第22話、粗忽な幽霊5
魚屋の朝は早い
朝3時には起きて市場に4時に着くように出かける
まだ外が真っ暗で晩秋の寒さが堪える
「もう、この仕事を3年してるが朝の辛さは慣れねぇな、眠いわ」
欠伸をしながら、ぶつくさと文句を言っている。
恭一は稼業を引き継ぐ予定の三代目だが元々はだらしない性格であり、
とてもこの商売が向いているとは言い難い
それでも祖父の代から続いている稼業なので社長である父親が引退した後に
自分の代で店を傾けることは許されなかった。
「はぁ因果だね」一般的なサラリーマンみたいに普通の生活したいわ
学生時代が懐かしい、そもそもこんな生活してたら彼女も出来ないし結婚も出来ないような気がする
まぁ結婚に夢は見てないけどと自傷気味に笑った
今日もとっとの仕事終わらせて読みかけの本が読みたい
こんな態度だから仕入れの魚の目利きもちっとも成長しない
横で行動を共にしている専務は聞こえないように気を使って溜め息をつく
年老いたベテランの職人ガタキの専務である徳蔵はこの若い三代目をなんとか一人前に育てようとしているが中々苦戦している
自分の息子なら張り倒してでも性根を叩き直すのだが
相手は若旦那なのでひたすら我慢している
「ねぇ徳さんは眠くはならねえのかい?体が慣れたら平気なのかい?」
恭一は眠気を覚まそうと専務に下らないことを話しかける
「若旦那、体は慣れますよ、だけどもね魚は生き物なので海から引き上げられた時に己の海の生き物としての生命は終わったけど人間に食べられるなら
魚としては自分の一番いい状態で食べてもらいたいと思ってるじゃないでしゃうかねね、あたしら魚屋は魚の命を頂いてお客様に美味しく食べてもらう為に商売しているんです。あたしたち人間の為に命をくれた魚をより美味しい状態で食べる人に提供するのが魚屋の仕事ですよ、それだけ仕入れの目利きは大切な仕事なのですよ」
「若旦那、この仕事を舐めちゃ困りますよ」
言ってしまった徳蔵はもう今まで我慢してきた胸の内を吐き出すように
最後の言葉を呻くように恭一に言ってしまった。
恭一なりに徳蔵の言葉が響いたみたいで車の中では二人とも無言になり
そして市場に着いた。
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