25.ざますとかも現実でみない

「さあ、あれが南方寮やで」

「なるほど……」


 校舎を飛び出し、鬱蒼とした森の中を進んでいくと、歴史を感じさせる佇まいの洋館がそこにはあった。

 壁にはツタが取り巻き、屋根は少々欠けていて、窓には日々が見える。

 なかなか年代物な雰囲気は出ているが、逆に言えばきちんと屋根もあるし、壁に穴も開いていない。

 要するに──


「良い家ですね」

「ほんまに言っとるか!? ボロもいいところやぞ!」

「雨風は防げそうですし、何より古風で素敵じゃないですか」


 基本的に私はピカピカで真新しい場所が苦手である。

 騎士になって与えられた屋敷もあるのだけど、あれは我が家であるはずなのに非常に居心地が悪かった。

 恐らく、物が壊れやしないか汚れやしないか、そんなことばかり考えていたせいだろう。

 自分の屋敷、という認識が弱く、どうにも気が休まらないのだ。


 それに比べると目の前の寮はちょっとやそっとの破壊も汚れも目立たなそうで大変良い。

 そもそも家は屋根があって壁があれば万々歳。

 その上、部屋もあるのなら、もはや文句のつけようがないというものだ。


「お嬢様風な見た目してるのに、変わっとるなぁ」

「あっ、えっと、し、新鮮で楽しそうですわぁ!」

「急にお嬢様っぽいこと言い出すやないか」

「お嬢なので!」


 お嬢様エミュレートで何とかその場をしのぎつつ、ケットルと共に寮内へ入っていくと、中は案外綺麗なもので、誇り1つ見当たらない。


「内装は綺麗やろ? 掃除するのは骨が折れたで」

「疲労骨折ですか?」

「物理的に折れるかい! 折れたのはメンタルや!」

「ケットルは寮の為にすごい頑張っていますね」

「まあ、押し付けられたようなものやけど、寮長やってるからには色々やらんとな。無責任が一番嫌いなんや」

「大変素晴らしい姿勢だと思います!」

「あんがとさん。まあ、立ち話もなんやから、学園からぶんどって来たソファーに腰かけようやないか」


 何やらお高そうなソファーをポンポンと自慢げに腰かけるケットル。

 交渉か何かで手に入れたのだろうか? 非常に立派で、お高そうなソファーだった。


 どうして彼女の為に寮が作られ、そして寮長をやっているのか、その理由はまだ分からないけれど、彼女なりにその使命を全うするつもりはあるらしい。

 真面目かつ強い意志が感じられて、ケットルは非常に好感の持てる人柄をしていた。


「その子が新入生ですわね!」


 ソファーに腰かけて周囲を見渡していると、何やら背後から高らかな声が聞こえてくる。

 すぐにふりかえってみると、そこには毛量のある金色の髪を1つに束ね、ごんぶとなポニーテールを作っている美少女が。

 見た目からもう力強いのだけど、自信満々と言わんばかりのその表情は更に力強く、そして声の質も力強い。

 総合的に見てパワーのありそうな人だった。


「あの如何にもなお嬢様はルジェ先輩。性格最悪やから気を付けてや」

「目の前で良くもまあ堂々と言えますわね! しかし、性格の悪さも貴族の嗜み……許しますわ!」

「見ての通りそこそこのアホで、なんでもお話に出てくるような嫌味なお嬢様に憧れているらしい」

「ああいうキャラに憧れる人もいるんですね……」


 ヒロインの方に憧れてこの学園に、この容姿になった私からすれば驚きの話だった。

 言われてみれば彼女の容姿も、何処かそういうキャラに寄せている気がしないでもない。

 

『というかですわってお話の中でしか見ないからね』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る