第12話 憎悪
突然学校の寮に入れと言われ、僕の拒否する言葉を聞き入れることなく無理矢理寮で暮らすこととなった。父さんは僕の言葉を聞き入れてはくれない。僕が跡継ぎになるのに、何も聞かないなんておかしい。
同級生に、突然寮に入った理由を聞かれて『大勢のものと生活することも勉強になる』と答えておいた。その回答には全員が納得したようで、それ以上追及されることはなかった。
それなのに、父さんは突然帰って来いと学校に連絡をしてきた。いったいなんなのか。授業が終わり、寮に戻ろうと思ったところで担任から告げられた言葉。
一度寮に戻り、着替えて宿題をすませて帰宅したのはこれから晩御飯だろうという時間だった。寮に入れと言ったり、戻って来いと言ったり勝手な父さんの部屋に帰宅の挨拶へと向かった。
どうせ一時的な帰宅だろうから荷物は何も持って来ていない。それに、自宅なのだから何も持ってこなくても困ることはない。
父さんの部屋の扉をノックして、返答を聞いてから扉を開いた。父さんは机を背に立ち、腕を組みながら窓の外を見ていた。何を思って外を見ているのかは分からない。
扉を閉めて、机の前に立っても父さんは何も言わない。話すまで話しかけないでいようと考え、とあることが気になった。
帰宅してから姉さんの声を聞いていない。姿も見ていない。喧嘩をして間もなく寮に入れられてしまったから、あの日が最後に見た姉さんの姿だ。今日は姉さんに会えるだろうと思っていたのに、声すら聞こえないということはおかしい。
まさか、姉さんに何かあったのだろうか。それで父さんが僕を呼びつけた。いや、それはないだろう。姉さんが、事故にあったり何かの理由で亡くなったとしても父さんから連絡が来るはずない。そういう場合、連絡してくるのは母さんだろう。
それなら、どうして連絡してきたのか。父さんが話しをすれば、理由はわかるだろう。それにしても、どうして父さんは嬉しそうなのか。背中を見ているだけでも伝わってくるが、窓に映る口元に笑みが浮かんでいて嫌な予感がする。僕にとって最悪なことが伝えられるのではないのか。
「喜べ、キース。これで我々も王族の仲間入りだ」
どういうことなのか。王族の仲間入りができるから父さんは嬉しいのだとわかる。けれど、どうして王族になれるのか。それに、僕はべつに王族にならなくてもいい。
王族になれば今よりは楽な暮らしができる。だから父さんは嬉しいのかもしれない。けれど、僕にはどうでもいいことだ。
突然王族の仲間入りだと言う父さん。そして、姿を見ない姉さん。きっと、これは姉さんが関係しているのだろう。
「明日、国王陛下とロベリアの結婚式がある」
「え?」
「私達家族と、国王の信頼できる者の数人しか参加はしない」
姉さんの結婚式。それは、姉さんの意思なのだろうか。姉さんは僕のことが好きなのに。
――……嫌、違う。
姉さんは僕のことを弟としか見ていないと言っていた。好きだとしても、意味が違う。でも、この結婚は姉さんの意思だとは思えない。
「それは、姉さんの意思?」
「ロベリアの意思なんか関係ないだろ?」
笑みを浮かべたまま僕を振り返った父さんに、僕は殴りかかりたくなった。姉さんの意思までを無視して王族になりたいのか。
僕が言えることではないけれど、酷過ぎる。それでは、姉さんが可哀想だ。目の前で笑う父さんは、僕が睨みつけていることにも気がついてはいなかった。
これ以上一緒にいたら本当に殴ってしまいそうだ。だから、何も言わずに部屋を出た。この怒りを何処に向ければいいのか。
国王に向けることができるのならそうしたい。けれど、そんなことはできない。でも、姉さんを僕から取る者は許せない。
僕が納得できる理由がない限り、たとえどんな者であろうと許せない。全員が、僕の憎悪を向ける対象となる。
明日は姉さんの結婚式。その横に本当なら僕が立っていたいけれど、そんなことは無理だと理解はしている。だから、姉さんが納得しているならいい。もしも納得していなかったら、そのときは僕がどうにかしよう。
そう思いながら自室に入り、明日の準備をすることにした。
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