俺だけ使える古代魔法~実は1万年前に失われた伝説魔法らしいです。え、俺のこと基礎魔法すら使えない無能だって追放しませんでしたか? 今さら助けて欲しいとか、何の冗談ですか?~
21.エドワード、権利を私物化してオリオンへの感謝状送付を妨害する
2章
21.エドワード、権利を私物化してオリオンへの感謝状送付を妨害する
パーティ結成から1週間後。
その日は、俺たちがギルドから感謝状を渡される日であった。
「えへへ、楽しみですね!」
「ああ、今日はアリスが主役だ! 胸を張ると良い」
アリスは綺麗なドレスを見にまとっていた。普段は冒険者として行動しているが、こうして着るものを着れば、どこぞの貴族令嬢のように可愛らしい。
(アリスなら、今後もこういった機会はあるだろうしな)
(今のうちに慣れておいた方が良いだろう)
ギルドの扉をくぐると、冒険者たちがこちらを向いた。
「あのパーティが、ドラゴンを倒したってパーティか」
「クワッド・エレメンタルのアリスじゃないか。それに、元・勇者パーティのオリオンとエミリー。とんでもないパーティが出てきたもんだなあ」
俺たちはあの後、正式のパーティ結成の申請書を出していた。
元・勇者パーティのメンバーと、天才魔術師の少女が組んだパーティ。しかも、初日でドラゴンを討伐して、感謝状が贈られると言われている。すっかり冒険者ギルドで注目の的になっていた。
「そういえば、勇者パーティと言えば……。なんか依頼ばっくれて、違約金の支払いに追われてるらしいぜ?」
「今もばっくれたクエストに向かってるんだっけ? 何が悪かったのか反省もしてなかったらしい。あんなんが勇者で、大丈夫なのかねえ?」
「まったくだ。ルーナちゃんも気の毒になあ」
ひそひそと噂話。
どうやら勇者パーティから、ほぼ同時に離脱者が出たことは密かに話題になっているようだった。まして勇者パーティは、クエスト失敗からのトラブル続き。日に日に不信感が強まっているようだ。
「ルーナ、大丈夫かな?」
エミリーが心配そうにつぶやいた。
◆◇◆◇◆
そうして俺たちは、ギルドマスターの部屋に入る。そこで感謝状の受け渡しを行うことになっていた。
「えー、君たちがアリスと行動を共にしているパーティだね。まずは集まってくれたことに、礼を言おう」
(あれ? ギルドマスターじゃないな?)
俺たちを迎えたのは予想外の人物。魔術師組合のリーダーことエドワードであった。感謝状は、通常ならギルドマスターが受け渡すことになっている。これは、どういうことだろう?
「あの、ギルドマスターは?」
「あのお方は忙しいのだ。このような些事で、お手を煩わせる訳にはいかんのだ!」
(いやいや、普段はギルドマスターが手渡ししてるだろう……)
まあ制度上、組合のトップが手渡すことも可能ではある。特別気に入っている者が対象の時は、ギルドマスターに変わって組合のトップが感謝状を手渡したりもするらしいが――
(そういう雰囲気ではないよなあ……)
エドワードがにやりと、底意地の悪い笑みを浮かべた気がした。
「それでは感謝状の受け渡しを行う。アリス君、エミリー君。前へ」
エドワードが手に持っていた感謝状は、2枚だけだった。
「エドワードさん! どういうことですか?」
硬い声で訊くアリス。
「今回のドラゴン討伐の立役者はオリオンさんです。その彼が呼ばれなかったように思うのですが?」
「あー。ランク外の魔術師なんて、付いていったとしても足を引っ張っただけだろう。アリス君が打ち損じたドラゴンに、
でっぷりとした腹を揺らし、エドワードがそう答える。
「ふざけないで下さい! ドラゴンを倒したのはオリオンさんです。私、きちんと報告しましたよね?」
「あー、アリス君はまだ若い。ドラゴンと戦ったショックで、ちょ~っと勘違いしてしまったんだろう」
