18.ピアピアしたいセピアちゃん
アリス・プリンデルだと!?
彼女の口から飛び出て来たその名前に、私は驚愕する。
『おっ、なんか知ってる名前だった? プリンデル家って有名?』
レイヴが興味津々で訪ねてくるが、驚愕の理由は有名だからではない。
アリス・プリンデル──その名前が驚くほど可愛すぎた為であるっ!!!!
『超どうでもいいことだったー! なんでそんなに名前の可愛さのこだわるのさ!?』
元々ゼノビアという謎に攻撃的な名前に生まれた為に、私の可愛い名前に対するこだわりは人一倍だった。
もうアリスって名前だけで、人名可愛さランキングの頂点付近に間違いなく位置しているのに、更にプリンデルとは……ここまでメルヘンな名前に現実で出会えるとは心底驚きである。
くっ、セピア・ミーティアムがそんなでもない気がしてきた……!
怯まずにもっと攻めた名前にするべきだったか。
いや、誇りを持て私!
セピアは可愛いはずだ! ピアピアしろ!
『ピアピアとは?』
可愛さという圧倒的な武器を前に弱気になる私だが、自分で付けたセピアという名前に誇りを取り戻し、アリスの差し出した細い手を慎重に掴み返す。
これで私にも友達が出来た!
しかもすっごく可愛い子が! お人形のような子が!
あまりに可愛いので、手をつないでいる間、私はもう握り潰しやしないかと、冷や冷やものだった。
可愛い子って本当に外観が細いから壊さないか心配になるんだよな……。
「ぜ……じゃなくて、セピア・ミーティアムです!」
「そんな噛み方することある?」
「すいません、少し自分の名前の可愛さに不安を覚えていまして……」
「自分ではどうしようもないことに悩まない方がいいと思うわ」
自分でどうにかした名前なのだけど、アリスの言うことは正鵠を得ている。
もうこの名前を変えることは出来ないのだから、迷っても仕方ないのだ。
「治療終わりましたー、ゼ……じゃなくて、セピア様……でもなくて、せ、セピアさんそちらはどうですか?」
初めての友達に感動していると、背後に掛かる真っ白なカーテンをシャーっと捲ってホイップが入って来た。
どうやらアスクの治療は終わったらしい。
「いや、なんで同じ噛み方しているのよ。そんなにセとゼって噛むもの?」
「ええっと、先生、ドジっ子なもので」
「ドジっ子なら仕方ないですね!」
「ドジっ子って自分で言わない方がいいわよ?」
私も慣れていないが、ホイップもまるで慣れていないので、状況は酷く不安定なものになっていた。
不安定と不安定が掛け合わさってもはや地震並みの不安定さ!
いや、突然上官がやって来たような状況のホイップはまだしも、私は慣れておけよという話だが……。
「それで、えっと、アリスさん。もう回復した様なら先生、貴女を連行しないといけないのだけど」
「はいはい、怒られる心構えは出来ています」
「セピアさんは入学式もすぐにあるし、早く行った方がいいわ」
「あっ、そういえばそうでした」
いきなりバトルが始まったので完全に忘れていたけれど、式に向かう途中なのだった。
もうあれからそれなりに時間が経っているし、このままだと遅刻してしまう。
私としても念願の入学式なので、是が非でも出席したいのは確かなのだが──しかし、残されたアスクも気になる。
……どうしたものだろうか。
いや、ここは私の願望より戦友の息子を優先しよう。
どうやら複雑な精神状態にあるようだし、その辺の話も聞きたい。
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