第07話 一目会いたいと思ってしまった
父親であろう男性に女性が無理やり連れて行かれたのを見て、俺は暫く何も言えなかった。他の仲間達は先ほどの女性の言葉で固まったままだ。だから、俺に結婚しないのかと尋ねてきた仲間に問いかけた。
「あの女性は何者なんだ?」
もしかすると知らないかもしれない。知らない可能性のほうが高い。そう思いながら問いかけると、他の仲間達は俺の言葉に驚いたようで目を見開いた。
「お前、知らないのか?」
「あいつは『悪役令嬢』だ」
そう呼ばれている女性がいるということだけは知っていた。けれど、それが誰でどんな人物なのかは知らなかった。それがあの女性だと知っても、何故か当てはまらなかった。
「名前は……ロベリアだったか」
「あの子も他の者達と同じで両親と友人と来たのかもな」
「え……」
その言葉にまた驚かれた。どうして驚くのかと不思議に思う俺に、仲間達は同時に溜息を吐いた。それには俺だけが驚いた。
そして、テーブルが壊れるのではないかと思うほど力強く仲間の1人が右手で叩くと俺の言葉を否定するように口を開いた。
「あの女に友人はいない」
「え?」
「わざわざ『悪役令嬢』と友人になる奴なんていないだろう。自分だけじゃなくて、家にも悪い噂がついて回る」
「あることないこと言われるだろうな」
そう言って盛り上がる仲間達の言葉を聞きながら、俺は昔のことを思い出していた。それは、顔も覚えていない人族の少女。今はきっと綺麗な女性になっているだろうと思える容姿をしていただろうとおぼろげには覚えている。
そのときの少女が、俺の気になっている女性。ずっと忘れることができなかった唯一の女性だ。きっと、先ほどのロベリアという女性と年齢が同じくらいだろう。
――あの子は、友人と思っている人はいないと言っていたな。ロベリアという女性も同じなのか。
何故かロベリアという女性を気にしてしまう。それは、あの少女と似ているからだろう。あの少女には今、友人はいるのだろうか。いてほしいと思う。そして、ロベリアという女性にも友人と言える者ができればいいと思う。
1人は寂しいのだ。1人の寂しさを俺はよく知っている。だから、友人ができればいい。そう願いながら、あの少女に一目でいいからまた会いたいと思ってしまった。
きっと、ロベリアという女性に会わなければ思うこともなかっただろう。街に出たときにさり気無く探してみるのもいい。この街にはもういないかもしれない。結婚しているかもしれない。それでも、探してみようと思った。
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