34.【SIDE:勇者】オリバー、あっさり勇者の資格を剝奪される

(それこそオリオンが、戻ってきたいと言い出すような勇者パーティを作り上げてやる。肩書きだけの勇者と言われようと、俺は勇者だ! 勇者の肩書きさえあれば、どうにでもやり直せる!)


 この肩書きがある限りは大丈夫だ!

 ──俺は未だに、そんな甘っちょろいことを考えていた。


 考えていたのだが……




「オリバー! 貴様の度重なる愚かな行動には失望した!」


 俺は何故か、国王陛下からの呼び出しを受けていた。

 パーティではなく、単身での呼び出し。ただならぬものを感じたが、状況は想像以上に悪そうであった。



 謁見の間でひざまずく俺の目の前には、怒気を隠そうともしない国王。


「な、なんのことですか!?」

「心当たりがないとは言わさぬぞ……!」


 俺の言葉に、国王はそう言葉を返す。

 それから呼び出されたのは、見慣れた姿。俺の所属するギルドのギルドマスターであった。何やら報告が上がっているらしい。



(どうして、こんなところに……?)


「クエストを無断キャンセルして、ゴブリンが巨大な巣を作る手助けをした。さらには共に付いていったクエストでは、ゴブリンの巣をいたずらに刺激して村を壊滅の危機に追いやった。共にクエストの解決に当たった冒険者から苦情が上がっております」


(おのれ! 不都合な事実をペラペラと……!)



 俺はギルドマスターを睨みつけるが、やつは涼しい顔でこちらを見返してきた。


「事実に相違ないか?」

「……はい」


 俺は渋々うなずく。



「なんてことを……」

「それでも勇者なのか──」

「たまたま村が無事だったから良かったものの……」


 ざわざわと謁見の間にどよめきが起こる。

 空気が悪い。何やらヤバいことが起こりそうな嫌な予感が止まらない。



「ですが! 今回の件から、俺だって学びました」

「ほう?」


「ゴブリンの巣は早期に駆逐する! いたずらに巣を刺激しない! この件は、それで終わりです。騒ぎ立てるほどのことでは無いだろう!?」


 俺がまくしたてたが、国王は呆れたように額を抑えるのみ。



「貴様のところの冒険者教育はどうなっている?」

「オリバー様は、勇者の特権を振りかざして講習はすべてキャンセルしておりましたから。でもそれが、このような事態に繋がろうとは……返す言葉もございません」


 国王の質問に、ギルドマスターは頭を下げた。



 そうして国王はついに決断を下す。


「勇者オリバー! 貴様から『勇者』の資格を剥奪する!」

「な、そんな──! 無茶苦茶です!」


「黙れ! 新米冒険者の持つ常識すら持たずに、なにが勇者か!! 恥を知れ!」


 ついに国王がブチギレた。



 そのあまりの迫力に──俺は震え上がった。

 さすが1国を治める人間だ。迫力が段違いであった。



(ぐぬぬぬぬぬ。もし俺が、勇者の肩書きを失ったら……)


 それは考えうる限り、最悪の想像だった。

 「勇者」の肩書きを盾に、随分と好き勝手してきた。それにこれから知名度をあげていくためにも、勇者の資格は絶対に必要だった。



「これで話は終わりだ。こたびの件、とくと反省するが良い」

「ま、待ってください! もう一度だけチャンスを下さい! 次こそは、こんな失態は絶対に犯しません!」


 俺は思わず国王陛下にすがりつこうとしたが、


「往生際の悪い奴め!」

「貴様! 国王陛下にそれ以上近づくな!」


 控えていた護衛に、たちまち取り押さえられる。



「これで話は終わりだ。元勇者をつまみ出せ」


 国王は、こちらを見ることすら無かった。

 興味を失ったように視線を逸らされる。



「村1つを滅ぼしかけたんだ!」

「牢屋に入れられないだけ、ありがたく思え!」


 屈強な護衛2人からは、そんな罵倒を浴びせられた。

 「勇者」の悪評は、こんなところまで広まっていたらしい。

 俺はそのまま、護衛に城の外につまみ出された。



 度重なる失態を帳消しする切り札。

 まさしく「勇者」の肩書きは、俺にとっての全てだったのに。


(くそっ! あのタヌキじじい、なんて決断をしやがる!)

(……俺はこれからどうすれば良いんだ!?)



 あまりにあっさりと。

 ──その日、俺は勇者の資格を失った。




◆◇◆◇◆


「国王陛下。実は、もう1つご報告したいことがございまして……」


 一方の謁見の間。

 ギルドマスターのアデルが、なおも国王の前で報告を続けていた。



 ギルドマスターは、冒険者ギルドが抱える組合の問題に悩んでいた。

 ギルドを補佐するように、ジョブの互助会である組合が存在している。組合は冒険者のジョブをランク付けするなどの役割を持つほか、冒険者ギルドによる搾取などの問題への抑止力にもなっていた。

 冒険者ギルドと各組合は、それぞれが支えあう協力関係を築いていた。



「実は魔術師組合のエドワードが、ゴブリンの繁殖期の問題を故意に隠蔽した疑いがございます」


 しかし一部の組合では、腐敗が進んでいるのも事実だった。

 特にエドワードが取り仕切る魔術組合の腐敗は顕著だった。貴族と癒着し私腹を肥やし、自らの地位を脅かすものは手段を選ばず排除する。


 しかしこれまでは、決定的な証拠を掴むことは出来なかった。

 ギルドマスターとしては、非常に頭の痛い問題だったのだが……



「さらには自らに敵対する未来ある若者を、情報を伏せて死地に送り込もうとしたのです──!」


 ギルドマスターの目には、たしかな怒りが籠もっていた。


 その上で、事実を知って、村人を守るためいち早く向かったオリオンたちには感謝しか無かった。ギルドからの救援は、恐らく間に合わなかっただろう。

 オリオンたちが居なければ、村人全員が無事などという奇跡のような結末は訪れなかっただろう。



「ほう? 隠蔽に邪魔者の抹殺まで。それが事実だとしたら、到底、見過ごすことは出来んな。それは確かな事実なのか?」

「魔術師組合のエドワードの秘書から、リークがあった。音声記録術式による証言に、度重なる汚職の証拠まで──」

「ふむ……」


 その報告を聞き、国王は静かに考えこんで居たが、




「無視出来ぬ報告だな。至急、文官たちに情報の真偽を確かめさせよ。それからエドワードに、城に出向くように伝えよ」


 そう決断したのだった。

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