第16話 盗賊狩り

俺は、一旦、食材探しの活動を中断し、ウィルマジス王国の残党組の対策を講じることにした。


彼等の正規の反乱軍(正規と表現するのも変な話だが…)は、反乱の目標に『王都ルゴルディンの奪還』と、今回の『新王都ゴートワイナリの樹立阻止』を掲げている。

そのため、イリノスはルゴルディンとゴートワイナリそれぞれの警戒を強化していた。


今回の騒動は、正規の反乱軍によるもので間違いはなさそうだったが、非正規の反乱軍は、目的もなく殺戮と略奪を繰り返す強盗集団に成り下がっており、その活動は神出鬼没で、あらゆる場所で行われていた。


正規の反乱軍の対応はイリノスに任せ、俺は、盗賊団を壊滅させる事で申し合わせた。


幸いにも、先日の戦闘にて討ち取られた反乱軍には主力となる部隊員が多数いたようで、かなりの大打撃を与えていたようであった。


そのため、正規の反乱軍の対応はイリノス達の軍でも何とか対応できると踏んだ。

実際に、あれからは彼等の行軍は見られず、力を貯めているのか息を潜めている状況である。

逆に、非正規の反乱軍は、その行動を活発化し、イリノス王国以外の諸外国内で人口の少ない町や村を襲っていた。

そのため、やがてはイリノス王国内でも強奪行為を行う可能性は非常に高かった。


俺は、前回の戦闘行為で得られた新たなスキルの活用方法を駆使して、彼等盗賊団を壊滅に追い込むことを決心した。


まず、彼等の名称を設定する。

名前は『ウィルマジス盗賊団』に設定、次に、彼等による『略奪行為』を関連情報として紐付けし、【スキル 神の目】の【探索】を常時発動して、範囲指定は『イリノス王国内』とした。

これで、彼等『ウィルマジス盗賊団』が『イリノス王国内』で『略奪行為』をすれば、網にかかることになり、すぐに俺が、現場に向かい対処するというものだった。


それから一週間程経ったある日、先日の正規の反乱軍の敗戦で様子見をしていたのか、ここ数日は王国内で彼等の動きはなかった盗賊団であったが、ようやく動きを見せた。

やはり、イリノス王国内でも手薄と思われたデコロンディアの地区であった。


「よし!かかった。」

奴等は、デコロンディアの西部にある小さな町バーリンゲンを襲っていた。

俺は、エルネイアを出ることなく、すぐに【スキル 神の目 特殊魔法 死の呪い (範囲指定 バーリンゲン)(対象指定 ウィルマジス盗賊団)】を展開した。


既に俺の魔法は、エルネイアだろうがゴートワイナリだろうが…、つまり何処に居たとしても、そこに居ながらにして全世界の対象物に影響を与えられる程のスキルレベルと強大な魔力を持っていた。


一瞬で、彼等ウィルマジス盗賊団員の全ての生命反応が停止する。

盗賊団の者にすれば何が起こったのかわからないうちに命を奪われたようなものだろう。


俺は、バーリンゲンの町が混乱している様子であったため、スワシュワに連絡を取り、現場に走らせようとしたが、俺が現場に向かった方が早いと判断、単身、超高速でバーリンゲンに向かう。


案の定、バーリンゲンの町は大混乱となっていた。

人口は3000人程で、自然と町との調和が大変美しいと言われ、過去には観光地にもなっていた小さな町バーリンゲンに、300人からの兵士崩れの盗賊団が一斉になだれ込んだと思ったら、いきなり全員が死んでしまったのだから驚くのは無理もない。

