15.婚約破棄は惹かれ合う
ついつい興奮してアリスに詰め寄ってしまったが、しかし、詰め寄ったことでアリスの可愛さが更に際立ったもので、私の興奮は収まらない。
いや、少女に対して性愛を向けているのではなくて!
ただ単純にこんな可愛い子に可愛いと言われる私って超可愛いのではってなるだけ!
……それはそれでヤバい考えなのでは?
「すいません、アリスさんの様なえげつないほど可愛い人に褒められて嬉しいもので……」
「私、えげつないって言われたの初めてだわ」
「いえいえ、ご謙遜なさらず」
「いや、『ええっ~!? 私が可愛い~!? そんな風に言われたの初めてですぅ~!』って言ってんじゃないのよ! 可愛いさにえげつないって表現は普通しないって言ってんの!」
「すいません、世間知らずなもので……」
育ちが悪い上に戦場暮らしだったせいで適切な誉め言葉が見つからず怒らせてしまった!
えげつないはあらゆる物事に使える便利ワードだった思ってたのに……。
「まあ、なんか世間知らずっぽいのは分かるわ。どっかのお嬢様?」
「はい、セピア・ミーティアム! 深窓の令嬢です!」
「自分で言うそれ?」
「戦争が収まったのを機に家を出ることを許されまして」
「それは本当に過保護な親だったのね」
色々と誤魔化すためにセピアとして家の設定も考えてきたのがここで役に立った。
そう、私は過保護な良心によって長年屋敷の外を知らずに育ってきた箱入りお嬢様!
この設定の為に私はわざわざ屋敷の見取り図まで書いた……執事の名前もアーノルドってことになっている。
『そこの設定に凝る必要は皆無だったと思うけどね?』
世のお嬢様はみんな執事の名前を気安く呼ぶものではないのか!?
『呼ばないよ! アーノルド誰?』
と言うような会話をレイヴと心中で、そして表情に出さずに交わす。
もはや一心同体と言ってよいほどの関係なのでこれくらいは造作もない。
ただ、セピアのゼノビアが脳内で混じって非常にややこしいのであまりしないで欲しい。
「それで、セピアが脳グラングランのグラノーラになっていた私をここまで運んできてくれたの?」
「はい、医務の先生が言うには、しばらくジッとしていてば大丈夫だそうです」
言ってなかったかもしれないが、私の経験則では『ひれ伏せる魔法』はそれくらいの対処で大丈夫なはずだ。
むしろ教習では『ひれ伏せる魔法』を食らったら抵抗せずに素直に倒れてろ、そっちの方が安全だと言われるくらいだったりする。
「そう、ありがとうね。でも、よく1人で運べたわね。みんな私に近寄りたがらなかったでしょ?」
「あっ、いや、その、あ、アリスさんが軽かったからですよ!」
「私、確かにチビな方だけど、そんなに軽いかしら」
「軽いです! ほぼ無でした!」
「無はおかしいでしょ。私の中に何が入ってんのよ。いや、何も入ってないってこと?」
一応、剛腕を誤魔化してみてはいるものの、私が人を2人担いだ光景は明日にも噂になるだろうから、無駄な抵抗なのかもしれない。
そ、その時はこう身体強化魔法とか言い張るしかないな……!
実際は私が自分に身体強化を掛けると力加減が利かなくなって、人なんて担いだら骨砕いちゃうけど。
「というか、あの後、大丈夫だったのかしら。人形魔法暴走してなかった?」
「はい、ばっちり暴走してました」
「そんな明らかに暴走してたのね……うわー、アスク大丈夫だったかな」
「あの、どうして人形魔法を急に発動してたのですか?」
アスクの話に移ると、このまま隣で眠っていることまでバレてしまいかねないので、とっさに話を切り替えると、アリスは少し苦い顔をする。
「いや、私、アスクのこと好きなのよね」
「それはなんとなく分かります」
「というか、一応、幼馴染で親同士が認めてる婚約者なのよね」
「ええ! アスク……くんと婚約者なんですか!?」
「だったって言った方がいいかも。あいつ、学園に入るってなってから何か焦ってるみたいで、さっき、あの庭で、婚約破棄を申し出て来たの」
「ええええええええ⁉」
「そんでもうブチ切れよ」
ようやく事情が見えて来たけれど、なんとアリスはあの場で婚約破棄されていたらしい。
ということは、わ、私の仲間だ!
婚約破棄仲間!
いや、悲しい仲間すぎるな!?
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