第10話 私の意思





「手荷物検査してなかったのか……」

 シロンの言う通り、手荷物検査をしていなかったようで、キースはナイフを持ちこめたようだった。国王の結婚式だというのに、手荷物検査をしないとはいったい何を考えているのか。

 けれど、ギルは手荷物検査をしていない理由がわかっているようだ。小さく「城にほとんどいなかったしな」と刀の柄に右手を触れさせて言った。

 城に手荷物検査をするだけの人数が残っていないということなのだろう。私との結婚を黙っていたかったとしても、城の警備が手薄になるほど人数を減らすのはいかがなものだろうか。

 近づいてくるキースを見て、私とシロンを庇うように前に出たギルはゆっくりと刀を抜いた。その刀はどこから持ってきたのかと思うほど、見てわかるほどに刃こぼれをしていた。

「キース……やめなさい」

 父様の声が聞こえる。キースの行動に驚いているのか、聞いたこともないほど弱々しい声だった。まさかキースが刃物を持ち込んでいるとは思わなかったのだろう。

 しかも、今目の前には国王がいるのだ。ルードではなく、エレニー王国の国王にも認められた正式な国王シロンが。

 もしもシロンに怪我をさせたら、大変なことになる。そうわかっていても、父様は止めることができないようだった。

「僕は、認めない! たとえ国王に認められても、僕は納得できない!!」

 その声は震えているように聞こえた。以前言った私の言葉を理解していないのだろうかと思ったけれど、少し様子が違うような気がする。

 私が言った言葉を考えて、答えを出しているような気がする。そう思うと、私はギルの後ろからキースへと近づいた。ギルは驚いていたけれど、私を止めることはしなかった。

 何か考えがあるのだろうと思って、行動しないでいてくれたのだろう。

「姉さん、姉さん。これは、姉さんの意思なの? 姉さんの意思じゃないなら、僕は!」

 そう言ってギルを睨みつけるキースを見て、私は手を伸ばせば触れることができる距離で立ち止まった。キースの怒りの矛先が私に向いていないから近づくことができたのだろう。

 ナイフを持っているのに、怖いとは思わなかった。

「国王だったルードとの結婚は私の意思じゃないわ。彼がどうして、私と結婚しようと思ったのかも知らない。けれど、ギルが好きというのは私の意思」

 真っ直ぐ目を見て答えると、私の言葉に納得したのかキースはナイフを持つ手をゆっくりと降ろした。

 わかってくれたのだろうと思い、小さく息を吐いた。けれど、ナイフを強く持ち直したキースは突然ギルに向かって行った。

 驚いて何もできない私とは違い、ギルは素早くキースの攻撃を避けると、刀を抜いた。そして、キースのナイフを持つ手を振り上げた刀の峰で振り下ろして叩いた。

 手加減はしているのだろうけれど、痛みからキースはナイフを落とした。叩かれた手を摩りながら、小さく息を吐く。

「……姉さんが好きなら、仕方ないよね」

 そう言った言葉は小さかったけれど、はっきりと私とギルの耳には届いていた。

 落としたナイフを拾うと、キースはナイフをシースに収めて懐に仕舞った。そして、私とギルではなくシロンを見て頭を下げた。

「騒ぎを起こして申し訳ありません」

「怪我がなかったから構わないよ。納得はできたのかい?」

「ええ。姉さん自身が好きな男性を見つけたのなら、僕は構いません」

「そうか。……手は冷やさなくても?」

 その言葉には何も言わずに頷いただけだった。怪我がなかったのは私達だけで、キースはギルの刀で手が赤くなっている。

 けれど冷やす必要もないと頷き、自分の座っていたイスに座った。もしもこのまま私がルードと結婚をしていたら、キースはナイフをルードに向けていたのだろうか。

 疑問は残るけれど、とりあえずキースが納得してくれたようで私は安心した。










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