7.そっくり?
「セピア様ですね。どうぞご入場ください」
立派な門の前に立つローブを来た男に入学許可証を見せると、あっさりと私は城の中へ通された……偽の名前を呼ばれながら。
まだ慣れてない名前に私は戸惑いながら、ワンテンポ遅れて、その声に応えて歩き出す。
そうだった……今の私はゼノビア・セプティミアではないのだった。
『わざわざ偽名にしたんだ』
胸元でこっそりとレイヴが囁く。
その声は骨伝導のように私の耳に届いた。
「我ながら有名すぎましたから。ゼノビアを一捻りしてセピア、いい名前でしょう?」
『捻り過ぎて捩じ切れてる感じあるけど、可愛いし良いと思うよ』
大変不名誉なことに捩じ切れネーム呼ばわりされてしまったが、まあ、可愛いなら良いとしよう。
そして、そう、セピアは私の考えた偽名である。
フルネームはセピア・ミーティアム。
なかなか可愛く仕上がったと、我ながら高らかに叫びたくなる自慢の名前だ。
儚げな美少女として日々を過ごすため一番の壁となるのは、間違いなく血生臭い過去だろうと考えた私は、辞書を片手に必死に偽名を考えた。
別に適当に決めても良かったのだけど、どうせならモテそうな名前が良かったのだ。
そもそもゼノビアという名前にはあまりにも可愛さが足りなかったように思う。
しっかり考えて付けてくれた孤児院のシスターには申し訳ないのだけど……ゼノという響きがもう可愛くない!
悪役感がある!
よって、変名は単純な素性隠し以外にも印象を変える意味もあった。
立場や姿、名前を変えるとまるで別人のように振舞えるというのはよくある話で、そういう効果も狙ってはいる。
可愛い子は名前まで可愛い気がするしな……。
『というかよく偽名を学園に通せたね』
「ここの学園長とは知り合いでして、無駄な騒ぎを避けるためと説明したら快く受け入れてくれました」
『戦場フレンズ、略して戦フレの人?』
私の交友関係は戦場関連だけだと思われているらしい。
否定は……否定は出来ない!
「どちらかと言えば戦フレのフレンドのフレンドくらいの関係ですね」
『他人じゃないそれ!?』
「他人相手でも友達のように接してこそ淑女というものですよ」
『なんかそれっぽいこと言ってる!』
胸元のレイヴと、囁くように話しながら私は人混みを進む。
周囲には私くらいの年代の人間が──とはいっても私は誕生日も不明なので自分の正確な年齢が分からないのだが──たくさんいて、それぞれが騒がしく廊下を歩いていた。
この人混みの中では私の声などかき消されてしまうだろうし、その上、口を動かさずに話しているので、この場にいる誰も私が剣と話しているなどとは思わないだろう。
口が動いていてもそんな突飛なことを考える人はいないだろうが。
性格は軽いレイヴだが、実際のところかなり高性能なので、本当に誰にも聞こえないくらいの声量で話しても聞き取ってくれるのだ。
よって、会話には苦労しない……最も、己の剣と話す日々はこの学園で卒業したいものだが。
そんなことを考えながら、人混みに流されるように石造りの廊下を進んでいくと、庭を一望できる開けた場所に出る。
何の気なしにその緑色の光景に視線を向けると──とんでもない美少年がそこにはいた。
私が生きてきた中で最も美しい男子の姿に、私は思わず立ち止まる。
その美しさに目を奪われたから……ではない。
知り合いによく似ていたからだ。
「似ているな」
『えっ、誰に?』
レイヴはまだ気付いていない様子だが、彼も良く知っている彼女に似ている。
空のように青く輝くような髪、透き通るように白い肌、そして翡翠色の瞳。
華奢な体つきだけは大きな差異だが、それ以外は色濃く彼女の血を感じさせる。
「恐らく──アスターの息子だ」
『いや全然似てないよ!!!!! えー!? というか、子供いたの!?』
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