第04話 扉を開く
国王騎士の制服を着るが、これはいつも着ているものとは色が異なる真っ黒。これは、国王が俺のためだけに特別に作ってもらったものだ。国王に言われなければ、着ることのない制服。
言ってしまえば、これは国王からの嫌がらせだ。初めて国王に会った後日に『真っ黒な君はとても醜い。そんな君を心から受け入れてくれるのは私だけだよ』と再度言いながら、俺に渡したそれ。
この国にいる黒い鳥人族は俺だけ。獣人族にも黒い者はいない。だから、そんな俺に近づこうとする者は少ない。だから、国王も受け入れてくれるものは自分だけだと言ったのだろう。
でも、今ならわかる。俺の周りにいる国王騎士達は、俺を受け入れてくれている。当時はそうでもなかったけれど、今は気にしている者なんかいないのだ。はじめて会う者や、久しぶりに会う同期の者はあまりいい顔はしないけれど昔よりは受け入れてくれている気がする。俺に対する態度が皆変わっている気がするのだ。
それだけではない。こんな黒い俺を好きだと言ってくれた女性だっていた。俺だって、伝えたかった言葉。まだ伝えることができていないその言葉を、今度は俺が返さなくてはいけない。
今から走って向かえばまだ間に合う。部屋から出て、外へ向かう。忘れ物なんかない。家の鍵さえ持っていれば他はいらない。
家から出ると、鍵を閉め、ちゃんと鍵がかかっているのを確認して城へと向かう。城へは全速力で走る。最近では全速力で走ることはなかった。その必要もなかったからだ。
周りの者達が走る俺を見て、何かあったのだろうかと首を傾げている。色は違うけれど、国王騎士の制服を着ていると見ればわかるため何かあったのかと尋ねてくる者もいない。もしかすると、遅刻しそうで慌てているのかもしれないと思われている可能性もある。
一度も遅刻をしたことがないけれど、間に合わないかもしれないと思うところが少しはあるため、遅刻しそうな者の気持ちがわかるような気がする。けれど、遅刻は謝れば大丈夫であることが多い。でも、俺は謝ったって意味がないだろう。
走りながら城内へ入ると、数人のメイドに驚いたような顔をされた。それもそうだろう。今まで俺は走りながら城に来たことはない。足を止めて、息を整える。そして、1人のメイドが目に入った。
「あ、あの!」
「はい? って、ギルバーツさんではないですか。どうかなされましたか?」
彼女は抱えるようにして、国王騎士の装備品の1つである刀を持っていた。それは、刃こぼれをしているものなのだろう。治せるものは治してもらうが、それ以外は処分すると聞いたことがある。
それは処分するものなのか、治すものかはわからない。でも、今はそのうちの1本がほしかった。誰かを傷つけるつもりはないけれど、もしものために持っていたかったのだ。きっと、国王の元には護衛として国王騎士がいるのだろうから。
「それを1本……貸してくれませんか?」
そう言うと、彼女は驚いて少し考えるようなそぶりをした。国王騎士は護衛の仕事をするときは、刀を所持していることが多い。だから、国王騎士は自分の刀を所持している。持ち出す際は、紛失を避けるために書面に名前を記載するのだ。
それをせずに、借りようとしている俺に何か思うところがあるのだろう。もしも無断で貸して、何かがあったら彼女にも責任を取らせなくてはいけなくなるのだ。
「ギルバーツさんがそう言うのなら、どうぞ」
「え……いいんですか?」
「いいですよ。国王陛下の元に行くんでしょうけど、貴方がそうまでしなくてはいけない理由があるんですから」
もしかすると、彼女はスワンさんに何かを聞いていたのかもしれない。1本の刀を手に取り、お礼を言って『謁見の間』がある場所へ向かって走り出した。
なるべく足音をたてないように気をつけながら走るが、猫科の獣人族とは違い完全に足音を消すことはできない。それでも、できるだけ静かに『謁見の間』へと向かう。
どうせ室内にだけではなく、閉じられた扉の前にも国王騎士がいるだろう。誰がいるかはわからないけれど、もしかしたら使えるのかわからない刀で戦わないといけないのかもしれない。そう思うと、刀を持つ手に力が入った。
階段を上り、『謁見の間』へと走り続ける。廊下の途中で鳥人族の男性が『謁見の間』へと向かって歩いている姿が目に入った。彼も結婚式の参加者なのかもしれない。彼の横を通りすぎたとき、小さな声で「頑張れよ」と聞こえた気がしたが、気のせいだと思うことにして振り返ることもしなかった。
扉が見えてくると、先ほどよりも足音をたてないように気をつける。なるべく、室内にいるであろう国王騎士に警戒されたくはない。『謁見の間』に入った瞬間に対面するのが刃ではありたくない。
扉の前に2人の国王騎士の姿が見える。立っているのが誰かなんてわかりはしない。もしものために右手で刀の柄を握る。けれど、扉の前にいる国王騎士と目が合った瞬間、刀の柄から手を離した。刀を抜く必要がなかったからだ。
そこにいたのは、ロベリアが休憩室に来たとき一緒にいた国王騎士だった。何時もと様子の違う俺をみて、何となくわかったのだろう。俺が何をしにきたのか。
彼らは何も言わずに、邪魔にならないようにと左右に移動すると壁に背をつけて目を閉じた。それは、彼らなりの何も見ていないという意思表示なのだろう。見ていないというのは無理があると思いながらも、俺は彼らの好意を受け入れて扉の前に立った。
一度大きく息を吐き、ゆっくりと息を吸うと勢いよく扉を開いた。
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