第05話 気になる女性






 俺は現在、国王の目の前で傅いていた。

 あれから俺は城に戻って、偶然廊下で会ったスワンさんに本を渡して休憩室に戻った。あと少しだけ時間があったので、お茶を淹れていつもの椅子に座った。

 そうして、先ほど一緒に本を探してくれたロベリアさんのことを思い出す。彼女は『悪役令嬢』と呼ばれているのに、何故かそんな感じは全くしなかった。それは何故なのか。

 それに、彼女はどうして『悪役令嬢』と呼ばれているのか。真逆のように優しい彼女が『悪役令嬢』と呼ばれるようになった経緯を知りたかったが、知り合って間もないのだから聞くこともできなかった。それに、そんなことを聞いたら失礼だろう。だから、そのうち聞ければいい。

 ――あれ? なんで聞くこと前提なんだ?

 不思議に思うことは他にもあった。街に出たのは、あの少女を探していたからではないのか。確かにスワンさんに頼まれて本を探しに行ったが、一番の目的はあの少女だったはず。きっと、あのときの面影を残しているであろう少女だった女性を探す。

 それなのに、いつの間にかそのことを忘れていたような気がする。彼女と過ごしていて楽しいと感じていたのだ。

 それだけではない。俺は彼女のことを知っている気がしたのだ。もしかすると、どこかで会って話していたのかもしれない。あのときの少女ではないとは思うけれど、考えてみればロベリアさんとあのときの少女は同じくらいの年ごろ。

 彼女が探している少女の可能性もなくはない。

 ロベリアさんと過ごした短い時間を思い出し、誰にも気づかれない程度に笑みを浮かべて、紅茶を飲み干して静かにカップをテーブルに置いた。

 休憩時間も終わりだと、椅子から立ち上がると扉のノック音が響いた。休憩室をノックする者はほとんどいない。ここを利用する者はまずノックをしないため、利用しない他の誰かであり、俺がいることを知っていて俺に用事がある者の可能性が高い。

 カップを使用済み置き場に置いておけば、あとで回収しにやって来る。時間があれば洗うのだが、誰かが来たのなら洗っている時間はない。カップを置いて、扉へと近づいてゆっくりと開く。

「はい?」

 こちらはこれから仕事。だから、用事があったとしても長居はできない。そう思ったのだが、そこにいたのはスワンさんだった。

 それで誰が俺に用事があるのかを理解してしまった。彼女はいつも国王の側にいる。部屋から出て、静かに扉を閉めるとスワンさんを見つめた。

「国王陛下がお呼びです」

「了解した」

 通路を歩き出したスワンさんの後ろを黙ってついて行く。そして辿り着いた部屋で、俺は国王に傅いていた。

 ただ黙って笑みを浮かべる国王は何も言わない。用事があって呼びつけたのだろうが、国王が何かを言うまでは口を挟まない。何故なら、機嫌を損ねてしまうからだ。

 仕事があるから早くしてほしいとは思うが、俺のこのあとの仕事は国王の側にいればいいのだからこのままの状況でもべつに構わないのだ。

 国王は黙って俺の様子を眺めたあと、5分ほどたってから漸く口を開いた。

「私はね、ギル。この間のパーティーで気になる女性を見つけたんだ」

「そうなのですか。では、次のパーティーにもお呼びに?」

「いや、個人的に呼ぼうと思っているんだ。……呼んでもいいよね?」

 どうしてそんな確認を俺にとるのか。国王が個人的に誰かを呼んだら、断る者はいない。断ると何が起こるかわからないからだ。

 もしかすると、家を潰されかねない。ここ数年で、この街を出て行った者も少なくはない。

「気になったのはね、未婚の人族女性なんだよ」

 その言葉に思い浮かんだ人族女性はロベリアさんだった。彼女が国王に近づいた様子はなかった。もしかすると、休憩している間に挨拶をされたのかもしれないと思ったが、俺が休憩室に入って間もなく彼女は来た。挨拶をしている時間はなかったはずだ。

 それなのに、国王は彼女が気になったという。嫌、彼女ではないかもしれない。人族の女性は、たしか他にもいた。未婚であったのかはわからないけれど、いたのだ。

 国王が気になった女性というのが、ロベリアさんでなければいいと何故か思ってしまったが顔には出さなかった。

「じゃあ、スワン。近々彼女を呼んでくれるかい?」

「はい。畏まりました」

 俺が呼ばれたのは、これの報告のためだったのだろう。どうして俺に告げたのかは理由はわからない。けれど、何か考えがあってのことだろう。

 話はすんだのか、それ以上は何も言われなかったため立ち上がった。スワンと目を合わせると、彼女の反対側に立ち小さく息を吐いた。

 国王が気になった女性はそのうち誰かわかるだろう。そこに俺が呼ばれるのかはわからないけれど、この様子だと今回と同じように呼ばれる可能性が高い。

 そして、そのときに見る女性がロベリアさんでなければいい。そう強く願った。










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