第15話 最高の鍋と釜の依頼と未開の土地で

ゼンドワはテーブルの上に置かれた鉄の塊を見ながら、

「これは…噂通りかなり上質の鉄だな。それにこれだけあれば、十分何とかなる。」

と言ったが、それを俺が遮る。


「いや、素材はそれだけじゃない。」

「えっ?」

「作業場は?」

「えっ?あ、ああ、こっちだ。」

ゼンドワは俺の言葉にとまどいながらも、俺を家の奥にある、鍛冶場に案内した。

俺は、材料を置くための広めのスペースを確認した。

確かにそこには材料と言える鉄鉱石がほとんど無い。

欠片の様なものが、数個転がっている程度で、窯にも火が入っていないようだった。

鉄鉱石不足が深刻であることが見て取れる。


「よし、ここで良いだろう。」

俺はそう言って、インベントリから、一匹分の『アイアンスパイダー』の素材を取り出し、そこに置いた。


「うわあ!」

ゼンドワがそれを見て驚き、その場に腰を抜かす。

「お、お前さん、こ、こりゃ伝説に聞く『収納』持ちなのか?!」


さっき、テーブルの上に置いた時に気付かなかったのが不思議なんだが…ゼンドワはようやく俺の能力に気付いたようだ。


「これを使ってくれ、残りは返して貰わなくて結構だ。あ、それと代金なんだが…」

「あ、いや、ちょっと待ってくれ!そう言われると有り難いんだが、俺の方が得をし過ぎている…全然、割りに合わないんだが…」

「構わない。その鍋と釜をこの紙に書いた分だけと、あと、悪いんだがここに書いてある通り包丁や道具を何本か頼む。」

俺はそう言ってゼンドワに依頼書と金貨を10枚渡した。

「あ、あんた、こ、これって金貨じゃねえか!?それも10枚も…ダメだ、ダメだ、こんなもの受け取れねえ!」

「いや、だから仕事の代金だから…」

「これは勘弁してくれ、こんな大金をワシらみたいな者が持っていたら、変に疑われて、村で悪目立ちしちまう。だから、頼むからこれは止めてくれ。」

とゼンドワが土下座して金貨を突き返してきた。

俺はゼンドワがどうしても受け取らないので、額を下げ、銀貨にして渡すと何とか受け取ってもらえた。


「兄ちゃ、いや、賢者ヒロシ様、あなたから受けた恩は一生忘れねえ。見ててくれ、スゲエものを作ってみせるからな。」

「ああ、頼んだ。」


俺はゼンドワに依頼すると、一路、エルネイアに向けて帰路につこうとした。


だが、俺は帰り道、『米』の捜索状況を【スキル】で確認したところ、『米』によく似た小さな実を付ける植物の存在を【スキル 神の目 探索】が探し当てていた。

それによると、その『米』によく似た植物は、マイズカインの森の更に東にある土地にあるのだという。

その場所は、新生イリノス王国との間にアズニ川やマイズカインの森を挟んでいるため、未開の土地となっている。

理由としては、昔から、イリノス領とマイズカインの森との間にある巨大なアズニ川とそこに棲む凶暴な魚『アリゲイザー』のせいで、橋も掛けられず、向こう岸に渡る事が非常に困難となっていたことや、川を越えたとしても、そこにあるマイズカインの森は強力な魔物が跋扈する森であり、奥に行けば行くほど魔物は強くなり、非常に危険な場所になるため、とてもじゃないが脆弱な人間が通り抜けることは無理な場所である。


