第16話、小豆あらい6
「お前はなんじゃ?」
殿様は太郎丸に向かって不思議そうに聞いてきた
(なんだ、この生き物は、)
太郎丸はふんぞり返って芝居かかって大見えを切って言い放った
「ワイは河童妖怪の太郎丸様じゃ、オッサンを退治しに来たんじゃ!」
「儂を退治するとな、それは面白い事を言うものじゃ、百姓から年貢を取り立てるからじゃな、しかしな、村の民からの年貢があるから防御が強くなり侵略されずにおるのを分かっておるのかの?」
「やかましいわ!、オッサンが年貢を取り立てるから里人が赤子を川に捨てるんじゃろうが!山の神様は怒ってるんじゃ!」
里人が赤子を川に捨てる?、山の神が怒っている?
さっぱり要領を得ない会話
殿様はこんな変な生き物に対して
我が藩が強くなる為に年貢を取り立てている事を説明するのがバカらしくなってきた
「もうよい、変な生き物よ」
殿様は家臣に命令した
「謁見は終わりじゃ、こやつらを牢に捉えておけ!
その珍獣は後ほど剥製にして蘭国に売るからあまり傷付けないように
鉄砲一発で仕留めるのじゃぞ」
それを聞いた太郎丸、さあプッツンきた
殿様に飛び掛かり首根っこを腕で抱え込んで畳に押し倒した
そして、不思議な事にその畳に太郎丸と殿様は沈んでいく
まるで畳が急に水面に変化した様に二人の躰が沈んでいく
これが水妖怪の妖怪力である場所を水辺にする怪異
時間と場所が固定されているのは目に見える三次元世界でしか生きていないと
勘違いをしている人間だけであり、時間も場所も瞬時に思うがままに移動できる
十次元世界で生きている妖怪にとっては造作もない事であった
しかも水は意識を留める記憶装置であるので殿様を恨んであの世に帰っていった
多くの百姓の怨恨が顕現された水底の世界に太郎丸は殿様を引きずりこんだ
「ここはどこじゃ、なんじゃここは、」
水の中であるとは分かる、早く上がって空気を吸わなければ苦しい
死んでしまう、殿様は無我夢中で身体を動かして上に上がろうとした
その時に殿様の左脚を掴む感触があった
(え?)そして右足にも胴にも掴む感触があった
冷たい掌の感触、これは確認するまでもなく死人の手であろう事は理解した
殿様も修羅場をくぐってきたので今更命は惜しくない
(そうか、儂はここで命を落とすのじゃな、なんか最後は訳は分からないはが
まあ、ええじゃろ)
「このオッサン!簡単に諦めやがって!なに自分だけ楽になろうとしてんねん!!」
太郎丸のけたたましい声で水の幻影から元の城内の畳に戻った殿様は我に返った
(そっか、ここは儂の城じゃ、儂はまだ死ねなかったのじゃな)
一部始終の様子を見ていた家臣達は呆然としていた
勇敢な兵揃いなので殿様を置いて逃げ出す者はいなかったが
この不思議な出来事
畳に殿様の身体が沈み、そして畳から殿様の身体が湧き出してきた事象
「なんか面白くないな、八つ当たりしたろ、指鉄砲!!!」
太郎丸は取り囲んでいた家臣達に対して指先を向け
そこから水を出して身体をずぶ濡れにし出した
それを欠伸しながら見ていた平治は殿様に話しかけた
「太郎丸は河童ずら、本当に妖怪はいるずらよ、化け物山の神様がよ
怒ってなさるんじゃよ、殿様の年貢の取り立てが厳しいから百姓達は口減らしで我が子を山の川に流さざる得ないんじゃよ、その原因を作ったのは殿様の年貢を取り立ててというのは分かるっぺ?、だから心入れ替えよというわけじゃ、山の神様と妖怪が怒ればよ、いくら殿様でも人間なんか容易くヤラレるぞ!分かるよな」
若い平治は自分の親位の年齢である殿様に理を説いて聞かせていた
殿様もようやく理が理解できた
それを見ていた太郎丸、とても気に入らない
「こら!平治!お前一人で何かっこええこというてんねん!
これじゃワイは暴れて遊んだだけみたいやんけ、こんなオッサンに改心はいらん、
これから妖怪の恐ろしさを見せたるねん!」
殿様は平治に理解したと目で合図した
平治は太郎丸に言った
「ほら太郎丸、もう用事が済んだで帰るずらよ」
「嫌じゃ!ワイはまだこのオッサンと遊びたいんじゃ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます