第5話、尻

むかし、むかしのことじゃった


ある日な、

留吉の大根畑から尻が出てきたそうじゃ

村のもんはな

朝から留吉の大根畑から尻が出たと聞いて

集まってきた。


「なあ~、留吉よ、これは尻じゃな~」

「うだ、尻にしか見えないっぺ!」

「うだども、これが人の尻なら怖いっぺよ!」留吉はぶるぶると震えていた

「うんだ、うんだ、うんだ!!」


「よーし!おらがちょっと試してみるだよ!!」

日頃から村の者に度胸があると言われている権米は

棒切れでその尻を突ついてみた


その尻はな、

突かれた時にぷるぷると動きはじめたそうじゃ


一突して、お尻をくねくね、ぷるぷる

二突して、お尻を二回くねくね、ぷるぷるぷる


「これは、なんか分からんが生きとるど!!」


村のもんは考えた

「これはなんじゃろな?」

だけど掘り返してみて尻の正体を探る勇気もなく

自分の畑じゃないので、

どっちにしても怖いわなと

くわばら、くわばらと言いながら

村人達は留吉の大根畑から去って行った


さて、一人残された留吉

自分の大根畑だから

このままほっとく訳にもいかないが

さて、どうしようかと考えていたのだが

勇気もなく知恵もないので

やっぱり留吉もこのままの状態にして家に帰った


家に帰り、かかあにこの尻のことを話して

しばらくは様子を見ることにした

かかあも気の長い女で

「そっか、まああんたの気の済むようにしなさんせ」と言って

そのままにしておいた


翌朝、大根畑の尻が増えていた

その翌日も尻が生えてきた

またまた翌日も尻が生えていった

異様な光景

大根と大根の間に尻が生えてる


留吉は考えた

(この尻って食えるのか?)

この尻が増えていくことで

留吉の畑の大根がどんどん痩せ細っていったのだ

大根の栄養を尻が横取りしている

留吉夫婦にとっては死活問題になってきた

もう、掘り返すしかなかった

留吉は家から鍬を持ってきて

覚悟を決めて掘ることにした

「かかあ、おらやっぱり、あの尻を掘ってみるだ」

かかあは「そうけ、きい付けてな」と言って

朝餉の用意をしていた


ざく、ざく、ざく、


ここで留吉は嫌な話しを思い出した

たしかバテレンでは

土の下に人間のような根茎があって

抜けばギャーっと云う叫び声を挙げ

その声を聞いた者は死ぬと云う話し…


どっちにしても大根が取れなくなれば

留吉夫婦は飢えて死ぬことになる

「おらが、かかあを守るだよ!」

バテレンの妖怪が出ようが、何が出ようが

もう、どうでもいい!


ざく、ざく、ざく


もうすぐ尻を掘り起こせる


ざく、ざく、ざく


そして掘り出した


やっぱり尻だった

留吉はその尻を手に持ったが

尻はぷるぷると震えていた


「しょうがない、この尻も食えるかもしれんし、持って帰ろ」


留吉は尻を持って帰り

まな板の上に尻を置き包丁で切ろうとした

尻はまな板の上でもぷるぷる揺れていた


ぷるぷるぷるぷる


留吉はこの尻が人間の尻に思えてならなかった

人間の尻なわけはないと分かっていたが

思えるものはしょうがない

そして、ますますこの尻を切って食べることを躊躇われた


「なあ、かかあよ、儂らこのまま大根が痩せ細っていったら飢え死にするら」

「だから、この尻でも食えたらと思ったけんどな、やっぱ儂にはこの尻に包丁入れることは出来んわ、許してくれ、かかあよ」

かかあも同じ思いだった

この尻を切って食べてはいけないような直感があった

「あんた、うちもこの尻は食べてはいけないと思うよ」

留吉夫婦は尻を切らずに部屋の隅に置いた

そして留吉夫婦はそのまま日常に戻った


その晩に留吉の夢の中で神々しい女性が現れた

(わらわの名はホノニニギ尊じゃ、その尻はわらわの尻じゃ、留吉よ、よくぞわらはの尻を切らずに我慢してくれた、わらわの尻がお前の大根の栄養を横取りしてたのは済まなかった。明日の朝、大根を掘り起こしてみろ、きっといい事が起きているぞ)


留吉の畑から全ての尻が消えていた

そして大根を一本掘り起こしてみた

そこには大きく成長している大根があった

今まで見たことがないほど大きな大根

それを一口食べてみると、なんと美味いことか

「こんなに美味い大根を食べたのは初めてじゃ!!!!」


留吉の大根は評判となり

留吉は大根のおかげで一財産を築き

大根長者となった。

                     (完)





大人の童話では

この尻の、あの部分にモザイク掛かっているが

なんか今日はそんな気分じゃないので

これで終わり 笑(完)



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