その為、この世界の図書館にある地図にはアズニ川より以東は何も書かれておらず空白となっていた。


だが、俺の【スキル 神の目】は既に、全ての土地を網羅し、場所の名前こそ無いが、山や川、海と陸地などの確認は終了していた。


『善は急げ』と言うくらいだし、『米』を探しに行くくらいなら、ちょっと空を飛んで行けば危険は余り無いだろう。


「それじゃあ、行ってみるか!」

俺は、そう言うと、【スキル 超人】の飛行能力で移動を開始した。


俺は、超高速で空を飛ぶ。

音速を超えているのでマッハ1とか2とかの世界だ。

俺は普段秒速2000mくらいの設定なのでマッハ6だな。

それ以上出せないこともないが、まあ【スキル 適当】に任せている。

本当に適当だ…


俺はマッハの速さで、あっという間にマイズカインの森の上空を飛び抜けていく。

所々、樹齢が1000年以上もありそうな幹の太さの木がいくつも立ち並ぶ場所や、高さが200mを超える森もあった。


遠くの山々の上には巨大な入道雲が沸き立ち、夏の様相を見せている。


暑いわけだ、日本では冬場だったのにな。


緑が鮮やかな巨大森林を抜けると、そこには巨大な火山がそびえていた。

富士山の様な円錐形ではなく、どちらかというと円柱に近いくらいの形をしている。

それに、高さも5000m以上はあるだろうか、雲を突き抜ける程デカすぎるくせに、その数が十本もある。

まるで、立ち並ぶ超巨大煙突群のようだ。


そして、地球において見られる火山とは違い、その円柱の横からも火山の煙が漏れ出る様にいくつも立ち昇っていたり、側面から噴火した溶岩が蝋燭ろうそくの蝋のように下へ向かって流れ落ちていた。


そして、目的のものは、その火山の間を過ぎた場所にあった。


マッハとは凄いものだ。

みるみるうちに近付いた景色はあっという間に後ろへ流れていく。

昔見た映画で戦闘機などが狭い建物の間をすり抜けながら戦闘を繰り返すシーンを思い出す。


俺は、現場近くに来ると、速度を落として着陸場所を調整する。

まあ、これの加減も【スキル 適当】が大体やってくれるのだが…うーん優秀。


「あった!」

俺はついに見つけた。

多くの稲穂が金色の絨毯のように、風に吹かれて波打つ情景は、感動すら覚える。


何ヘクタールくらいあるのだろうか?

俺は、見つけた現場のすぐ横に降り立つ。

そして、その『米』によく似たものを実際に手に取ってスキルで確認する。


「ちょっと粒が大きいようだが、『米』に間違いなさそうだな。」

俺はそう言うと、そこに生えている稲を片っ端から刈り取っていった。


そしてそれを、俺のインベントリの中に収納した。


忘れていたが、当然、このままでは、食べられないので、脱穀や籾すり、精米等の作業も必要だし、あと今後のためにも種もみを残しておかなければならないだろう。


精米には色々と手順がいるが、それをひとつずつやっていくのも今後の楽しみのひとつになっていくだろう。


俺の野望の達成はまだまだ先の話だが、必ず成し遂げるつもりだ。


そして、いつの日か、憧れのカレーライスを食べてやる。


とにもかくにも、俺は、大きな目標の一つ『米』を手に入れた。


まあ、カレーライスでなくとも、『米』を使った食事に失敗とか間違いとかはない。


『米』は正義だ。


あ、そう言えば、『大豆』も欲しいよな。

豆腐はもちろん、味噌やしょう油、納豆等々、米文化と共に日本を支えてきた大豆文化を忘れてはいけない。


うーん思い出したら味噌汁飲みてえ。


香辛料も大事だが『大豆』も目標にしなければならなくなったな。


俺はとりあえず、第一目標達成ということで宿屋に帰ることにした。



俺が、宿屋『獅子奮迅』に戻ると、宿屋では何かザワザワとしていた。

何かあったのかと、探りを入れる。


すると、この宿の女主人のリカルディアが俺のところにやって来て、

「ウィルマジス王国の残党と言うんでしょうか、反イリノス派閥の者が各地で暴れているという噂が流れてきて、この旧イリノス領も攻め込まれるのではないかと皆さん、不安になっているんですよ。」

と教えてくれた。


なるほどな。

確かに俺は、ウィルマジス王国の頭となるコルディギァ国王をやっちまったが、彼の恩恵にあずかっていた人間も少なからずいたということだ。

例えば兵士達のうちでも、国からスカウトされた戦闘専門の強者達だろう。


それらの者達が、食いっぱぐれたために徒党を組んで、反乱を起こし、他の地域に迷惑をかけているとなれば、少なからず俺にも責任があるし、コイツらを抑え込もうとしても、かなりの戦闘のプロだ、普通の兵士達では敵わないだろう。


