12.顔が広いヒロイン
『いやぁ、人を救いすぎたが故に人を助けることにまるで疑問を抱かなかったよね。英雄特有の病気と言うべきかも』
あの後、私は二人を片手ずつで運んだのだが──もう人に見られすぎてヤバかった。
目立つ分には問題ないのだけど(目立たなければ最終的にモテない)、方向性がこうなんというか……ゴリラ方面だったのが良くない!
周囲の声も「あの優しくてお淑やかな美少女は誰!?」とかじゃなくて「あのヤバすぎて雄々しい非少女は誰!?」みたいな感じだったからな……。
そうかー、人ってあんまり人を二人も同時に運ばないんだなぁ。
いやはや、これは盲点だった。
『見逃した僕が言うのもなんだけど、本来、何一つとして盲点にはならないと思うんだ』
「もうなんか二人とも軽すぎて、普通の淑女からしたら重いという事に思い至らなかった」
『普通の淑女ってなんだよ!』
とりあえず今の私が普通の淑女じゃない事は確かだった。
いきなりやってしまったなぁ……。
みんな目を丸くしてたものなぁ……。
『みんな超驚いてたよね。でも、割と可愛いって声も聞こえてたよ』
「本当か? それならいいんだが……」
『良くはないよ?』
良くはないが、もう良しとするしかない。
そんなやや、やけっぱちな気持ちでようやく医務室に辿り憑いた私は、二人をベッドの上に寝かせて一息つくのだった。
どうやら二人の眠りは深いようで、まだ二人ともスヤスヤと眠っている。
後は配属されているはずの教諭に明け渡したいのだが……姿が見えない。
用事があって外出中、というよりも入学式という場では不必要だと判断されて、お休みを貰っているのかもしれない。
普通にありえそうな話だが、そうなると、アスクの足の怪我はどうしたものか。
回復魔法は苦手なのだがなぁ……。
私の回復魔法は、回復の過程がゴリ押し過ぎてあり得ないほど痛いともっぱら噂である。
『屈強な兵士たちが泣き叫ぶもんね』
「だが同時に痛みを消す魔法もかけるのは高度すぎて私には無理だ」
『まあ、体の神経をいじっているわけだから痛い方が普通ではあるよね』
などとレイヴと話しながら、不慣れでも回復魔法を使うべきかと悩んでいると──バタバタと騒がしい足音を立てながら一人の女性が医務室に入って来る。
まだ年若い黒髪の女性だった。
「す、すいません遅れましたー!」
なんだかドタバタとした雰囲気を全身から溢れさせながら、慌ただしく姿を現した彼女の様子を見るに、まだ配属間もない新人なのかもしれない。
……いや、学生の身分で人の若さを図るのもどうかと思うが。
「ええっと、話を聞いてやってきました。ここの医務教員のホイップです……って、あれ? あれあれ? あの、貴女、ぜ、ぜぜぜ、ゼノビア様では!? な、何でこんなところに!」
『うわーお、バレてる!』
いきなりやって来たホイップさんとやらは、私の顔を二度見するように何度か確認すると、間違いないと言わんばかりに両手を大きく上にあげて、私の本名を言い当ててしまう。
ば、馬鹿な! 見た目はもう別人くらい変わっているはずなのだが!?
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