第10話、大江山

むかーし、むかしのことじゃ


隣の村ではな

カチカチ山と云う物語が伝わっておってな

善意の兎が可愛がって貰った婆さんの仕返しでな

悪の狸を懲らしめる話しがあるがの

あれは懲らしめると云うよりはな

私的制裁の復讐でな

狸をいたぶって殺害する話しじゃな


あの文豪、太宰治もな

この話しをアレンジしてな

兎を若くて潔癖で冷酷な女性に狸をスケベで下品な中年男に置き換えて

物語を作ったよの


だいたい、兎は白くて丸い体じゃなければ

赤い目をした悪魔にも見えるし

西洋の悪魔も赤い目をしてる

狸憑きは民俗学では不潔で強欲で食い意地の張った

威張り散らす拗らせた憑き物になると書いておる


設定を変えてみればどうなるのか?


兎を鬼に、狸をエロい娘に!


恩義あるお婆さんを強盗殺人された赤い目をした鬼は

悲しんでいるお爺さんに仇を討つことを誓う

「お爺さん、私がその性悪狸をやっつけます!」


その狸娘は今日も渋谷センター街で遊んでいた

「ちぇ、あの婆こんだけしか金持ってないでやんの、遊ぶのには心もとないよな」

どっかでスケベそうなオッサンでもひっかけよw

丁度、狸娘の前を行ったり来たりしてチラチラみてるサラリーマンがいる

(ラッキー、カモじゃんwしかしでかい男よね、まあいいかw)

ねえ、お兄さん、私とお茶しない?


鬼は人間に変装してサラサラヘアで前髪を降ろして

黒髪黒メガネのスーツ姿で背も低くしたが

やはり人間サイズでは標準よりもでかくなる

身長190cmが限界である

しかし、酒呑童子のように人間の姿に化けた時は見目麗しいイケメンとなっていた

しかも全身からおどおどしてる雰囲気を醸し出していたので

イケメンで真面目な好青年の姿になっていた

好色な狸娘はカモだと思ってひっかけるつもりだったが

鬼の化けたイケメン好青年を一目で気に入ってしまった

狸娘の好みは真面目なイケメンと云うのは調査済みであり

見事に鬼の術中にハマった


「ねえ、そこのイケメンのお兄さん、私とお茶して欲しいのですがダメでしょうか」

狸娘の言葉遣いはいきなり敬語になり顔はほんのりピンク色になっていた

「光栄です、僕も貴女が気になっていたのです」

鬼の化けた好青年は白い歯を見せて優雅に微笑した

「お茶よりも食事でもどうですか?僕は今、仕事が終わってから

まだ何も食べていないのです、勿論、僕が貴女に御馳走しますよ」

その言葉を聞いて狸娘は天にも昇る気持ちになった

「ええ、喜んで♡」

二人は渋谷センター街から少し離れた場所の

隠れ家的な小さなお洒落なイタリアンの店に入った

そこで赤ワインを空けて本日のシェフお薦めディナーを頼んだ

狸娘の本性は食い意地の張った卑しい女

だけど一目ぼれをした目の前のイケメンに化けた鬼にカッコつけて

私は小食なのであまり食べませんわをアピールして

ほとんど食が進まなくなっていた

「まだ名前を聞いてませんでしたよね、失礼しました、僕はドウジと云います」

「あ、あ、私は、その、タニ―と呼んで下さい」

「そうですか、タニ―さんですか、可愛い名前ですね」

狸娘は舞い上がって、もう何が何だかわからなくなってきた

そして寝てしまった


それはそうだろう

鬼は事前に狸娘のワインの中に睡眠薬を入れていたのであった


人間から元の大きな鬼の姿となり狸娘を担いで店の裏口から出て行った

この店は鬼の仲間が人間に化けて商いをしている店であったから

堂々と裏口から出て行った

外に出て、そこで結界を張り(どこでもドアみたいな感じw)

お爺さんの家に寝ている狸娘を連れてきた

お爺さんは狸娘を見て

さてどうやってお婆さんの仇を取ってやろうか

ひとおもいに殺してしまうのも

いまいましい!

鬼は思案に暮れてるお爺さんをみて

いきなり狸娘の腹の中に毛むくじゃらの太い手を入れて肝を抜き

一瞬で若さを失くして婆にしてしまった

この狸娘を殺して狸汁にして食っても

性根が腐っているので腹を下すからお爺さん止めときなさい

これは死ぬまで洗濯婆として大江山でこき使ってやるよ

「おお、そうかそうか、そうよな」とお爺さんは納得した


婆になった狸婆さんを肩に担いで

鬼は空高く大江山に飛んでいったとさ


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