第11話 いつか訪れるかもしれない





 罪に問われることもなかったことに、父様は安心したのか小さく息を吐いた。シロン自身に怪我がなかったのだし、私もギルも本気で刃を向けられたわけではないと気づいていたからキースに何も言うことはなかった。

 それに、キースが私とギルを認めてくれたのだと態度からもわかる。認めてくれたのなら、何も言うことはない。

 父様は国王に認められたからなのか、何も言わなかった。母様は嬉しそうに微笑んでいる。元々文句を言わずに応援してくれていたので、私が好きな男性と付き合うことができるということが嬉しいのだろう。

「ギル、私達付き合うってことでいいんだよね?」

「ああ。俺は、誰よりもロベリアが好きだよ。だから、結婚を前提に付き合ってほしいよ」

 家族がいて、他にも大勢がいるというのに私達は気にすることなくそう言った。自分達の世界に入ってしまっていたのだ。

 そんな私達を見て、シロンが一度咳ばらいをした。

「さて。スワン、そこにいるんだろう?」

「ええ」

 シロンは廊下に向かって声をかけた。すると、廊下からスワンさんが姿を見せた。どうやら、ルードを馬車まで送り届けたようだ。右手には薙刀を持っているが、もしかするとキースが攻撃しようとしたときに室内に入ってこようとしたのかもしれない。

 薙刀を扉の前に立っている国王騎士の1人に渡して、スワンさんは室内へと入ってくる。シロンへと近づくスワンさんは、一度立っている国王騎士達へと視線を向けた。

 その目は、国王を守れないのかと言っているように見えた。しかし、室内にいた国王騎士達はシロンが国王になったという事実に思考が追いついていないようだった。

 シロンの横に立ったスワンさんを見て、シロンは微笑んで口を開いた。

「実はね、これから国民に国王が変わったことを伝えようと思う。それと、私とスワンの結婚も伝えようと思う」

「……え? 結婚?」

「ああ、言ってなかったね。私とスワンは恋人だよ」

 私達は国王となった瞬間を目の前で見ていたからいい。けれど、国民はどうだろうか。新しく国王になっただけではなく、突然結婚を伝えたら混乱するのではないだろうか。現に、私達も驚いているのだから。

 結婚は3日後にするというシロンに、私は着ているドレスを見た。このドレスをスワンさんが着るのだとしたら、手直しをしなくてはいけない。手直しは間に合うのだろうか。

「ドレスは?」

「大丈夫ですよ。すでにエレニー王国のほうで手配済みですので」

「ロベリアさんの着ているドレスは、君達の結婚式のときまでこちらが大切に保管させてもらうよ」

 笑顔で言ったシロンは、どうやら本気で言っているようだ。私とギルがいつ結婚するのかもわからないのに、結婚すると信じているようだった。

 もしも結婚しないという選択をしたらどうするtのだろうかと考えるけれど、口に出すことはしない。

「今回はお騒がせしたね。結婚式にはあなた方を呼ぶから、是非来てくれ。それに、他にも呼びたい者がいるから楽しみにしているといいよ」

 そう言ったシロンは、私達家族とギルへと視線を向けた。誰を呼ぶのかわからないけれど、シロンの様子から私達の知る誰かを呼ぶのかもしれない。

 そう考えていると、シロンの横に立っていたスワンさんが私に近づいてきた。どうしたのだろうかと思い、スワンさんを見ると軽く私の右手を掴んだ。

「いつまでもドレス姿でいたら、ギルバーツが見慣れてしまうわ。見慣れてしまう前に着替えましょう。貴方達の結婚式のときに驚かせないとね」

 私の右手を引っ張るスワンさんに大人しくついて行く。ギルではなくルードのために着飾った私を、確かにこれ以上見られたくはなかった。ギルのために着飾るそのときまで、このドレスともお別れ。

 部屋から出るときに、私は父様を見た。すると、父様は私を見ていた。すぐに視線を逸らされてしまったけれど、何かを言いたそうにしていたように見えた。

「ロベリア様」

「スワンさん、あの……呼び捨てで構いません」

「それなら、私のことも呼び捨てで呼んでください」

 私を見ずに名前を呼ぶスワンさんにそう返した。何故なら、スワンさんは国王と結婚するのだから。今までと同じように呼ばれるのはおかしいだろう。そう思い、言った言葉に微笑みながらスワンさんは返してきた。

 見えないだろうことはわかっていたけれど、私は頷いた。頷いたことがわかったのは、スワンは小さく笑ったようだ。

「ロベリアとギルバーツの結婚式には是非呼んでくださいね」

 その言葉に私は大きく頷いた。いつ結婚するなんてわからないけれど、当たり前だと思った。シロンとスワンのお陰で、私はギルと一緒にいられるのだから。

 そんな2人を呼ばないなんて考えられない。いつか訪れるかもしれないそれに、私は今から心を躍らせたのだった。










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