もっともらしく頷き、エドワードは強引に話を進めようとした。
「エドワードさん! 自分が何をしているか分かってるんですか!? オリオンさんは、世界で唯一のロストスペル使いです。それなのに――」
「そんな事実はないのだよ。彼は役立たずのランク外だ。冒険者連中ごときが何を言ったところで、その評価は覆らない!」
(そういうことか――)
ムキになって怒鳴り返すエドワード。
ギルドでランク外の評価を受けた者が、感謝状を贈られるような立派な功績を上げてはいけないと。制度を定めた者が、ランク付けをしたものが間違っていたことになってしまうから。
「さてさて、何か異論はあるかね? 落ちこぼれ君」
「別に。特にはありませんよ」
俺は醒めた目でエドワードを見返した。
その態度がまた癪に障ったのだろう。エドワードは、フンと鼻を鳴らした。
「そんな横暴、許されるはずが!」
「そうです。どうしてオリオン君ばかりがそんな目に――!」
アリスとエミリーが言い返す。
「アリス、エミリー。俺は構わないよ。どうか受け取ってくれよ」
ギルドからの扱いは、今に始まった訳ではない。そんなしがらみに、アリスを巻き込んでしまうこと。その方が、恐ろしかった。
俺は、アリスとエミリーの背を押したのだが――
「なら、私は良いや。オリオン君を差し置いて、見てただけの私が感謝状を受け取るなんておかしいもん」
「私も、感謝状の受け取りは拒否します!」
アリスとエミリーは、そう言い切った。
「お、おい2人とも? せっかくのこんな機会を!」
「「オリオン君(さん)は黙ってて下さい!」」
ものすごい剣幕で、怒鳴り返されてしまった。
「な――!? ギルドからの感謝状だぞ!? 言うなれば、冒険者の中でも選ばれた者の証。今後もワシに話を通してもらえれば、便宜を図るぞ?」
まさか感謝状の受け取りを拒否されるとは、思っていなかったのだろう。
エドワードは、顔を真っ赤にしながら焦って言い募る。
「「要りません、そんなの!」」
……アリスとエミリーは、息ピッタリであった。
「実に不愉快だ! 役立たずの仲間は、やはり役立たずということか! 下手に出ておれば、調子に乗りおって。すぐに出ていけ!」
顔を真っ赤にしたエドワードは、地団駄を踏みながら俺たちを部屋から追い出す。そうして後には、困惑した様子の事務員が取り残されるのだった。
◆◇◆◇◆
魔術師組合のリーダーであるエドワード。
彼は、アリスから古代魔法に関する報告を、あっさり握りつぶしていた。
そんな規格外の魔術師。もし現れたなら、ギルドでのランク付けの意味が無くなりかねない。自らの地位まで脅かされないからだ。
「ふん! な~にが古代魔法だ、馬鹿馬鹿しい!」
エドワードは己の持ちうる権限を使って、オリオンに感謝状が届くのを妨害した。ランク外と認定したオリオンに、感謝状が贈られることなどあってはならない。そう思ったのだ。
まさかその結果、感謝状の受け取りを拒否されるという事態に繋がるとは夢にも思っておらず――
「おのれ、おのれ、おのれ――! わしに恥をかかせおって――!」
将来有望なアリスと魔術師同士、繋がりを作っておきたいとギルドマスターには説明していた。一度は応じたはずの感謝状の受け取りを拒否されるなど、ギルド側に過失があったと言っているようなものだ。面目丸つぶれである。
「舐めおって! 今に見ておれ――!」
エドワードはギリギリと歯ぎしりした。
それはただの逆恨みである。しかし彼にとっては、正当な怒りであった。
そうしてエドワードは、悪だくみに頭を回し――
「ふっふっふ。そうだな――」
何やら閃いたのであった。
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