3.【SIDE:勇者】シーフのエミリー、憧れのオリオンがパーティを去ったことを知り泣きそうになる

 私――エミリーは、勇者パーティに所属するシーフだ。


 今日は勇者パーティの活動日だ。私はいそいそと、集合場所に向かう。どうやら集合場所には、リーダーのオリバーしか来ていないようだった。



(あれ? オリオン君はまだ来てないのかな?)


 無意識に、オリオンを探してしまう私。

 ギルドから不当な評価を受けても、文句1つ言わずに黙ってパーティを支え続けた頼れる幼馴染で――私が尊敬する人だ。

 とても生真面目な性格で、依頼に向かう時は、誰より先に集合場所で待っているのが、いつものパターンなんだけど……



「おはよう、オリバー」

「ああ。おはよう、エミリー。今日も良い天気だね」


(む、オリバーはいくつになっても相変わらずだ……)


 オリバーの視線は、私の胸をガン見していた。

 今に始まったことじゃないけど、そろそろ露骨な視線を向けるのは止めて欲しい。



 勇者パーティは、幼馴染4人で構成される小規模なパーティだ。リーダーのオリバー、魔術師オリオン、シーフの私、そしてナイトのルーナ。

 『信託』が下りてオリバーが勇者に選ばれて以来、私たちはずっと一緒だった。



「オリバーが最初? 珍しいね」

「そ、そうか……? それより今日のクエストが終わったら、2人っきりで――」


「そういうのは、また別の機会で。そういえば、オリオン君はまだ来てないの?」


 私の質問に、何故かギクリとするオリバー。

 どうしたのだろう?



「はっ、オリオンの奴なら臆病風に吹かれてパーティを出ていったぜ? 今日のクエストはドラゴン退治だ。基礎魔法すら使えない落ちこぼれには、たしかに荷が重いからな!」


 はっはっは、っとオリバーは笑った。



(何を言ってるんだろう?)


 そんなオリバーを、私は呆然と見返す。


「オリオン君なしで、ドラゴン退治!? 冗談だよね?」

「お、おい! あんな役立たずが居なくなったところで、何も変わらないだろう? 何をそんなに焦ってるんだよ?」


 なだめるようにオリバーは言う。



「オリバー、まだそんなことを言ってるの? 私たちのパーティは、オリオン君が居て、はじめて成り立ってたんだよ!? 人数も全然足りないし、バランスも悪すぎる。支援魔法に攻撃魔法に回復魔法――オリオン君が私たちに欠けてたものを、魔法を補ってくれたおかげで、辛うじてパーティは成り立ってたんだよ!」


 通常、パーティは6~8人で組むものだ。

 魔法職は最低でも2人、出来れば3人は入れるのがオーソドックスな構成。1人の魔法職で、支援/攻撃/回復とすべての役割を担っていた勇者パーティは――正直なところ、かなり特殊な構成だった。



「それは大げさだろう。勇者の俺さえ居れば、ドラゴン退治だって余裕だ!」


 4人パーティしか組めなかった理由。

 それはリーダーの傲慢な性格が原因だった。なにせ自分より目立つものには不満を言い、自分に意見を言うものは容赦なく追い出したのだ。



 そんな私の不安に気づかず、オリバーは能天気に言葉を続ける。


「それに替えは居るさ。クワッド・エレメンタルの助っ人をスカウトした。アリスって言ったっけな? 王立魔法学院を主席で卒業した凄腕の魔術師だ」

「魔術師のアリスさん? これから来るの?」


「いいや、今回のクエストには未参加だ。というより、まだ返事も貰ってないが――栄えある勇者パーティに加われるんだ。どんな奴でも喜んでスカウトを受けるだろうさ!」


(オリオン君が居るのに、新メンバーをスカウトしたの?)


 欠けた戦力を埋める意味で、それは正しい判断ではあった。だとしても、


(オリオン君。もっと一緒に旅がしたかったのに――)


 悪い意味で切り替えが早すぎる。

 オリオン君のことを、オリバーがあっさり諦めてしまったのがショックだった。まさかオリバーが、メンバーには内緒でオリオンを追放したなどとは、エミリーは夢にも思わなかったのだ。




「ふわ~。エミリーちゃんにオリバー、どったの?」


 そんなことを話していた時だった。

 ナイトのルーナが、眠たそうに目をこすりながら起きてきたのは。


「ルーナ! 聞いてよ、オリオン君がパーティを抜けちゃったって!」

「は!? え、冗談よね?」


「本当みたい。オリバーがそう言ってた!」

「どういうことなん、オリバー? なんで止めなかったんや!」


 一気に目を覚ましたルーナは、慌ててオリバーに詰め寄る。



「ルーナもエミリーも、どうしてそんなに慌ててるんだよ? 勇者がパーティに居るんだ。楽勝だろう? 行こうぜ、ドラゴン退治!」


 今のパーティに、ドラゴンを相手取れるだけの力はない。私とルーナは、何度もオリバーに訴えかけたが、まるで聞く耳を持たず。

 それどころか――



「ええい、いい加減にしつこいぞ! 俺がこのパーティのリーダーだ。おまえらは黙って俺に従えば良いんだよ!」

「な、なんやその言い方!」


 ついには、そう怒鳴りだす始末。



(オリオンさん。このパーティに嫌気が指してしまったのかな――)

(仕方ないか。誰よりも働いてたのに、リーダーが働きをまったく理解しないんだものね……)


 私とルーナは、日頃から感謝を伝えていた。

 それでも私たちのパーティは、彼に与えられたものを返せてはいない。幼馴染だからと。ずっと一緒だからと。そう甘えてしまったのかもしれない。


 オリオンに見捨てられてしまった。

 そう思うと、泣きそうなぐらいにショックだった。それと同時に、言いようもない未来への不安が広がる。


 

「おい、エミリー。早くいくぞ?」


 オリバーにそう急かされて。

 隠せぬ不安を抱えてたまま、私たちはドラゴン退治に出発することになる。

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