14.可愛い子に可愛いと言われるとかわわいいになる(ならない)
どうにも任務だと誤解されているのは、まあ、私が仕事人間だったので仕方ない面もある。
更に言えば、その仕事人間な私がこの学園にモテ散らかしたいから来ているなんて、とても信じられないだろうな……。
さて、どうしたものだろうか。
ただ真実を告げれば良いだけかもしれないが「いや、めっちゃモテたいものでな! 男子からチヤホヤされたくてこの格好になった!」なんて言ったら、とんでもなく冷たい視線を浴びせられそうな気がする。
英雄色を好むと言っても、まあ嫌だろうなそんな英雄……。
冷たい目線だけなら涼しくていいのだが、むしろ熱くなられて私の正体をバラされると厄介極まりない。
そうなってはモテなどと言う希望は二度と持てなくなり、元の剣鬼に逆戻りだ。
それだけは避けなくては! もう文字通り血で血を洗いたくはない!
仕方ない、ここは嘘じゃないけど真実でもないという絶妙な誤魔化しをするしかないだろう。
「単純に学園生活というものを送ったことがなくてな。まあ、青春のやり直しというやつだ」
青春をやり直したいという気持ちには嘘はないが、その気持ちの根幹がモテにあるので、割と灰色の発言だったが、ホイップは何故かそれに大変感動したらしく、涙ぐむように目を潤ませる。
「なんと! それはそれは! 素晴らしく尊い……超尊いです! 戦場に明け暮れたゼノビア様が学園で同世代の子たちと過ごすなんて……ううっ……ちょっと泣けてきました」
「何故泣く」
『いや、僕も気持ちは分かるよ。あのゼノビアが学園に通うなんて……泣ける』
だから何故泣く。
学園に通うだけで感動しないでくれ。
むしろここからが本番なのだから。
「それで、私の素性は秘密にしてくれると助かるのだが……」
「はい! 勿論話しませんとも! 平穏な学生生活をお送りください! 私、何でも協力しますから!」
「ありがとうホイップ、では、まず頼みたいのだが──」
快く受け入れてくれるホイップから視線を逸らし、私はベッドへと寝かせたあの二人の方を見つめる。
「彼らは庭で戦いを初めてな。男子の方は足に軽傷があり魔力切れを起こしている。女子の方は『ひれ伏せる魔法』を受けて脳が揺らされた。対処をお願いしたい」
「あっ、はいー! すいませんすいません! 本業なのに私情で忘れててすいません! すぐに取り掛かります―!」
「いや、私のせいで気を逸らすようなことになってすまない」
ペコペコと高速で頭を下げつつ、ホイップはすぐにベッドへと急ぐと、アスクの足に触れる。
すると彼女の手は光り輝き始めた。
回復魔法特有の魔法光というやつである。
超一流の回復術師ともなれば、この光で戦場全体を照らすほどになるが、今はそこまでの規模は必要ない。
しかし、さすが本業の魔法光は綺麗だな。
聞きかじりでやると、色々とノイズが混じって、意外と綺麗に真っ白な光とはならなかったりするのだ。
私なんて、何でか知らないが回復魔法なのにどす黒くなるからな。
『逆に悪化させようとしてるのかってなるよね』
一応、治りはするのだがなぁ……滅茶苦茶痛いが。
「えっと、アリスさん……脳が揺れている方はもうそろそろ落ち着いて目を覚ます頃だと思います」
治療しつつも女子の方──アリスと言うらしいが──にもしっかり気を配るホイップは中々有能に思える。
そしてそんな彼女の声に答えるように、アリスは「んむむ」と小さな呻き声と共に体を起こした。
「あれ、ここどこ?」
「おはようございます。アリスさん」
すぐに淑女モードへと切り替えて、私はアリスの前に立つ。
一応、目覚めてすぐにアスクに襲い掛からないようにという警戒の意味もあった。
「うわぁっ!? だ、誰! っていうか、可愛いわね……」
おおっ! 可愛さが認められた!
しかも濡れ羽のように黒い髪を持つお人形のような美少女から認められた!
これは嬉しい!
それはつまり歴戦の戦士に褒められた兵士も同じなわけで、嬉しくないわけがなかった。
私はもう舞い上がってしまう。
「ありがとうございます! 可愛いです!」
「いや、世辞への感謝が凄いわね!?」
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