第五章

第01話 いい日になりますように





 鏡に映る姿を見て、綺麗だと思った。自分自身ではなくて、ウエディングドレスが。夢に見ていた純白のウエディングドレスをこんな形で着ることになるとは少し残念に思う。

 好きな男性と結婚するときに着たかった。好きでもない国王との結婚式で着なきゃいけないなんて、今着ているウエディングドレスが可哀想だ。なんたって、鏡に映る私の顔が嬉しそうではないのだから。

 このウエディングドレスだって、幸せだと笑顔でいる女性に着てもらいたかったはずなのに。鏡に映る自分に向かって溜息を吐いた。

 先ほどウエディングドレスを見って来たスワンさんに着替えを手伝ってもらったのだけれど、サイズが私に丁度良かった。どうしてサイズが合っているのか。私に用意されていた服にも言えることだった。

 私がこの部屋に入ったときすでに用意されていた服。それらも私のサイズに合ったものだった。偶然というにはおかしい。だから、スワンさんに尋ねた。するとスワンさんは微笑みながら答えてくれた。

「国王陛下が事前に用意させていたんですよ」

 それは、国王は私の服のサイズを知っているということだった。国王という立場から、調べれば何でもわかってしまうのかもしれない。けれど、正直気持ち悪いと思ってしまった。付き合ってもいない、好きでもない男性が私の服のサイズを調べる。気持ち悪いとしか思わない。

 思わず顔が引きつる私を見て、スワンさんは何も言うことはなかった。私が思っていることがわかったのかもしれない。

「ウエディングドレスもわざわざレンタルしてきたんですか?」

「いいえ。このウエディングドレスは、ロベリア様のために国王陛下が作らせたものです」

 レンタルでいいのに、わざわざ作らせたことには驚いた。それに、もしも私が結婚することを拒んだらどうしたのだろうか。家族のことも、ギルのこともどうなってもいいと考えて結婚を拒んでいたら。きっと、違う誰かが着ることになったのかもしれないし、処分されていたかもしれない。

「ロベリア様、貴方にとって今日はとてもいい日になると信じてください」

 そう言い残してスワンさんは頭を下げて静かに部屋から出て行った。ウエディングドレスを着て、結婚できるというのは本来幸せなことだし、いい日になること間違いないだろう。

 けれど、私にとっては違う。でも、信じていれば私にとっていい日になるのだろうか。昨日も言っていたスワンさんの言葉。何を思って言っているのかはわからない。

 でも、信じていれば本当にいい日になるというのなら信じてもいいかもしれない。だから私は信じてみることにした。

「今日は、いい日になりますように」

 目を閉じ、両手を顔の前で組んで小さく呟いた。これで本当にいい日になるかはわからないけれど、信じるしかないのだ。










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