11.むしろ一人も担がない
こんな状況であっても聞き分けよく出来るなんて、若いのに素晴らしい教育を受けている。
さすがアスターの息子というべきか……。
いや、一個人として尊重するべきであり、今の思考は不適切だった。
彼自身が素晴らしいのである。
「……っていうか、駄目だ。脳が重い」
『ひれ伏せる魔法』の使いすぎでアスクはどうやら魔力切れを起こしているらしく、その目をトロンと混濁させ、瞼に重量を感じさせるほど眠たそうな雰囲気があふれ出している。
むしろよくあれだけ連発出来たものだ。
大変才能を感じさせる。
「魔法を乱発し過ぎましたね。ゆっくりお休みください」
「そういえば……お前……誰だ」
「ええっと、せ、セピア・ミーティアムです?」
「なんで疑問形なんだよ……」
それが最後の言葉となって、アスクは気を失うように眠りについた。
美しい顔が私の肩に寄り掛かる。
明らかに私より長いまつ毛をしていて、心中動揺したが、なるべくそれを表に出さずに彼を支えるが……人目が気になる。
未だに周囲ではギャラリーがジロジロとこちらを眺めているのだ。
あまり褒められた態度ではない。
「あの、すいません! 二人を医務室に運びますので、誰か手を貸していただけますか?」
注意しても仕方がないので、むしろ見学している彼・彼女らにも手伝って貰おうと声をかけるが……目を伏せて避けられてしまう。
アスクとこの少女マリアの悪評が相当なものなのか、それとも私が怪しいのか、どちらかは分からないが、無理強いは出来ないので仕方なく一人で事態の解決に当たる。
私はアスクを肩に担ぐと、マリアの方へと歩を進めて、彼女を拾うように小脇に抱える。
『ひれ伏せる魔法』による脳の揺れは大きな後遺症は残さないが、しかし、このまま地べたに放っておくわけにもいかない。
それに二人揃って事情聴取などもあるだろうし、一緒に持って行った方が話も早いだろう。
同じ理屈で当事者となってしまった私も一緒に行くのがやはり話が早い。
しっかりと両腕で二人を肩の上でホールドすると、私は医務室へ向かって歩き出す。
学内のマップは入学前に叩き込んであった……これは前職というより単純に学園生活が楽しみ過ぎたせいである。
まあ、このように人間二人くらいなら一人での救助は可能だ。
ただ、こんな雑なやり方では怪我が開きかねないので、基本は一人に一人以上付いた方が良い。
今回は大怪我じゃないので良しとしよう。
『目立っちゃうねぇ』
「人助けで目立つのなら淑女的にありでしょう」
『ちょっと打算的!』
そう、良い方向で目立つのならオーケー!
それはあらゆる物事に言える!
しかし、この時、人命優先の意識が強すぎた為、レイヴも私も忘れていることがあった。
淑女は……人間を二人担がないのである!
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