17.友情は儚げな宝物

「アスター様は強く正しく美しく、そして何よりもお優しい。そんな素晴らしいお方なのだけど、アスクはそんなお父様を追い越せるよう、一刻も早く実力をつけたくて焦っているのよ」

「親を超えようという気概は良いと思いますね」


 男子として、そして息子として立派な心構えに思える。

 特に追いつくのではなく追い越そうと言うのが良い。


「まあ、それはそうよね。ただ問題なのは、明らかに反抗心で彼が動いてるってこと」

「反抗心ですか……若い時分にありがちという」

「そういうありきたりな意味でもあるし、もうちょっと複雑な意味でもあるわ。ほら、あの、アスター様って本当に素晴らしいお方なのだけど、その、独特の感性の持ち主なのよね?」

「まあ、そうですね。じゃなくて、そうらしいですね!」

「そこが嫌いみたいなのよねぇ」


 身体的には男性であるのだがアスターのメンタルは女性のそれに近い。

 アスター自身はさほどその違いについて明確にしようとはしていないし、男性だの女性だの、そんなのはどちらでも良いと思っているらしいが、私は彼女が私以上に女性らしく、そして見本としたい存在でもある為、彼女と呼んでいる。

 ただ、騎士を目指す息子としては、そのことが反発心を生んでいるというわけか……。


「まあ、あいつのことなんてもうどうでもいいわ。これからはこの学園でいい男探さないと」

「大変逞しくて結構なことだと思います」


 いつまでも婚約破棄を引っ張らない。

 それは破棄されたばっかりの私としても見習いたいところだった。

 これくらい強くないとな……。


「それでさ、貴女、なかなか面白いしいい子みたいだから、一緒に行動を共にしない?」

「え? 同盟の締結を求められていますか?」

「いや、そうじゃなくてその……魔法学園って、魔法っていう武器があるせいで結構物騒なのよ」

「確かに物騒じゃないと庭で戦闘は始まりませんよね」

「うっ」


 今一番物騒な自分の行いに胸を痛めながら、アリスは言葉を続ける。


「だ、だから、早めに友達とかいた方が有利なのよ! 互いの為に!」

「友達ですか!?!?!?!?」

「そんなに驚くことかしら!?」


 てっきり友軍要請かと思いきや、まさか本当に友を要請されていたとは。

 幼い頃、孤児院で過ごしていたあの頃なら、私にも友達と呼べる存在がいたのだけど、今となってはプライベートで遊ぶような間柄の人は本当にまるでいない。

 アスターのあれも呼び出したのは初めてのことだったしな……。


 大人になると友が消えると言うのはよく聞く話だけど、私の場合、それが10代の内に実現してしまったのだ。

 そんな私に友達という夢が! 華が! 希望が!

 こ、これが青春!

 青い! なんって青いんだ! あの空のように透き通っている!

 地は黒ずみ、空は淀み、人は赤く染まっていたあの戦場の日々とは大違い!

 

 ビバ学園生活!

 ビバ友情!


「友達! もちろんです! この世で一番欲しいものが友達だったんです私!」

「いかにも箱入りお嬢様っぽい反応ね」

「モテモテな上に友達もいたら無敵ですもの!」

「モテモテ? えっ、そういうキャラなんだ……」


 おっと!?

 つい口が滑ってモテ願望が口に出てしまった!


 私にも、モテたいモテたい言ってたらあまりいい顔をされないだろう、というくらいの常識はあるので、ずっと秘密にするつもりではいたのだけど、友達と聞いて浮かれすぎた。

 モテモテでも友達がいないといろいろ辛そうだしな……。


「ええっと、じ、実は、モテたくて学園に来たみたいなところもあります……せ、青春を謳歌したいんですよ」

「ああ、なるほど。やっぱり箱入りお嬢様なのね。ふーん、いいじゃない。可愛いしモテるんじゃないの?」

「やっぱりそうですか!」

「そんな全力で受け入れられても困るんだけど……ただ、今のままだと言動も頭もぶっ飛びすぎて心配ね。いくらモテたくても軽薄で怪しい変な男に捕まったら意味がないでしょ?」

「それは、まあそうですが」

「うん、その辺も私が色々教えてあげるから、よし、今日から友達ね」


 アリスはすっとその細く揃い腕をこちらに差し出す。

 一瞬、身構えてしまう私だが、彼女のその優しげな声で今という日常を思い出した。


「改めて、アリス・プリンデルよ。これからよろしく」

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