第02話 結婚式





 あれからどのくらい経ったのかはわからない。スワンさんが扉をノックして、静かに入って来た。結婚式の時間になったのだ。行きたくはないけれど、行くしかない。

 スワンさんに連れられて向かうのは『謁見の間』。そこで結婚式を行うのだという。私の家族と、城の関係者数人がそこで待っているという言葉に、嫌だと思う結婚式であっても緊張してくる。小さく震える手に、スワンさんの手が触れる。

 何も言うことはなかったけれど、それだけで大丈夫だと言われているような気がして少しだけ震えは治まった。

 扉の前で立ち止まると、中から話し声が聞こえた。そして、その話し声が途切れると扉の左右に控えていた国王騎士の2人がゆっくりと問いらを開いた。

 開かれた扉から室内を見ると、集まっている人数はとても少なかった。左右に一列だけ椅子が並び、右側に父様、母様、キースと3人の国王騎士が座ってた。キースの姿を久しぶりに見たけれど、正面を向いているため視線が合うことはなかった。

 左側には6人の国王騎士が座っていた。他にいるのは、玉座があった場所に立っている牧師様と国王だけ。

 スワンさんに左手を引かれて、ゆっくりと室内へと入ると、背後で静かに扉が閉じられた。静かな室内に私とスワンさんの足音だけが響く。

 数段ある階段の上には、玉座がない。邪魔になるから移動したのだろう。階段の下まで歩いて行くと、スワンさんは手を離した。これからこの階段を1人で上がらなくてはいけないのだろう。

 すぐに上りきってしまうことのできる階段だけれど、今の私にとってはとても長い階段を上るような気持だった。

 笑顔で待っている国王の顔が見たくなくて、私は俯いてゆっくりと階段を上る。背後に突き刺さる視線。その中に、まるで睨みつけているように感じるものがある。それは、父様だ。ここで失礼なことをしたら、結婚できなくなるから私を睨みつけているのだろう。

 でも、今の私にはこの結婚を止めることはできない。今日は、いい日になりますようにと願ったとしても結婚を止めることはできないのだから。

 階段を上り、国王の右に立つ。国王は私を見ているけれど、私は顔を上げて牧師様を見るだけ。国王の顔を見るつもりはなかった。

 そんな私を国王は気にすることはなく、同じように牧師様をみた。私と国王、そして椅子に座る者達を見て牧師様は咳払いをして口を開いた。

「新郎ルード・リオニー、あなたはここにいるロベリア・アルテイナを妻とし、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを誓いますか?」

「誓います」

 はっきりと言った国王に、神父様は満足気な顔をした。本来、ここで誓わない者はいない。それでも、国王のような立場の者の牧師様をできることは嬉しいのだろう。きっと、彼は嬉しいに違いない。

 国王の結婚式で牧師様をできるなんて、とても名誉なことだろう。

 牧師様はゆっくりと国王から私を見て、同じような言葉を私に向かって言った。

「新婦ロベリア・アルテイナ、あなたはここにいるルード・リオニーを夫とし、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを誓いますか?」

「……」

「新婦ロベリア?」

 何も答えることができなかった。だって、私は国王と結婚なんかしたくないのだから。それに、どうして国王は私と結婚したいのか。私の本当の父親が、国王の両親を殺した責任を取らせるために結婚するのだとしても、国王が私と結婚する利益はないだろう。

 それに、国王は私のことがどちらかというと嫌いだろう。今更ながら、国王が私と結婚する理由を聞いていなかったと思い左に立つ国王を見上げた。責任を取らせるために結婚するというのはおかしい。結婚ではなく、私を幽閉でもして罰を与えればいいのだ。

 ここで結婚する理由を尋ねるのはおかしいことはわかっている。それでも、聞いておきたかった。しかし、口を開いたと同時に開かれた扉の音が響いた。

 全員が驚き、扉を振り返った。そこにいたのは――。










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