第02話 本屋
目的の本屋には10分ほどで辿り着いた。この本屋には父様は絶対に訪れることはない。何故なら、店員が獣人族だから。ここに人族は1人も働いていない。だから、出かけた父様と鉢合わせになることもない。父様は人族の店員がいる本屋に行くのだから。
天井まで本が詰まった本棚を眺めながら、目的の本を探す。簡単に見つからないことはわかっているから、気になるタイトルの本があれば手にしてみるということを何度も繰り返す。
読みたいと思えば購入するのだけれど、今のところ購入したいと思う本はなかった。それでも、気になる本は多い。
擦れ違う店員は顔なじみが多く、挨拶をする。私が来る本屋はここなので、顔なじみとなっているのだ。店員も私が何を探しているのかを理解しているのだろうけれど、探すことも好きだとわかっているため私が尋ねるまでは何も言わない。
「あ、ここらへんかな?」
探している本と同じジャンルのものを見つけて、一冊一冊を確認していく。どれも同族同士の恋愛もの。もっと大きな本屋で探さなくてはいけないのかもしれない。そう思いながら別の本も確認していく。
すると、突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ロべリア……さん?」
「え!?」
聞き覚えのある声が私の名前を呼んだため、驚いて勢いよく声が聞こえは方向を見た。そこにいたのは、ギルバーツさん。どうりで聞き覚えのある声だと思ったけれど、まさかこんなところにギルバーツさんがいるとは思わなかった。
何か本を探しに来たのだろうか。そうだとしても、ここのコーナーにいるのはおかしい。いや、はじめて訪れたのなら、わからなくてここのコーナーにくるかもしれない。
それよりも。
「あ……こんにちは。私の名前、知ってたんですね」
「教えてもらったんだ。貴方の名前とかいろいろ」
「そう、なんですね」
話したいことは、いっぱいあった。けれど、本人を目の前にしたら何も言葉が出なかった。
「あ、あの。ギルバーツさんはどうしてここに?」
「本を頼まれたんだ」
そう言って本のタイトルが書かれている紙を差し出してきた。そこには私も知っている恋愛小説のタイトルが10冊分も並んでいた。
これは誰が読むのか。そして、誰に頼まれたのか。頼まれたと言いながら、本当はギルバーツさんが読むのか。別に男性が読もうと関係はない。しかし、10冊分ということに驚いた。
「彼女さんに……頼まれたんですか?」
「違うよ。俺に彼女はいないからね。スワンさんに頼まれたんだ」
微笑んで言うギルバーツさんに、気づかれない程度に安堵の息を吐いた。彼女はいない。それなら、私にだってまだチャンスはある。
スワンさんに頼まれたという本。彼女自身が探しに来ればよかったのではないかと思うけれど、もしかすると彼女は国王の側を離れることができないのかもしれない。だから、ギルバーツさんが休憩時間に探しに来たということも考えられる。
国王騎士の格好をしたままここにくるということは、休憩ということだろう。それ以外で本屋に来ることはないだろう。休みの日だったらここへ来るかもしれないけれど、国王騎士の格好のまま訪れはしない。
「それなら、私も探しますよ」
「え? でも、ロベリアさんも本を探していたんでは?」
「気にしないでください。それに、2人で探した方が早いですよ」
私の言葉に少し考えた様子のギルバーツさんだったが、言葉に納得したのか頷いた。
「それじゃあ、頼めるかな?」
「はい。任せてください」
休憩時間にも限りがある。それなら、一緒に探した方がいいと判断したのだろう。その言葉に私は笑顔で頷いた。
少しの時間だけでも、ギルバーツさんと一緒にいることができるのがとても嬉しかったのだ。
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