第3話、梨
むかし、むかしのことじゃった
まじめに生きて、よく働いているのにも関わらず
運の悪い男がいた
その男は人を疑うことができない性分で
他人の本音と建て前の区別が付かず
いつも本気に捉え、そしてバカにされ陥れられてきた
素直で大人しいから
仕事で、よく悪い人間に利用されて
悲しい思いをさせられ続けてきた。
それでも、その男は悪質な人と同じようなことができず
いつも仕事上の人間関係に苦しむ人生を送っていた
その男の信念は
因果応報、善因善果、悪因悪果、お天道様は見ている
そしてこの世は諸行無常であると
口癖のように心の中で呟いていた
しかし、この世はままならず
少しも仕事から
自分の苦しみを解放はしてくれない
その男が唯一幸せだったことは
女房に恵まれたことであった
良い妻を伴侶にもらったこと
もう、それだけでこの男は
自分のこの世の運を使い果たしたとさえ思っていたぐらいであった
しかし、愛する女房に贅沢させたい
行きたい所にも行かせてあげたい
だけど日々の暮らしは苦しいのが現実
金を稼ぐ為の仕事の人間関係に
ずっと苦しんで、生きてきた人生だったから
金を稼ぐ能力が元々欠如していたであろう
愛する女房にも贅沢をさせてあげる事も出来ない
自分ですらも一切の贅沢をせず
慎ましい生活をしているのにも関わらずだ
そのうちに自分は
苦しむ為に生まれてきたのかさえ
思うようになってきた
ある日
男は女房から貰い物の梨を出してもらった
瑞々しくて甘く、とても美味かった
しゃりしゃりしゃりしゃり
梨を食べている時に音がする
しゃりしゃりしゃりしゃり
そのうちに音だけではなく
なんか呪文のような声が聞こえてきた
「アメノミナカヌシ様
お助け頂き、ありがとうございます。」
男は意味は分からなかったが
なぜか、この言葉を気に入り
記憶力の悪いこの男には珍しく
直ぐに暗記して
この言葉も口癖のように心の中で唱えるようになった
毎日、仕事に行く前に心の中で唱えている
「アメノミナカヌシ様、お助け頂きありがとうございます。」
その後のこの男の人生
決して華やかでもなく
お金もたいして稼げなかった
それから他人様に公言出来るような
特別な奇跡が起きた訳でもなかった
しかし、男が寿命で死ぬ時
あの世に帰る時
愛する女房と結婚できて
特別、貧乏に苦しむ事もなく
他人様から恨まれることもなく
平和にこの世を生きれたことに
とても感謝できる人生であったことを
深く理解できる心境になっていた。
しゃりしゃりしゃり
アメノミナカヌシ様、お助け頂きありがとうございます
しゃりしゃりしゃりしゃり
しゃりしゃりしゃりしゃり
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