66.あの頃の私よりも、もっともっと
「そんな敗者のアスクを誘うのはやや気が引けるのですが、お2人とも南寮で祝賀会があるので来ませんか?」
「祝賀会? ああ、ケットルのか」
「いくいく! めっちゃ行く! 超行く!」
大変乗り気なケイスに対して、やはりアスクの反応は鈍い。
そりゃあ勝者側の会になんて行きたくないよね、普通。
これは誘う方がどうかしているのである。
「いえ、ケットルだけじゃなく、もう1人うちの先輩が優勝しているんです」
「高学年の方でか……それは知らなかったな」
そう、なんと二学年の優勝者も実は南寮から排出されていた。
何を隠そう、悪役に憧れるあのルジェ先輩も魔闘大会で優勝していたのだ。
結構とんでもない性格をしていた彼女だけど、割と強かったらしい。
考えてみれば、悪役を目指す上で弱いのもおかしな話か。
「アスク、行きたくないなら別に行かなくていいぜ。代わりに俺がいくからよ! セピアちゃん、こんなアホはほっといて寮へゴーゴー!」
「行かないとは言ってないだろ! くっそ……ムカつくけど、ただ飯も食えそうだし、行くことにする」
そう言いながらアスクは私とケイスの間にずいっと入ってくる。
……間に入る意味はよく分からないが、多分仲良くしたいんだな! うん!
どうやら来てくれるようで安心した……私の友人って南寮を覗くとこの2人しかいないから、お祝いに人を呼べなかったらどうしようかと参っていたのだ。
ピーちゃんは帰るべきところに帰ってしまったしな……。
「よし、ではみんなで肉を食いまくるとしましょう! やはり男子足るもの、たくさん肉を食べてください!」
「南寮の祝賀会でそんなにいっぱい飯が出るものなのか?」
「確かに急増な寮ではありますが、丁度ケットルの実家から牛が届きましてね。今、寮全体でさばいているところです」
「南寮マジ逞しい……!」
そんなわけで人は何人いても困らないというわけだ。
むしろ食い切るためにもたくさん呼ばなくては……。
「肉に向かって出発―!」
★
「そういえば2人でいるなんて珍しかったですね」
道行く途中にふと疑問に思ってみたことを言ってみると、アスクがニヤリと笑う。
「ああ、決闘で負けたら何でもするってやつを考えているところでな」
そういえばそんなのもあった!
それを使って偽ゼノビアの話を聞き出そうとしていたのに、なくても何とかなったので、完全に忘れてしまっていた!
「優しいので頼むぜマジで……というか、俺の仇、ラウラちゃんが倒したんだよね?」
「さ、さあ~、同一人物どうかは、ケイスのお師匠様に聞かないと分かりませんよ~」
「あー、確かになー、しゃーないから今度帰るか……」
「そういえばお前の師匠って──」
アスクとケイスの話は気付けば盛り上がっていて、昨日まで戦っていたとは思えないほどだ。
これが一度戦ったらダチというやつだろうか。
大変青春感があって良い!
私は2人の間に挟まれたままになんだか感慨深くなってしまう。
私の学生生活は大変順調だった。
後はちゃんとモテればなぁ……。
『いや、さっきはからかったけれど、結構ちゃんとモテてるんじゃない?』
そんな馬鹿な! 私はまだモテ道の最初の一歩を踏み出したばかりだぞ!
『うーん、僕も人間の情緒はよく分からないんだけど、モテている気が……』
気を使ってくれるのは有難いが、そんな楽な道でないことくらい分かっているさ。
そう、私のモテモテはここからだ!
遠くに見える南寮の姿と横で話している男子の声を聞きながら、私は決意を新たにした。
剣鬼と呼ばれていた私も今は遠く、日々は血ではなく青春の匂いに包まれている。
明日はもっと優しく愛らしくなろう……そして儚げな淑女になろう。
あの頃より、マリジアやみんなが憧れたあの頃の私より、もっと輝けるように。
剣鬼と呼ばれた少女、強すぎて婚約破棄されたので魔法学園では儚げに淑やかに生きて愛されたいと思います 齊刀Y氏 @saitouYsi
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます