第07話 兄
正式な国王とはどういうことなのか。今、階段の上にいる国王は正式な国王ではなかったというのだろうか。そうだったとしても、国王には簡単になれるものではない。たとえ父親の跡を継ぎ国王となったのだとしても、それは正式なものではなかったということなのだろうか。
「認めない!」
「認めないとかじゃなくて、決定事項なんだ。書いてあるだろ? アフェリア王国前国王と王妃の公式次期国王証明書って。そして、エレニー王国現国王の許可サインもあるだろう?」
アフェリア王国前国王と王妃ということは、現国王ルードの両親だ。生前公式次期国王証明書を残していたのだろう。しかし、どうして彼が次期国王として選ばれたのか。
自分の息子であるルードには国王を任せることができないと判断したからなのだろうか。けれど、その答えは彼からすぐに聞くことができた。
「お前はリオニー領の領主を任されただろ? 国王はこの私。お前の双子の兄である、シロンだ」
「双子の……兄?」
ギルの小さく呟いた声が聞こえた。国王騎士であるギルが知らなかったということは、彼――シロンの存在は隠されていたのだろう。他の国王騎士も驚いているようで、誰も国王に兄弟がいることを知らなかったようだ。
そして、国王はシロンが死んだと思っていた。だから驚いていた。公式次期国王証明書を持ち、震えている国王は睨みつけるようにシロンを見ていた。その目には殺意がこもっているように見えて、私は思わずギルの左腕に抱きついてしまった。
自分に向けられているわけではないけれど、怖かったのだ。今の国王は何を言うのかわからない。その殺意が自分に向けられるかもしれないのだ。
左腕に抱きつく私の頭に、ギルの右手が優しく乗せられた。視線は国王とシロンへと向けられているけれど、大丈夫と言われている気がして少し落ち着くことができた。
「だから、国王である私が許すし認めてあげるよ。ギルバーツ・ノーマント。ロベリア・アルテイナ。君達2人が付き合うことを、国王である私が認めてあげる。何だったらこのまま君達の結婚式でもしちゃう?」
真剣な眼差しで私とギルに言ったのに、シロンは最後には優しく笑いながらそう言った。国王に付き合うことを認められたら、父様だってきっと文句は言えないだろう。
横目で見ると、不満そうな父様がみえたけれど何も言うことはなかった。もしかすると、シロンがいなくなれば文句を言われるかもしれないけれど。
「結婚はまだ。ロベリアの両親に認められない限りは、結婚はしません」
「付き合うことは否定しなかったってことは、付き合いはするの?」
「ええ。俺は、ロベリアが誰よりも好きだから。国王を裏切り国に追われることになってもいいと思えるほどに」
ギルは国王を裏切ったのだ。命令違反をし、結婚式に乗り込んで国王から私を奪ったようなものなのだから。シロンが現れなければ、きっと国王の命令で国を追われることになっていただろう。そして、捕らわれるまでどこまでも追いかけて来ていただろう。
その覚悟をしてまで私の元に来たのだ。私もギルに抱きついたときに覚悟は決めた。でも、この様子だとその心配はいらないようだ。
「さて、ルード」
再びシロンの視線は階段の上にいる国王へと向けられた。国王はいつの間にか両膝をついて座っていた。その体からは完全に力が抜けているように見えた。
シロンはゆっくりと階段を上り、国王の前に辿りつくとしゃがみ込んだ。
「今頃、エレニー王国から馬車が来てるはずだ。それに乗ってエレニー王国へ行け」
それだけ言うと、国王――ルードはゆっくりと立ち上がり階段を下りた。すぐにスワンさんが近づいてきたが、それは馬車に向かわないかもしれないという考えから見張りとしてついて行くためだろう。
ゆっくりとした足取りで『謁見の間』を出て行くその背中を、誰もが何も言わずに見ていた。
「さてと。それじゃあ、少し長い話をしようか」
そう言うとシロンは階段に座り、話しはじめた。それは、先ほどルードとも話していた事故のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます