな)
これこそが古代魔法──ロストスペルの真価。
「これがオリオンさんの真の力。いつか私もその領域へ──」
アリスは、なにかを決意するようにそう呟くのだった。
◆◇◆◇◆
それから数日後。
俺たちは村がもとの落ち着きを取り戻すまで、念の為、村に護衛として滞在していたのだ。ゴブリンの襲撃があったことは、知られているだろう。弱った村には、野盗などが訪れるかもしれないしな。
そうして出発の日が訪れた。
「ゴブリンの巣を一掃してくださった方だけでなく、まさか村の復興までして頂けるとは──!」
「今まで見たこともない魔法です!」
「この村は一生、オリオンさんを忘れません──! あなた様が起こされた奇跡──一生、村で語り継いでいきたいと思います!」
「その……。程々にな?」
いったい、どんな脚色が加えられることか。
すでに俺が指先1つで、家を生やすとかいう事実無根な話がまことしやかに語られ始めていた。古代魔法を極めれば、そんなことも出来るようになるのだろうか?
「ルーナ様も! あなたがいらっしゃらなければ、私達は全滅していました」
「自らの命を顧みず。あなたのような冒険者が居ると分かって、本当に良かったです!」
「格好良かったです! 私、ルーナ様のような冒険者になりたい!」
「あはは。なんも出来んかったけどな。それにナイトは早死にするで?」
「それでも良いです!」
ルーナも村人たちに囲まれ、恐縮したように控えめな笑みを浮かべていた。
そんなやり取りを最後に。
俺たちは、リレックの村を出発した。
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