第11話 近くまで




 朝食をたべながら、先ほど気づくことができなかったロベリアの格好を見た。昨日着ていたロベリア自身の服を着ている。

 昨日寝る前に干していたが、どうやら乾いていたようだ。代わりに、洗濯籠に夜ロベリアが着ていた服が入っていた。仕事から帰ってきたら洗濯すればいい。そう考えながらソファーに座るロベリアの隣に座った。

 朝食はロベリアが用意したトーストとサラダだった。朝はいつもトーストを食べているから俺は構わなかったが、ロベリアもそれでよかったのかと尋ねると、朝はあまり食べることができないためトーストでよかったようだ。

「本当は、べつのを用意しようとしたんです。でも……包丁が触れなくて」

「俺が包丁を使えるから、ロベリアは俺が包丁で切ったものを調理すれば問題ないよ」

「え?」

 トーストとサラダを食べ終わり、自分で淹れたコーヒーを飲みながら、今自分で言ったことを考えた。驚くロベリアを見て、おかしなことを言っただろうかと思ったからだ。

 考えてみれば、おかしなことを言っていた。まるで、ロベリアと料理をする機会が今後あるかのような言葉だったのだ。

 きっと、ロベリアが好きだと自覚してしまったため出てきた言葉なのだろう。今後、そうなればいいと無意識に思ったのかもしれない。

「……そうですね。私が触れなくてもギルが、切ってくれる。そうすれば問題ないですね」

 微笑むロベリアに頷いた。どのように捉えてくれたかはわからないけれど、ロベリアは包丁を使わずにできることをすればいいのだ。

 食後のコーヒーを飲み終わったロベリアは、小さく「今日帰ってみます」と呟いた。

「それなら、近くまで送って行くよ」

 その言葉に、ロベリアは驚いたようでわずかに目を見開いて俺を見た。何かおかしなことを言っただろうかと首を傾げた。

 たとえ朝であっても、女性を送って行くことはおかしいことではないだろう。どうして、そんなに驚くのか。

「送って……いただけるんですか?」

「朝であっても、昨日の者達に絡まれる可能性もあるし……家の場所を知っておけば、またこのようなことがあっても送って行けるからね」

 玄関まで送ると、父親に見られてロベリアが質問攻めにされるかもしれないから近くまでだけどと付け足すと、ロベリアは小さく笑って、そうですねと呟いた。

 それから2人で食器を片付けて、家を出る準備をする。ロベリアにお礼を言って、洗ったお弁当箱を返却した。

 受け取りながら、また作ると言ったロベリアの言葉に俺は大きく頷いた。

 俺の仕事もあるため、8時を過ぎてから家を出た。少し余裕があるため、大通りを歩きながらロベリアの家へと向かう。

 一応昨日の者達がいないか確認しながら歩くが、歩いている人数が多いためか確認することはできなかった。もしもいたら、また絡んでくるかも知れないと思ったが、昨日のあの様子だと俺がいたらきっと近づいても来ないだろう。

 途中から城とは逆の方向へ歩きだし、5分ほどして見えてきた門がある大きな家が自宅だと言った。近くにある家よりも大きいそれにわずかだが驚いた。

 聞いたことはないけれど、ロベリアの両親は何の仕事をしているのだろうか。もしかすると、同僚達は知っているかもしれない。けれど、そのうち聞けばいい。

 足を止めて、ロベリアは振り返り俺を見た。ここでお別れなのだ。

「送っていただき、ありがとうございます。仕事頑張ってくださいね」

「ありがとう」

 手を振って門の中に入ったロベリアは、一度振り替えると頭を下げて玄関へと向かった。家に入る姿を見届けてから俺は来た道を戻りはじめた。

 今から城へ向かっても、時間には間に合う。今日は仕事も早く終わる予定だ。帰宅したら洗濯をして、お風呂を洗って、ゆっくりお湯に浸かろうと考えた。

 だから、ロベリアが笑顔の父親に玄関で遭遇したなんて俺は知らなかった。





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