第06話 『悪役令嬢』として振るまえる
私を迎えに来たのは、スワンさんだった。どうして彼女が迎えに来たのか。彼女は国王の側にいるのではないのか。国王が私に会いたいと言っていたから、わざわざ国王の側から離れて迎えに来たのだろうか。
疑問に思いながらも、彼女に促されて私は馬車に乗り込んだ。乗っている者は誰もいない。どうやら、馭者とスワンさんの2人だけで来たようだ。
私が椅子に座ると、スワンさんも扉を閉めて椅子に座った。それを確認した馭者がゆっくりと馬車を走らせた。
「あの、どうして貴方が迎えに来たんたですか? 国王の側についていなくてよかったんですか? いつもは、貴方が国王の側にいるのでしょう?」
「少しの間離れるのはいいんです。その間は他の方がついています。それに、私に貴方を迎えに行けと言ったのは国王陛下ですから」
「では、今側にいるのは、ギルですか?」
他に国王の側にいたのはギルだった。だから、他の女性が国王の側にいるとは考えなかった。
私の言葉に驚いたようで、スワンさんはわずかに目を見開いた。驚くようなことを言ったつもりはないので、どうして驚いているのかがこのときはわからなかった。
「ふふふっ。ギル……ギルバーツは、今日はべつの用件で国王陛下の側にはおりません。誰かと会う場合は護衛として、国王陛下の側にはおりますが、それ以外では呼ばれないかぎり側にいないことが多いです。今国王陛下の側にいるのは、私が信頼しているメイドです」
スワンさんの言葉で、どうして驚いているのかがわかった。私が『ギル』と呼んだからだろう。いつの間にそのように呼べるほど仲がよくなったのかと思ったのかもしれない。
そして、今の私は少しほっとしていた。国王の側にギルがいないのなら、何かを言われたとしても私は『悪役令嬢』として振るまえる。
失礼がないように、けれど『悪役令嬢』として振るまう。もしもギルがいたら、演技だとわかるだろう。演技だとわかってしまってもいいのだけれど、『悪役令嬢』としての振るまいをできれば見られたくなかった。
「……貴方は、貴方のままでいいんですよ」
「え?」
まるで私の心の中を読んだかのようなスワンさんの言葉に、今度は私が驚いた。
どうして今そのようなことを言うのか。言う必要があったのだろか。私にはスワンさんの考えはわからない。
「たとえ、国王陛下に会うのだとしても、貴方のままでいいのです。思ったことを素直に言えばいいのです」
「それって、どういうことですか? スワンさんは、国王が私に何を言うのか知っているのですか?」
その問いに、スワンさんは微笑んだだけで何も言うことはなかった。きっと彼女は知っているのだ。
国王に言われて私を迎えにくるくらいなのだから、もしかすると聞いているのかもしれない。
もう一度同じことを問いかけても答えが返ってくることはないだろう。
国王が私に何を言うのかは、直接確かめることができるのだから。それに、国王が言おうとしている言葉をスワンさんが伝えてしまっては意味がないだろう。
そう思い、私はそれ以上何も言うことはなく口を閉ざした。
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