第04話 私の両親
母様の言葉に私は驚いた。頭が理解をすることを拒んでいる気がしていた。
母様が言ったのは「貴方の両親は私達じゃない」だったのだから、仕方がないと言える。けれど、本当に私の両親が2人じゃないのならどこにいるというのか。
母様は静かに、私の本当の両親はべつにいると言った。しかし、その顔は悲しみに満ちていた。だから、もういないのだろうと思った。
私は隣国のエレニー王国で産まれたのだという。父親の仕事が休みだったため、予定日まで余裕もあるからと出かけたのだという。
しかし、そこで陣痛がきてしまい、そのままエレニー王国の病院で出産することになったのだ。
無事、私は生まれることができた。けれど、母親は間もなく亡くなったのだという。元々、体が弱かったこともあり亡くなってしまったのだ。
悲しそうに話す母親は、懐からいつも持ち歩いている手帳を取り出し、そこから1枚の写真を私に手渡した。
そこに写っていたのは、赤ん坊を抱き抱え嬉しそうに微笑む女性と、隣に立つ男性だった。言われなくてもわかった。私の本当の両親だ。
それと同時に父様が私を嫌っている理由もわかってしまった。女性は人族ではなく、鳥人族だったのだ。見た目は人族のようだが、僅かに背中から生えている青い翼が見えていた。
私は、人族と鳥人族の子供なのだ。だから父様は、鳥人族の血が混ざっている私が嫌いなのだ。
「とても綺麗なオオルリの鳥人族の女性だったのよ」
写真を見つめる私に向かって言う母親に、何も言わずに頷いた。青い翼に髪。微笑んでいるため、瞳の色はわからないけれど、とても幸せそうに見える。
きっと、これが最初で最後の家族写真なのだろう。このあとに、母親は亡くなったのだ。
「貴方の父親はね、私の弟なの。だから、私がロベリアを預かったの」
母親が亡くなり、葬儀が終わったあとに私は病院から退院して父親と2人で暮らしていたのだという。
けれど、1年ほどして貯金が底をつきはじめて父親は仕事に戻らなくてはいけなかった。けれど、まだ赤ん坊の私1人を家に置いてはいけなかった。
だから、母様に預かってほしいと頼んだのだという。父様は鳥人族と結婚をした者とも、鳥人族の血が混ざっている子供とも関わりたくなくて断ったのだという。
けれど、一緒に住むことができる金額が貯まるまで、私が10歳になるまでと父様が条件をつけたのだという。たとえ、嫌いな種族と結婚し、その血が混ざっている子供であろうとも少しは面倒を見ようと思ったのかもしれない。
父親は毎月私にかかるであろう費用を払おうとしていたという。それでも父様は受け取らず、貯めておけと言って受け取らなかった。
その話を聞いていると、他の種族を今ほど嫌っている様子はない気がする。嫌いになるきっかけがあったのだろう。
そして、母様はそのきっかけを話はじめた。
私の父親は、国王専属の馭者をしていたのだという。だから、1年休みをもらったあとも仕事に復帰することができたのだという。
そして、今から10年前。私が当時7歳のころ。父親は亡くなった。
前日の大雨により、地面が崩れやすくなっていたようで、馬車が崖の下へと落下してしまったのだ。その道は、馬車1台がなんとか通れるほど狭く現在は使われていない危険な道だった。
当時は普通に使われていた道であり、今まで事故などはなかった。しかし、その事故により私の本当の父親だけではなく、当時の国王も亡くなってしまったのだ。息子であるルード国王は偶然一緒に馬車に乗ることもなく、城で留守番をしていたという。いつもはどこに行くのにも一緒についていっていたのに、その日だけは行かなかったのだ。
現在の国王である、ルード国王が「この者の血縁者に責任をとってもらう。もしもいないのであれば、この者の財産を全て押収することで全てを終わらせよう」と言ったのだ。
私は知らないが、母様は姉だと名乗りでようとしたのだという。しかしそんなことをしたら、アルテイナ家がどうなると父様に怒られたのだ。
だから、父親の財産全てを押収という形で終わったのだという。私は帰る家もなく、父様と母様が本当の両親だと思いながら暮らしていたのだ。
姉様達は私が来た理由もはじめから知っていた。だが、キースは当たり前だけれど知らないのだ。今後も教えるつもりはないと母様は呟いた。
私の両親の写真は、私を預かったときに一緒に渡されたものだという。もしも私が両親のことを知りたいと言ったら見せてほしいと頼まれたのだという。けれど、私はそんなことを言うこともなかったのだ。
父様は、「鳥人族なんかと関わるからこんなことになったんだ」とさらに他の種族を嫌うようになったという。
もしも私が、その者の子供だと知られたらアルテイナ家も責任をとらなくてはいけなくなる。だから、私はアルテイナ家の子供なのだと嘘をついて育てたのだという。
たとえアルテイナ家の子供であろうとも、鳥人族の血が混ざっている。だから父様は私が嫌いなのだ。それはどうすることもできない。
「ありがとう、話してくれて。……でも、私の母親は母様で、父親は父様だよね」
「ええ。私はそう思っているわ」
笑顔を向けてそう言った母様に私は安心した。父様はそう思っていないだろうけれど、母様にとって私は本当の子供のようなものなのだ。
――けれど、一つ気になるわね。
それは、ルード国王のこと。いつも一緒についていっていたのに、どうして行かなかったのか。
本当に偶然なのか。それとも、違うのか。
そう思っても、ここに答えを出すことのできる者は誰もいないのだ。だから私は、その事については何も言うことはしなかった。
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