第19話、粗忽な幽霊2

「さぁさぁ、早く用意しよし!」

為やんは二人を急がした

今と違って昔の旅行は持ち物が少のう御座いますが

その分、連れとの会話は腐るほど多くなります

「サッちゃん、お前さんいくら服選びに時間かけても

生きてる人間には見えないっぺよ」

「だって私も久しぶりに会うのですから綺麗な着物で会いとう御座います」

「あのね、サッちゃん、

おら達はルールを破ってあっちの世界に行くんよ、時間がないとよ」

「がさつな貴方達とわたくしは違いますから」と言ってプイと横を向いたサチ


そうなのである

この三人は規則を破ってあっちの世界

生者の世界に行こうとしている最中であった

本来はあの世の世界のモノは生者が自分のことを思っただけで

生者の世界に瞬間移動できるようになっている

それは生者が自分のことを思ってくれるのが必須条件なのである


サチは今まで呼ばれたことがない

権米も為やんも呼ばれることがあるのにサチ一人だけ呼ばれたことがない

サチはそう嘆きながらシクシクと泣くのである

それを不憫に思った男二人はサチのために呼ばれてなくても

サチが会いたいと思っている生者に今からあっちの世界に行く

生者と死者が交わる境界線の通り道を目指して

まるで夜逃げのようなお忍びで行こうとしている

筈なのに、、、


あの世と生者の世界の境界線には番人が居る

この番人はいわば生死を判断する、まあ、死神である

死者なら通すが生者ならまだ来るのが早いと追い返すのである

また、この死神は役所仕事丸出しで一切の融通が利かないモノであった

それは死者と生者を間違えば死神の昇進に響くからである

死神も妻子持ちの役人である

あの世も生者の世界もサラリーマンは世知辛い

死神だから眠くはならないし腹も減らないし

ハニー・トラップに引っかかることも無い、しかし労働は嫌いである。

なので、ある時間になれば積極的にサボって携帯でゲームをして遊んでいる。

その時間帯が生死の境界線道を通り抜けるチャンスでもあるのに、

嗚呼、そんな僅かなチャンスなのにも関わらず


「あっちの世界ではわいらの姿は見えへんけど

わいからは見えるなんて、なんか背徳感があるわな」

為やんは恥ずかしいことを言いながら歩く

「やらしいことを考えてるからそんな発想になるのです、最低!」

その横でサチは為やんに小言を言う

「今さら女人の裸を見ても反応する躰が無いのだから意味ないっぺ!」

権米は追い打ちをかける品の無さで会話に混じる

「味は分からんが酒飲みながらの旅は風情があるのぉ、なんか酒の肴が欲しいわ

軽くツマむ物が欲しくなってきたっぺ」権米は物欲しそうに呟いた

「鼻でもつまんでたらいいのです!」サチは冷たく言い放った


三人組はワーワーキャーキャー、ヤイノヤイノとけたたましく通る

いいかげんな個性だから緊張感などまるでないのだ

そして口数が多いのである

粗忽モノ、嗚呼なんとおバカな幽霊達なのか

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