第21話、粗忽な幽霊4

生者の世界は寒気が厳しく歩く人々の息も白くなっている

晩秋時期の早朝は身を切る寒さである

面白いことに生者の躰には多くの生者以外のモノが付いており

それはおそらくご先祖様か守護霊か人によっては神様もついている

そして悪しき波動の浮遊霊が憑いている者もいる

「こりゃ面白いの、生者は自分についてるモノが見えんとやね」

権米は目をキラキラさせて喜んでいる

早朝薄暗い時間に早くも鶏がギャーギャーギャーと

けたたましく騒いでいる

彼の世から来た粗忽な幽霊三人組は生者の世界に出てきた

ぽっと、鳥居の前に出てきたのだ

そして今、目の前の鶏に大いに文句を付けられている


「何でぇ!おめーら、どっから湧いてきやがったんだよ!」

目の前で騒いでる鶏を見ながら舌なめずりしそうな顔をした権米

「この鶏はおでらの姿が見えるらしいの、でもなんでこんな鶏畜生の言葉が

おでらに理解できるのか不思議じゃの?、丸々太って美味そうじゃから

さっそく潰してトリ鍋にして食っちまうかの!」

権米は例によって例の如く、いらないことを言った

その言葉を聞いた鶏は激怒した

「お前らにバチを当ててくれるぞ!!!」

三人組はこの鶏が常世長鳴鳥(トコヨノナガナキトリ)とは知らなかった

三人組の周りに火柱が立ち現れた

しかし幽体の三人組には炎は目には見えるが特に問題はなかった

「あ?おめえら、幽体じゃねえか!ちっ!バチを当てることができねえよ!」

鶏は悔しそうに言った

「ややこしい鶏はほっといてわいらも早く目的地に行こうや」

為やんは先を急がした

それを聞いた鶏もすかさず「よし、面白そうだからおいらも付き合うぜ!」

神様の鶏だから邪険に扱うのも躊躇われるし

はっきりと迷惑とも言えない

付いてくるなら勝手にすれば良いと三人とも思った

「神様、貴方のお名前はなんて呼べばよろしいのでしょうか」サチは鶏に訊ねた

「お嬢さん、おいらのことはトコちゃんと呼んでおくれ」

ツッコミどころ満載であったが三人とも黙っていた、神様はややこしいから、、


サチが目指す所は魚を商っている大きな店らしい

サチは長らく躰を患いその店の寝間で床に臥せっていたとのこと

霊体なのだから意識すればその場所に行けるものだが

肝心のサチの記憶が曖昧であった

しかし、魚を商っている店は多いので

もっと辿り着くキーワードが欲しいところである

「サッちゃん、他に思い出すことはないんか?」為やんは聞いた

「うーん、何も思い出せないですわ」サチはシクシク泣き出した

2人と一匹は困った

若い女性の扱いに慣れておらず泣かれたら途方にくれるだけ

サチは久しく泣いていたが急に思い出すことがあった

「そうだわ、わたくしが床に臥せっている時に度々変な音が聞こえてきたことがあるの」その音とは「ガサガサガサ」と云うそこら中を走り周る音であり

それも大勢のモノでもあった

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