13.剣姫と呼ばれない理由


「さ、さあ、誰の事でしょうか……ちょっと存じ上げませんが」

『ここからトボけるのはちょっと無茶があるんじゃあない!?』


 心中動揺しつつも、何はともあれ素知らぬ振りをしてみる私だが、レイヴの言う通りここまで確信を持っている相手にこの態度はいささか無茶があった。


「ですが、耳の形が一緒なので……」

『すごいところで判断してるねこの人』


 まさかの正体バレの原因は耳であった。

 一部の訓練従事者には耳の形が変形するものもいると聞くが、私の耳はさして特徴のない普通の耳だと自称している。

エルフや耳に切り込みを入れる部族ならまだしも、一体この平凡な耳の何をヒントにしたのか……。


 とにかく、誤魔化すのは無理らしい。

 仕方がないので溜息を一つ付くと、私は居住まいを正し彼女へ向き直る。


「どうやら隠すことは出来ないらしい。君の言う通り、私はゼノビア・セプティミアだ」

「やっぱり!!! お、お会いできて光栄です! あの、私、南方戦線では看護婦団に参加していまして、何度かお見掛けする機会がありました」


 驚くことに目の前の温厚そうな彼女は、ホイップは私と戦場を共にした仲間だった。

 であれば、新任ではないかという私の考えも当たっていた可能性が高い。

 終戦はごく最近の出来事なので、自然に考えればホイップも私と同じく帰還して日が浅いはず……だと思うのだが、様々な途中で帰還する者も多いので、まだ何とも言えないか。


「戦友だったのか。すまない、君の顔を覚えていない私の非礼を詫びさせてくれ」

「いえいえいえいえ! あの、わちゃしは本当にテントに籠ってましたので」


 謝罪する私よりも更に深く頭を下げるホイップ。

 冷静に考えると彼女は教職なのだから、生徒たる私よりも立場が上なので、私が偉そうに話していることも彼女が委縮しているのもおかしな話なのだが、どうにも昔馴染みと会うと素が出てしまう。

 それにホイップは一人称を噛むほどの可愛らしさを見せているので、非常に申し訳ないのだが、あまり年上という気がしなかった。

 このような女子になりたいものだ……目標にしようかな。


「しかし、よく耳の形などで分かるものだな。私が知らないだけでそれが普通なのか?」


 だとしたら耳も隠さなければならないのだが、ホイップは首をブンブンと横に振って応える。


「ふ、普通じゃないと思います! 私はあの、ゼノビア様のファンでして……ずっと見ていたので、それで思い至っただけです! す、スケッチとかも良くしていたので、それも手助けした形です」

「なるほど、観察力があるのだな」


 何処かキラキラした瞳でこちらを見つめるホイップの姿に、私は少し気恥ずかしくなって視線を逸らす。

 これでも英雄と呼ばれた者なので、それなりに羨望の視線と言うのは受けて来たのだが……これが慣れないものなのだ。

 特に女子からの視線は慣れない。

 こちらを男性のように見ているところがあって、非常にむず痒い。


「それで、何かの潜入任務でしょうか!? 学園に巨悪が潜んでいるとか!? あの、変装、完璧だと思います! 元の雄々しく猛々しいところが完全に消えていますから! すごい変装技術ですね……あんなにかっこよかったゼノビア様がこんなに可愛らしくなってしまって……私としては普段通りのゼノビア様が至高なのですが、たまにはじょそ……じゃなくて、女性装も任務では必要ですよね!」


 今この子、女装って言おうとしてなかったか?

 元々女子なのだが……?

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