第9話、隙間女
むかーし、むかしのことじゃった
とてもひどい嵐の夜な
あばら家に住んでいる独り者の太郎のとこでな
家の中からカタカタする音が聞こえてきたんじゃ
狂った獣のような風の音と横殴りな雨
てっきり太郎はな
もろい戸口が嵐でカタカタ言ってるものだと思っていたんじゃ
「家が壊れるかの、困ったの」
カタカタ、カタカタ、カタカタ
音がする方向を見たら戸口の方ではなく
かまどの方から音がするんじゃ
よく見たらな
かまどの隙間から白いモノがな
ゆらゆらとな出てきてな
それが細い目をした人の姿になってきたのじゃ
それがな
じっと太郎の方を見ておったのじゃ
太郎はのんびりとその白いモノに聞いてみた
「おめえは誰じゃ、狸か狐か?」
その白いものは太郎の問いには答えず
あいかわらず、じっと太郎の方を見ていたんじゃ
「なんじゃ、しゃべれないならしかたがない、
おでは今から寝るからあんまりうるそうせんようにな」
太郎はすぐにガーガーと寝息を立てて寝てしまったんじゃ
興醒めしたのはその白いモノ
「すごい人間がおるもんよな、他の人間はあちきの姿を見たらびっくりして驚くのに、こやつはあちきの姿を確認してから寝ておるわ」
このままではあちきの妖怪としての存在が無かったことにされる
その白いモノはな
意地になって寝ている太郎を起こしにかかったのじゃ
「これ人間よ、あちきを見てなぜ驚かんのじゃ?」
太郎は眠いながらも、しかたなしに答えた
「どうせお前は狸か狐じゃろ、それとも狢か蛇か?、どっちにしても見飽きたわ」
白いモノは自分のことを狸か狐、
さらに狢に蛇だと思われた屈辱に我慢ならんかった
「これ人間よ、しっかりあちきを見るのじゃ、
あちきのどこが狸や狐、狢や蛇に見えるのじゃ!」
やれやれしょうがないのと思いながら太郎はその白いモノを見た
「おおお前は!、お前は畜生ではないな」
ようやく白いモノは自分の存在価値が認められたみたいで満足した
「お前は一反木綿かの、珍しいの」
「あちきは女じゃ!、よく見ろ!その間抜けなドロンとした目でな!」
白いモノの語気が強くなってきた
「薄い紙みたいな体に細い目で白い顔って一反木綿以外の妖怪はおでは知らねえずらよ」
この人間め、ふざけおって!
よりによって、
このあちきを空飛ぶだけで鬼太郎の乗り物の一反木綿と間違いよってからに!
よく聞け、愚かなる人間め
あちきの正体を教えてやる
あちきは隙間女じゃ
どうじゃ怖いじゃろ!
「隙間女の何が怖いのじゃ?」
太郎は答えた
「ただ隙間からおでを見てるだけのおでのファンじゃろ?
おめえがもっと色っぼければ嫁ごにもらってやってもいいがの、
おめえみたいな陰気な女は鬱陶しいの」
隙間女は太郎のその言葉にキレた
「陰気で鬱陶しいのはあちきの妖怪としての属性じゃ!
それに誰がお前の嫁にしてくれと言ったが!」
やれやれ、めんどくさいおなごじゃの
「おめえはおでにどうして欲しいのじゃ?」
だから驚けと隙間女は思ったが
これだけ会話してる人間にいまさら驚けというのも無理なことだった
「これ隙間女、かまどから出てきたんじゃから飯ぐらい作れるじゃろ、
ちょっと寝たから腹へったわ、飯作ってくれろや」
「なんであちきがお前に飯作らないかんのじゃ!ふざけんな!」
「なんじゃ飯も作れん陰気なおなごか、使えねえずらな 笑」
おのれ人間め、見てろよ
隙間女はテキパキと夕餉の用意を始めた
出てきた飯
実に旨そうだった
「おお、旨めの、おめえは料理上手じゃの」
そうじゃろ、ざまあみろ人間め
太郎は食べ終わって満足した
「ああ、旨かった、隙間女ありがとうな、
また明日もおめえの旨い飯が食いたいの」
その言葉を聞いて隙間女はなんか嬉しくなった
「また明日な、隙間女、おやすみ」
隙間女はおもわず笑顔で
「うん」と言ってしまった
隙間女はかまどの隙間に帰る時にふと思った
「ん?なんかおかしいな、まあいいか」
隙間女は明日はなにを作ろうかなと
まんざらでもなさそうな顔をして帰って行ったとさ
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