第12話、小豆あらい2

小豆あらいの夕餉にちゃっかりと同席して

タダ飯を食い散らかした河童の太郎丸と人間の平治は

旨い旨いと言いながら腹一杯食べた。


「いやー旨かった、やっぱり美人さんは料理も上手いですね、

特にこのキュウリの和え物は最高でしたよ」

「あのー、それはキュウリじゃなくて大根なのですが…」


娘はぽつりぽつりと自分の話しをしだした。

娘も小豆あらいもは実は元人間であったコト


里の者は理解できない現象・音を妖怪化して

自分達の恐怖感を納得させようとしている

お爺ちゃんは只毎日、川で小豆を研いでいるだけなのに

いつのまにか「小豆あらい」という妖怪名を付けられて怖がられているコト

そして出来事・音の現象に名前を付けられたら妖怪になるコト

この山には確かに人間や獣以外も住んでおり

そこには、「この世でないモノ」もいる。


それがお爺ちゃんに同化して人間のお爺ちゃんが

本当に「小豆あらい」と言う妖怪に成ってしまったコトも伝えた


「紹介が遅れましたが私はサチと言います。

私も元は人間でしたが今は違うモノとなっております。

人間で云う妖怪の属性でしょうが

私は今もこれからもお爺ちゃんと一緒に

この山奥で平和にひっそりと暮らしているだけです。」


太郎丸にしては大人しくサチの話しを聞いていた

そしてやっと質問をサチにした

「サチさんも妖怪なんですか?」

サチは微笑しながら太郎丸の質問に答えた

「そうです、太郎丸さんと同じ属性ですよ、

今はお爺ちゃんのお陰で成人しましたが私の妖怪名は川赤子です。」


よろしくお願いしますとアタマを下げてきた


川赤子、赤子の河童妖怪


生まれて間もない赤子の口減らしの為に

親はこの山の川にサチと名前を縫い付けた毛布に赤子を包み

そして流した


「私の名前にサチと名付けてから川に流す行為

きっと親は来世には幸せになって欲しいと願いながら

苦しんだ末に赤子の私を川に流した事だと想像しています

だってそうでしょう、なぜ命を奪う前の我が子に名前を付けるのでしょうか

私は成人して多くの人間の苦悩を見てきたから漸く理解できるようになれました。

この山には今も昔も多くの産まれて間もない赤子が口減らしの為に

川に流されて命を落としています

童の時はとても理解出来ず人を害する妖怪になろうとしていた位ですのよ」


人間としてのサチはこの山の川で命を落としたが

その時に山に住んでいたモノノケがサチに同化して

サチは妖怪として存在している


「儂の人間名は総次郎じゃ、元々は炭火を作って生活しておったのじゃよ」

総次郎爺さんは家族を戦で失って里で生活していく気力も失い

この山に一人住むようになった、そして初めて知ったこの山の真実

多くの溺死体の赤子が獣に食い散らかされた残骸として川に流れてくる

総次郎爺さんは赤子の供養の為に、呪力ある小豆を使った赤まんまを作り

お供えする為に赤子が殺された川の水で毎日小豆を研いでおった

誰も住めないと恐れられ、口減らしをしていた里の者は恐怖に慄いた

「しゃりしゃりしゃり 」と音がしてくる

あれはきっとこの世のモノではない、妖怪じゃ!妖怪小豆あらいじゃと!な」


里の者はな

自分らがしてきた行為の天罰に恐れているのじゃ

しかしな、我が子を川に落として殺める親の気持ちな

儂も元々あの里に住んでおったから解るのじゃが

年貢の取り立ての酷さと年がら年中

戦に巻き込まれている不幸な土地


「儂もそれを知っているから毎日小豆を研いで供養してたのじゃ、

何故か泣きながらな

そんな精神状態じゃからかのう、儂にもモノノケが同化したみたいでな

きっと川で溺死した赤子を見て無慈悲と怒った心あるモノノケかも知れんな、

儂は里の者が言うように「小豆あらい」という妖怪でも構わんぞ」


「ただし、お前らは総次郎お爺様と言うのじゃぞ(笑)

飯を食わしたんじゃからな、銭は払えよ!」


さて困った

太郎丸も平治も銭は持ってなかった

元々払うつもりなくタダ飯を食ったらトンずらするつもりだったから、

だけど、こんな話しを聞いた後では食い逃げはしにくかった


「爺、取引きせんか、ワイと平治の二人で里人が赤子を流す事を止めさせる。

それで今日の飯代はチャラにする、どうじゃ?」









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