これは、俺が対処しなければならないな。


そう思った俺は、【スキル 神の目 探索】を使って、現在、イリノス王国各地で戦闘行為が行われている地域等が探せるか確認した。


すると…

「おっ!」

検索条件を絞り『ウィルマジス王国元兵士』『戦闘行為』で探したところ、旧ゴートワイナリ領と旧ウィルマジス王国直轄領との境界付近で今現在も激しい戦闘が行われている事が判明した。

こちらの軍は…地図の表示には国王親衛隊長を命じられたスワシュワの部隊となっていた。

戦況は…かなりの部隊員がやられていて重症者が多数となっている様子であった。

結構分が悪いな。


「ちっ!知り合いじゃなきゃ、放って置いたのにな。」

と俺はぼやきながら、飛び立つ。


そして、現地に移動しながら【スキル 適当】と【スキル 神の目 究極回復(広範囲指定・旧ゴートワイナリ領及び旧ウィルマジス王国直轄領との境界付近 対象指定・イリノス王国部隊)】とを併用した。


すると、地図画面のスワシュワの部隊の生体反応が異常無しとなった。


ホントにチート化したなコレ。

と言うことは、これはどうだ?

【スキル 神の目 重力魔法 グラビティス(広範囲指定・旧ゴートワイナリ領及び旧ウィルマジス王国直轄領との境界付近 対象指定・旧ウィルマジス王国部隊員)】


あっ、動きが止まった。

あ、殺られていく。


ウィルマジスの残党組には重力魔法グラビティス☓10倍でかなりの重さになるように調整したら、全員の動きが停止してしまった。

50kgの体重がいきなり500kgに跳ね上がるのだからいくら力持ちでも動けるはずがない。


もちろん戦闘中のため、全員が討ち死にしてしまったのだった。


俺が現場に到着するまでに勝負が着いてしまったようだ。


だが、一応、俺も現場に顔を出す。

ちょうど、スワシュワの目の前に着陸する。


「大丈夫だったか?」

俺が突然空から降りてきたので、スワシュワも驚く。

「あ、ヒロシ様!」

俺の姿を見て、スワシュワも自分達の部隊に起こった不思議な現象が俺のせいだとわかったようだ。

「先程の、回復魔法は、もしや?」

「上手くいったようだな。」

と俺が言うと、

「やはり!ヒロシ様の魔法でしたか!ありがとうございました!」

とスワシュワが俺に頭を下げる。

「いやあ、胸を剣で突き刺されたときは、終わったと思いましたよ。でも、その次の瞬間に一瞬で怪我が治り、次の瞬間には相手の部隊の動きが止まったんですよ。もう、奇跡というしかなかったです。」

とスワシュワは満面の笑みを浮かべた。


この時俺は、スワシュワは目力が強いが、笑えば中々可愛い事がわかった。

これは【スキル 神の目】では絶対に分からないことだ。


「しかし、何だってこんな事になっているんだ?」

と俺が尋ねると、スワシュワは、

「はい、どうも、今回のクーデターに関して、あまりにも鮮やかすぎて納得が出来ない者が、各地にいたようで…」

「なるほど、それで、腕に覚えのある者達が徒党を組んで反乱軍を結成したと…」

「はい、それに、反乱軍を装って盗賊団を結成し、町や村を襲って殺戮、強奪、暴虐の限りを尽くしている者もいるとか…」

「それはいかんな…」

俺は、自分の行動が結果的に他の者に迷惑や悪い影響を与えていることを知る。

なんかはらわたが煮え繰り返るような気持ちだ。

その表情が顔に出ていたのか、スワシュワが気を使って、

「ヒロシ様!あなた様のなされたことは間違ってはおりません。今回の騒動については、我々も全力で対処していくつもりですので、お一人で抱え込まぬようお願いします。」

「気を使わせて悪かったな。」

年下の者に気を使われるとは…俺もまだまだ、未熟者だな。


しかし、問題はその残党組による無法な行為だ。

このまま放って置くことは出来ない。

スワシュワの情報が正しいのならば、一連の盗賊団騒動は、ウィルマジスの残党組によるものと概ね断定してもいいだろう。


何とか対策を考えよう。





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