盗賊達はバタバタと街中に倒れて死んでいた。


ここに詰めていた兵士達も、驚いていたが、既にスワシュワから俺の事を聞いていたようで、事態を沈静化させようとしていた。

俺がバーリンゲンの町に降り立つと、直ぐにスワシュワの部下と思われる親衛隊の者が駆け寄ってきた。

そいつは名前をテクノスと言って、初めてスワシュワが俺のところにやって来たときに横に付いていた兵士の一人であり、俺も顔見知りがいて話がしやすかった。


「ヒロシ様!」

「町の様子はどうだ?怪我人は?」

「ありがとうございます、ヒロシ様の展開された魔法のお陰で大した怪我人もなく、全て解決しております。突然の奇襲で町は一瞬、騒然となりましたが、今は町の者達に、彼等が突然死んだ事情を説明して沈静化をさせている最中であります。」

「わかった。」

「盗賊どもの死体は、町の男達の協力を得て回収しております。いずれも確認しましたが、ヒロシ様の魔法から逃げられた者はいないと思われます。」

「まあ、そうだろうな。だが、油断をするな。第2、第3の奇襲が無いとも言えんからな。」

「はっ、了解しました。あと…」

「どうした?」

「この町の町長がぜひヒロシ様に会いたいと言っておりますが、どうなされますか?」

「まあ、別に構わんが…」

俺は、町長との面会を了承した。

「わかりました、では、そう手配させて頂きます。」

テクノスは少し頭を下げてから、俺の前から離れる。


しばらくして、バーリンゲンの町長が俺のところにやって来た。


年齢はかなり若そうで30代後半から40代前半といったところか。

「ヒロシ様、初めまして、私、ここバーリンゲンの町長をしております、ナイファートと申します。」

と挨拶した。

俺は直ぐに【スキル 神の目 探索】でナイファートを


ナイファート…年齢34歳、男性、デコロンディア人、バーリンゲン町長、家族は妻と子供二人、性格は厳格、人間関係は広い、病気なし、感情の状態『緊張』、経歴として小学校の教員の経歴あり。


ふむ、まあ、真面目な感じの男だな。

で、俺に何の用なのかな?

そう、思っていたらナイファートは、俺にこう言った。


「ヒロシ様、よくぞ、我が町、バーリンゲンをヴィルマジスから解放して下さりまして、ありがとうございます。町を代表しましてお礼を申し上げます。」

と頭を下げる。

彼の後ろには、この町の代表者と思われる者達のうち、20名ほどが揃っていた。

そして、更に、

「私どもの町には古い歴史がありました、あのウィルマジス王国に踏みにじられた暗黒の時代もありましたが、その時代もようやく過ぎ去りました。今、こうして皆の笑顔があるのもヒロシ様のお陰だと思っております。」

と話を続けた。


確かに、この町の歴史はデコロンディアの中でも古く、ウィルマジスがこの国を手に入れた12年前とは違って、200年近い歴史があった。

それだけに、この国の王族は自分達の国の歴史を守るために必死の抵抗を試みたのだ。

だが、その結果、ウィルマジス王国に敗北し、抵抗した王族は全て処刑となったと言うのがこの町の歴史だ。

町長も、今回、国がイリノス王国に変わってから就任した人物で、それまでは小学校の教員をしており、ウィルマジス王国による洗脳教育を強制的にやらされていたという。

だが、これに反対して投獄され、今回の件で、釈放となり、その功績が認められ、町長になっていた。

ほとんどの運動員は思想犯として処刑されていたが、ナイファートは投獄され、処刑待ちの状態から命を助けられたという。

この様なケースは大変珍しいのだが、それだけに、新しく町長として任命されたことに誇りを持っているようであった。

これが、俺が【スキル 神の目】で【探索】したこの町やナイファートの事であった。


まあ、彼にとっては俺は命の恩人にもなるからな。


「この度はウィルマジスの残党がこの町を襲うのではないかという噂が、町に広まり、皆の不安が広がっておりました。ですが、その不安も先程のヒロシ様が起こされた奇跡により掻き消されました!あなた様はこの国、この町の救世主でございます。何卒、今後とも我々に聖なる御加護をお与え下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。」


ナイファートはそう言うと、両手を組み合わせ、その場に跪く。

さらに、後ろにいた者や、その他、その場に居合わせたこの町の住民らがナイファートの言葉に頷き、その行為に倣う。


「我々に聖なる加護を!」


その場に居合わせた者はそう叫ぶと、そのほとんどが俺に跪く。

土下座のように、石畳に頭を付けている者もいた。


おいおい、土下座の人数増えてるじゃないか!

