9.石に躓く
「アスク嫌い! いや好き! 好きだけどクッソ嫌い!!!!」
「知らねぇよ。さっさと俺の目の前から立ち去れ」
キレたように叫び、複雑に指を動かし人形を操る少女を冷たくあしらいながら、アスクは人形を華麗に──とはいかないまでも何とか躱している。
見た限りでは戦闘経験は少なそうだが、父親譲りのセンスの良さがあるらしい。
将来有望だが……今はまだ学生並と言ったところか。
私が介入しなくても何とかなりそうならそれが一番だったのだが、両者共に中途半端に魔法が扱える為、大怪我に繋がりかねない危険性があった。
特にあの『ひれ伏せる魔法』は少女の魔法との相性が悪い。
やはり止めるしかないか……私なりのやり方で。
私は人差し指の先に親指を引っ掛けると、庭の隅に転がっていた石ころをその上に乗せる。
そして全力で──弾き出す!
ただが石、されど石。
石は文明の最古の武器であり、そして最古の凶器に違いないと、私は思う。
戦場においても投石は有用な攻撃方法であり、簡易に用意することができ、弓より風の影響を受けにくく、また鎧の上からでも一定の打撃を与えられる為、かなりの厄介さを秘めていた。
特に簡易に用意できるという点と訓練の必要の薄さから魔物との相性が良く、まるで雨のような凄まじい数の投石攻撃を頻繁に受け続けたので、実は私は石にかなりトラウマがあった。
やつらは凄まじい剛腕で一斉に石を投げてくるので、本当に恐ろしい……。
今回は大きく投げる動作では目立ちすぎるので、石を小石に、腕を指先にして代用しようというわけだ。
『腕の変わりって指で可能なんだ……』
レイヴが引いたような声を上げているその時、石は既に私の思い通りの場所に命中していた。
その場所とは、少女の指先である。
物体を操る魔法は何らかのトリガー、即ち動作を必要とするため、それが阻害されると上手には操れなくなる。
どうやら彼女の様子を見るにどうやらそれは指のようだったので、それを邪魔してみようと思ったのだ。
これなら目立たずに無力化できる上に、相手に大きなダメージも与えない。
戦場では絶対に選ばない、我ながら実に淑女的な方法だ。
『淑女は石を投げないけどね』
言われてみればそんな気もしてくるな……。
「いったーい! ゆ、指が攣った!?」
指先の鋭い痛みで思わずその手を内に引っ込める少女。
人形の動作もそれに従って停止したのだが、問題はアスクの方だった。
その隙を見逃さすに、彼は『ひれ伏せる魔法』を少女へと放つ。
勿論、油断せずに止めを刺しに姿勢は正しいのだが、問題はそれによって何が起こるかを彼が理解していない点だった。
『ひれ伏せる魔法』は相手をほぼ無傷で無力化できる人道的手段だが、この場合、少女は人形を操っているのだ。
つまり、脳が揺れようものなら……。
放たれた魔法は少女に直撃し、ぐらんぐらんと頭を揺らす。
すぐにたっていられなくなると、彼女は地面にペタンと座り込んだ。
「ま、マジで当てたなー! し、視界が……揺れて……うっぷ」
その瞬間、彼女の指先がでたらめに動き出し、それに応えるように巨大な人形も暴れ始める。
そしてその拳はアスクの方へと──
「しまっ──」
予想だにしない人形の挙動に虚を突かれたのか、それとも戦いは終わったと油断しきっていたのか、アスクは回避しきれずに顔をしかめる。
そして私はとっさにそんな彼を庇うために走り出していた。
間に合え……!
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