最終章
エピローグ
一つの鞄を持って、私は自室から出た。今日、私はこの家を出る。もちろん家族全員が認めてくれたので、私は笑顔で家を出ることができる。それに、家を出ると言ってもギルの家で同棲をするだけで、帰ってこようと思えばすぐに帰ってこれる距離。
玄関に向かうと、そこには母様と話しをしているギルがいた。何を話しているのかは聞こえなかった。近づくとすぐに気づいたギルが私に向けて微笑んだ。
「荷物はそれだけでいいのか?」
「近くだから、必要だったら取りに来ればいいもの」
「そうね。いつでも取りにきなさい」
母様の言葉に頷くと、ギルは玄関の扉を開いた。すると、丁度仕事から帰ってきた父様と、一緒について行っていたキースが歩いてくる姿が見えた。
昨日から出かけていたため、見送りには間に合わないかもしれないと言っていた。けれど、間に合ったようだ。
少し眠そうな顔をしながら、キースが駆け寄ってくる。もう会えないというわけでもないのに、涙目になっている。私の右腕に抱き着き見上げてくる。
「よかった、まだいた」
「家を出るって言っても、すぐ近くなんだから」
「でも、毎日会えるわけじゃない」
寮に入ってたときも毎日会っていなかったでしょうとは言わなかった。ゆっくりと近づいてくる父様と目が合うけれど、すぐにギルへと視線を向けた。
それに気づいたギルも、目を合わせた。お互い何も言わず、私と母様も何も言わずにその様子を見ていた。
ギルは私から父様のことを聞いているから、何を言われるのかと身構えているように見える。けれど、父様は何を考えているのかわからない。ただ、文句を言うつもりはないようだ。
「娘を……ロベリアをよろしく頼む」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
頭を下げて言う父様に、ギルも頭を下げて答えた。以前だったら、頭を下げることもなかっただろう父様にギルは僅かに驚いたようだった。
キースは私に抱き着き、ギルを睨みつけている。父様が認めて人族以外のことも見直しているとはいっても、キースは人族以外が嫌いなのだ。
納得しているとは言っても、嫌いなのは治らない。だからどうしても睨みつけてしまうのだろう。これは時間が解決してくれるかもしれないし、ずっと治らないかもしれない。
抱き着くキースを離して私はギルの横に並んだ。
「それじゃあ、また来るね。次は家に案内するね」
家を教えなくてはいけない。父様はきっと知っているだろうけれど、それでも住んでいる家をしっかりと教えておけば、何かあった時に尋ねてくることもできるだろう。
見送る母様達と窓から見送るワイナに手を振り、ギルの家へと向かう。
「鞄、持つよ」
そう言ってギルは、私の荷物が入った鞄を持った。とくに重くはないけれど、気遣いが嬉しかった。
「ギルは、城に戻るんでしょ?」
「休憩時間が終わったらね」
「いつ終わるの?」
「シロンが言うには、ロベリアの片づけが終わったららしい」
それは、私が家に行って鞄の中を片づけたら終わりということ。シロンはもしかすると、気遣ってくれたのかもしれない。けれど、荷物は少ないからすぐに片づけ終わってしまうだろう。
ゆっくり片づけてもいいかもしれないと思うけれど、仕事に支障が出るかもしれない。そう考えると、ゆっくり片づけようとは思えなかった。
「ねえ、ギル」
「ん?」
「これから、よろしくね」
「当たり前だろ?」
そう言って私の右手を取り、ギルはまるで誓うかのようにキスをした。初めてのそれに、私は驚いたと同時に顔が赤くなるのを感じた。
不思議そうに私を見たギルだったけれど、私につられたのか僅かに顔を赤くしてそのまま私の右手を掴む。
「帰ろう、俺達の家に」
「ええ、そうね」
手を握り返し、私は微笑んだ。きっとこれからも多くの困難が待ち受けているだろう。
それでも、ギルと一緒にいればどんな困難でも乗り越えることができる気がした。だって、これからはギルとずっと一緒にいることができるのだから。
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