21.昔話に鮮血の華が咲く

 

「『真紅の剣鬼』ゼノビア・セプミティア……俺はあの人に並びたい! ゼノビアに比べたら親父なんて通過点だよ」


 ゼノビア・セプミティアか……なるほど彼の憧れはなかなか攻撃的な名前をしているようだ。

 特にゼノの部分が悪役っぽい……ん?

 わ、私では!?


『当たり前でしょ。何をとぼけてるんだよ』


 レイヴが呆れたような声を上げているが、いや、私は肩がぶつかっただけで魔物の肉を削いだりしないし、一振りで千の魔物を消し飛ばせない!

 精々数百程度だ!


『一撃で数百倒せたら十分でしょ』


 どうやら戦場からこちらへ話が伝わっていくにつれ、話に尾ひれも背びれも付きまくったらしい。

 困った話だが、まあ、情報の伝播の過程で齟齬が出るのは、ある程度はどうしようもないことなので諦めるほかない。

 問題はそんなゼノビア・セプミティアに憧れている彼のほうである。

 

 何故素直にアスターに憧れないのか! 

私などいつもゴリ押しで美しさの欠片もない戦いをしているというのに。

 しかもレイヴの能力に助けられた部分も多いので、私一個人の活躍とも言えないのである。

結果的にレイヴの攻撃が派手に見えるせいで、武名が嫌に上がってしまった面もあるが。


『武器はあくまで武器だから、全ての結果は所持者が受け入れるべきだけどね。良しも悪しも』


 この件に関して、レイヴはかなりドライな態度を取っている。

 自分なりの武器哲学があるらしい。

 

 しかし、私のせいでアスターの株が下がっていると思うと、かなり心苦しい面がある。

 派手な活躍が目立つ一方で、地道に、そして緻密に裏を支える者の存在が軽んじられているのは非常に悲しいことだ。

 そしてそのせいで親子関係が冷え切り、果ては婚約破棄に繋がったのだとすれば……その責任は巡り巡って私にあると言えた。

まるで『妖精が踊ればティーカップが売れる』ということわざのような状況が、私のせいで引き起こされているのかもしれない。


戦友の為、そして新しい友の為にも、なんとかしなくては……!

とりあえずアスターのかっこいいエピソードを話すとしよう。


「アスター様は崖に出くわしてもその氷壁魔法で立派な橋を架けて進軍可能にするなど、非常に汎用性の高い活躍を見せていてですね……」

「マジで詳しいなお前。執事にそんなに詳しく教えて貰ってたのか」

「は、はい! アーノルドは筋金入りの戦士だったようで……ただ、この話には、橋の細部にこだわった為に、ユニコーンのオブジェも作ってしまい、想定より時間が掛かったというオチもあるのですが」

「ダメダメじゃねぇかうちのクソ親父!」

「いや、戦場には普段ないそういった美しい芸術を見せることで兵士の心を癒そうという狙いが……多分あります!」

「憶測かよ!」


 憶測だが、ただ純粋に時間をロスするような真似をする人ではないので、あのオブジェにも必ず意味はあったはずである。

 こう……ペガサスをおびき寄せて現地で馬を確保しようとしたとか……。


『その擁護はさすがに無茶があるよ!』


 とにかく! アスターは様々な場面で活躍する素晴らしい騎士だったのだ!

 私は本当に破壊しか出来ないので、美しい橋を造る彼女の姿に深く尊敬したものなのだが……。


「クソ親父はいいからゼノビアの話とかはないのか」

「ええっと、そんな派手なのはない気がしますね……砂漠地帯で亀に食われた時に、内部から破壊する方がすんなりいくことに気付いて、以降、食われ戦法が身に付いたとか、そんな話しかないです」

「十分面白いからな!? 他にはなんかないのか」

「そうですねぇ、では、これはわた……ゼノビア様が片翼のないペガサスを見つけたときの話なのですが──」


 なんだか盛り上がってしまい、その後、私とアスクは時間も忘れて話し込んでしまった。

 私としても昔話を語るのは楽しいもので、どうにも口が止まらない。

 嗚呼、これもおじさん化の一端か……。

 

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