俺は、そんなことをされるような人間じゃないって!

この間まで、一介のサラリーマンだったんだから。

そして、それをさらに煽るかのような言葉を発したのがテクノスだった。


「皆の者、聞けい!大賢者ヒロシ様はお前達の事をいつでも見守っておられる!今回の様に皆の前に姿を現して頂けることを光栄に思うがよい!」

とまあ、こんな感じで俺をたてまつり上げやがった。

そうなると、町の衆も、さらに頭を下げて全ての者が土下座してしまったのだった。


テクノスの奴、やりやがった!

どうやら俺を聖人や聖者のように奉り上げ、その信仰心を利用して信奉者とともに、その俺のバッグとなるイリノス王国に対する忠誠心をも高めさせるつもりなのであろう。

いやはや、怖いねえ。

まあ、こうなるのは仕方がないだろうな。

そうでもしないと、イリノスも国がバラバラになってしまうからな。

だが、あまり俺を利用しないように、イリノスとこれを計画した奴に釘を刺さないとな。


でないと、後々面倒なことになりかねないのは目に見えているから。


その後も、何度か、小さな町や村を盗賊団が襲ってきていたが、全て俺が奴等を始末した。

何が恐ろしいかって、それは魔物でもドラゴンでもなく人間である事を、今回の事でようく思い知らされた気がする。

俺がそれらの町や村に顔を出す度に、バーリンゲンでナイファートがやった事と同じ様なことがデジャヴュの様に繰り返された。


土下座、土下座、土下座、土下座、土下座、土下座、土下座、土下座、土下座、土下座。


とうとう、俺の回りには土下座をする人間ばかりになってしまった。


まあ、イリノスが人物的にしっかりしているのが救いなのだが…やりすぎだろコレは…


これが、俺が恐れていた『面倒なこと』の正体である。

こうなれば、人は俺の姿を見れば反射的に土下座をしてしまうようになってしまう。

それこそ、時代劇で将軍様が目の前に現れた時の状況と同じだ。


そんな『面倒なこと』はもう勘弁して欲しかったのだが、そうは問屋が卸してくれなかったのだった。


それから二週間程経った頃…


「えっ?屋敷?」

宿屋『獅子奮迅』の2階にある俺の部屋にやって来たスワシュワが俺の所にやって来た。


何でも、この国の救世主がずっと宿屋住まいでは他の者に示しがつかないので、以前、イリノスが使用していた屋敷を使用、つまり、そこに住んでくれと言うのだ。


既に、遷都は終わり、イリノスは新しい王都ゴートワイナリに移り住んでいた。

そのため、イリノスが以前使用していた屋敷は、掃除や補修などの建物管理をする僅かの者を残していなくなってしまったため、そこの管理を兼ねて住んでもらいたいと言うのが今回のスワシュワの申し出であった。


また、大賢者と言われるようになると共に、王族に近い『大公爵』の位を授かってしまった。

大公爵といえば、大公とも呼ばれ、自分の国を持つこともできる程の階級であり、国を持てばその国の名前は『○○大公国』と呼ばれる事になるのだ。

まあ、それくらいの階級にしておかないと、自分の国でさえ一瞬で潰しかねない人物と思われているからであろう。


そんな、理由から、どうしても姻戚関係を結んで欲しいと言われ、俺の名前も、ヒロシ・オハラ・イリノスとなってしまった。

俺もイリノスになったので、これからはイリノスとは呼ばずに、国王は名前のアルグレイトと呼ぶことにした。

本人も、その方が俺とさらに親しく近くなれた様に思うと言って喜んでいた。


まあ、国王を呼び捨てにするのは、普通なら不敬罪になるのだろうが、俺は特別らしい。

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