第09話 国王の子供





 シロンは数日前から、アフェリア王国のスワンさんの自宅に宿泊していたという。私にカフェの場所を尋ねたあの日、スワンさんと待ち合わせをしていたという。スワンさんは1時間ほど遅れてきたようだったが、その日に城での出来事などを話したという。

 そして、とあるものを持って一度エレニー王国へ戻ったのだという。持って行ったもの。それは、ギルの抜けて落ちた羽だという。どうして持ち帰る必要があったのか。それは、彼がお世話になっていた城の住人に関係があったのだ。

 城にはメイドと執事、コックなどの他に国王家族が住んでいた。そして、14年前まではもう1人一緒に住んでいる者がいた。それは、ずっと血の繋がりがあると思っていた子供。

 国王の名はウェルツ・エレニー。王妃の名はミント・エレニー。その息子の名はナイン・エレニー。現在の国王である。コクホウジャクの鳥人族である父親とコクマルガラスの鳥人族の母親から生まれたナインは、父親譲りのコクホウジャクの鳥人族となった。しかし、彼の弟は違った。

 血の繋がりがあるのに、先祖にもいないハクトウワシの鳥人族。もしかして病院で取り違えが起こったのかと思い、病院へ赴いたが、その病院はすでになくなっていた。生まれてすぐに引き合わせてもらうこともできなかったため、本当に自分達の子供だという証明できるものがなかった。あるとすれば、病院だけなのに病院もない。

 どうするかと考えていたときに、城へ訪問者があった。それは、ギルの育ての親。彼らは、街のものに尋ねながら城へと来たのだという。ハクトウワシの鳥人族がいるという情報で尋ねてきた彼らを見た国王――ウェルツはすぐに両親だと気づいたという。

 彼らも自分の子供だとわかったようで、すぐに子供を引き取って行った。子供は文句を言うことはなかった。本当の両親だとわかっているようだったらしく、出て行くときは何も言うことはなかった。ナインからそれを聞いたシロンは、冷たい子供だと思ったそうだ。

 元々あまり仲はよくなかったらしく、血の繋がりがなかったと言われてしまうと納得できたそうだ。シロンはその子供とは会ったことがなかった。しかし、それから本当の弟を探しているとナインは言った。それは両親も同じ。

 ギルの育ての親に聞いても、知らないとしか言わなかったそうだ。もしかすると、彼らは自分の子供を奪ったと思っていたのかもしれない。そんな意味もないというのに。

 探していると聞いたシロンは、どんな種類なのかもわからないナインの弟を探すことにした。それは、居候をしている自分が唯一できる何かとも言えた。

 そして、7年前にスワンさんがアフェリア王国の城で働くメイドとして城を出て行ったという。彼女は城に住んでいた、国王の弟の娘だった。

 探すのなら別の国に行くのがいいだろうと思った彼女は、城のメイドに仕事を教えてもらい、アフェリア王国の城で働くことを許されたのだ。

 すぐに国王であるルードに気に入られたスワンさんは多くの者と交流することができた。そして、その中にいたのがギルだった。アフェリア王国にいる唯一の黒い存在で、ハシボソガラス。もしかすると彼が弟なのかもしれないとシロンに教え、どうにかして知ることができないかと考えた。

 そして、最近ではDNA鑑定ができるようになっていた。もしかすると弟かもしれないと思ってから7年がたってしまっていた。国王達に確認してもらえばよかったが、騒ぎを起こしたくなかったし、もしも違ったら申し訳ないと思い伝えることもしていなかった。

 だから、ギルが落とした一枚の羽でDNA鑑定をしようということになった。黙って、ナインの羽を一枚拝借してDNAが一致するかを調べた。

 すると、一致したという。そのことを話すと喜んでくれたという。すぐにでも会いたいと言われたが、シロンは首を横に振った。それもそうだろう。ギルはそれを今知らされるまで知らなかったのだから。突然両親だと言われても戸惑うだろう。

「だから、私が正式に国王となって会わそうと考えたのさ」

 予定より少し早まってしまったが、それは構わないと言ってシロンは微笑んだ。

「俺が、エレニー王国の国王の子供……」

 事実に驚くギルに、私は気持ちがわかる。立場は全く違うけれど、私も両親だと思って暮らしていたけれど、本当の両親ではないと知り驚いた。

「まあ、そうだとしても気持ちに変わりはないからな」

 そう言って私を見てギルは微笑んだ。私も気持ちは変わらない。ギルが国王騎士だから好きになったわけでもないのだから。

 国王の息子という事実には驚いたけれど、ギルはギルなのだ。微笑み合うギルと私を見てシロンも微笑んだ。

「キース!!」

 そんなときだ、突然父様の声が聞こえた。まるで、キースを止めようとする慌てた声。どうしたのかと思い、キースが座っていたイスを見た。

 そこにいたのは、ナイフを手にゆっくりと近づいてくるキースだった。






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