第03話 一目見ようと
紙に書かれた本を探しながら、私はギルバーツさんに質問をしようと思った。
「どうして、ギルバーツさんが本を探しに来たんですか? スワンさん自身が探しには来れなかったんですか? それに、他の方とか……」
「スワンさんは国王様から離れられないからね。他の人はそれぞれ休憩時間は休みたいって言うし、俺は街に出たかったからついでに探しに来たんだ」
ギルバーツさんはそう言うと詳しく教えてくれた。
スワンさんが国王から離れられないのは、国王の指示に間違うことなく素早く対応できるからだという。週に一度は休みをもらえるそうなのだが、その日は他の者が国王についているらしく、スワンさんのように間違えることなく指示に従えるわけではないらしい。
スワンさんは言われる前に国王が欲しがっているものを渡したりするが、他の者は言われてから渡し、それが求めているものと違うということが多いらしい。そのため、国王はスワンさんを休憩時間でもそばから離さないのだという。
国王の側で休憩をとるため、欲しいものは他の者に頼むのだ。休みの日に購入すればいいのだけれど、いつも別の街にいる知り合いに行くため購入する時間がないらしい。
他の者も疲れているため、休憩時間には街に出ようとは考えないとのこと。しかし、ギルバーツさんは街に出る予定だったため本を探すことを引き受けたのだという。
「どうして、街に出ようと思ったんですか?」
見つけた一冊の本を手にして、ギルバーツさんに問いかけると、ギルバーツさんは手を止めて私を見た。どうしたのかと私も手を止めて目を合わせると、少し考えるようにしてから口を開いた。
「ロベリアさんに会ったあの日、ずっと忘れられない女性に会いたいと思ったのです」
「え」
私に会った日から、どうして会いたいと思うようになったのか。そして、忘れられない女性とはいったい誰なのか。
気になったけど、私はそれについて問い返すことはできなかった。けれど、気になっているということがわかったのだろうギルバーツさんは続けた。
「昔、貴方のような少女に会ったことがあるんですけど……ロベリアさんに会ってから会いたくなったんです。当時は少女でしたが、忘れることができず、きっと今は美しい女性になっていることだろうと思ったら探してみようと、一目見ようと思ったんです」
思い出しながら話すギルバーツさんに、それは私なのではないかと言いたくなった。けれど、言う必要はない。何故なら、ギルバーツさんが会いたいのは美しくなった女性。
私は、ギルバーツさんが思うような女性にはなっていない。
あの日、私がギルバーツさんに想いを伝えたから、今まで抑えていた会いたいという思いが強まったのだろう。それなら、私が伝えない方がいい。本人が気づくまで黙っていた方がいい。
それに、もしかすると私のことではないかもしれない。本当に別に気になる少女と出会っていたのかもしれない。
「その女性と会えたらいいですね」
「ありがとう」
笑顔で言う私に、ギルバーツさんも笑顔を浮かべて答えてくれた。その顔を見て、やっぱり好きだと思う。ギルバーツさんがどんな男性なのか、私はまだ知らない。それでも、好きなことには変わりはない。
そんな好きな男性には幸せになってほしい。だから、探している女性が私ではなくても会えればいいと本心から思った。
そうして私とギルバーツさんは本探しを再開した。
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