第12話 ウィルマジス王国を解体します
『俺に攻撃を加えようとすると、呪いの魔法が本人に加えられる』
と言ったが、コルディギァはそんな俺の言葉を信用することは決してない。
なので、再度、あのショボい魔法を再度展開する。
もう、俺、コルディギァが可哀想すぎて、泣きそう。
それと同時にコルディギァに『死の呪い』の魔法が展開される。
心筋梗塞の様な症状がコルディギァを襲う。
「くあっ!」
コルディギァは心臓付近を手で押さえながらその場に倒れて一瞬で息絶える。
「だから、止めろって言ったんだよ。」
相手のせいとはいえ、今回、俺は衛兵も含め、初めて人を殺してしまった。
だが、俺はコルディギァが死んだことに対してあまり罪悪感は無かった。
元々、コルディギァは戦争により多くの人間を殺してきた大量殺人犯人だ。
戦争に勝てば『英雄』だが戦争に負ければ、いわゆる『戦犯』というやつだ、大概、戦争に負けた国の大将や指導者がこれに該当する。
捕まればその国の法によって裁かれる。
相手の国の人間を殺しまくっているんだから当然ながら死刑は免れない。
だが俺も、この国において人を殺してしまった。
この国と戦争を始めたということだ。
まあ、ウィルマジス王国に対する『宣戦布告』になるだろうな。
覚悟はしていたが、もう、後戻りは出来ない。
大いなる力を手に入れた者には必ずそのツケが来るだろう。
今後は、そのためにも責任のある行動をとらなければならないだろう。
実はその場には、コルディギァの他に、その妻。息子、娘達もいた。
そして、宰相や取り巻きの王族達も揃っていた。
衛兵達が一瞬にして全員殺されたことで、パニックになっていたが、更に物理攻撃を防御する魔法がかかっていた国王を目の前で殺されてしまったことで、さらにその混乱が加速する。
「うわあー!化け物だあ!」
「だ、誰か!助けてくれえ!」
「キャー!なんなの?なんなの?」
部屋の出口に全員が殺到する。
「ちょっと待て!お前達!」
俺が大きな声で叫ぶ。
【特殊魔法 拡声】で声の大きさを増幅しているので部屋の中に地響きのように声が響き渡る。
その声に驚いた全員が、腰を抜かしてその場にへたり込む。
「こちらに戻ってこい!」
【拡声】は継続している。
さらに【スキル 威圧】を込めているので全員が俺に従うしかなかった。
全員が俺の前で土下座する。
「先程も言った通りだ。全ての戦闘行為を解除しろ。そして全ての王族は世に下り、一般人として生活をすること。お前達の一族の支配は終了、しばらくは暫定政府としてそこの宰相に指揮を執らせる。当然、戦闘行為を行えばお前も直ぐに『死の呪いの魔法』で即死だからよく肝に命じて動け。」
と俺が言うと、コルディギァの息子が立ちあがった。
年は20歳くらい、子供の頃から甘やかされてきたのだろう、生意気な顔付きをしており、俺に文句を言いたいという気持ちがあるのはすぐに分かった。
こいつには【神の目】を使う必要もないと判断した。
「世に下れだと!王族の俺達がそんなこと出来る分けないだろう!」
「じゃあ、俺と戦争だな、俺と戦うのならかかってこい。いつでもいいぞ。」
俺がそう言って睨み付ける。
すると息子はたじろぎ、目を伏せる。
こんなトンでもない魔人に勝てるわけがないとでも思っているのであろう。
「そ、それは…」
「それに誰が立ち上がってもいいと言った?座れ…」
と、俺が【威圧】をかけて言うと息子は、恐怖に顔を歪めてその場に膝を付いて座る。
今までこの様な屈辱的な扱いを受けたことが無かったのだろう。
悔しさに顔が歪む。
コルディギァの妻や娘は、コルディギァが目の前で死ぬところを見せられているためか、震えが止まらないようだった。
「おい、宰相エレゴス…」
俺は、【神の目】により全ての人間の情報を入手していた。
【スキル 宇宙衛星 探す】が【スキル 神の目 探索】に進化し、あらゆる情報が取り込めた。
名前、性別、人種、経歴、性格、家族、人間関係、病気の有無、感情の状態等、スキルは格段に進化していた。
エレゴス・アクティアス…男性、ウィルマジス王国宰相、ヘイタール人、主の性格『冷静沈着』、(経歴、家族等省略)現在の感情『恐怖』、スキル『政務補佐』『駆引』
「は、はい!」
エレゴスは完全に俺に恐れを為している状態であり、名前を知られているとわかった途端、その感情が増加し、『恐怖』から『畏怖』になる。
「お前の指揮により、戦闘行為を停止させ、属国となっている国を全て解放すること。」
「は、ははーわかりました。」
エレゴスは土下座状態からさらに床へ頭を擦り付ける。
あっ、【威圧】を緩めるのを忘れてた。
その後、俺はさらにエレゴスへ指示を出して、王族を一時拘束させ、地下牢に入れさせた。
しばらくすれば、身分剥奪、私財没収の後、釈放する予定だ。
また、捕虜となっていた各国の兵士等を解放、この国の兵士達も一旦組織や任務を解除させ、再度、新たに立ち上げる国の兵士として公募する。
新たな国の王は、イリノスこと、アルグレイト・ドルフ・イリノスに任せることにした。
俺には国を運営していくほどの力もなければ人望もない。
それに、国を運営するなんて、全く興味がないからな。
柄にもない事をして国を崩壊させるような奴では『戦犯』以上に責任は重い。
ということで、俺は気ままな独り旅を継続することにした。
数日後、俺は、イリノスのいるエルネイアに戻ったのだが、それまでは、ウィルマジス王国の政治体系の改革を推進するため、国内で暴動を起こさせないようにする等、色々と手配する。
暴君と呼ばれる様な指導者が亡くなると、限って暴動を起こす奴がいる。
その為に、俺はエレゴスを利用した。
国内に御触れを出して、国民の前にてコルディギァが亡くなった事や王族を捕らえた事を発表し、さらにこの国はイリノスが統治することを公表した。
当然、国民の間に喜びや歓喜の声は上がったが、不安を訴える者もいた。
無政府状態となるからだ。
俺は城の演説壇上から【スキル 拡声】により、旧ウィルマジス国民に向け、
『以後の政務は暫定政府として国内の状況をよく知るエレゴスが担当し、当面の間、国内の改革のために働いてもらう。彼には監視役がついているため、勝手なことはさせない。その後は次期国王としてアルグレイト・ドルフ・イリノスが統治する。』
『コルディギァ死亡で喜ぶのは構わないが、暴動を起こしたりして国内の秩序を乱さないこと。これには厳罰をもって対応する。』
『次期国王となるイリノスは温厚な人物であり、国民のためを思って動く人物である。』
等々、説明した。
お陰で特に国内は混乱もなく静かなものであった。
かなりの圧政であったため、コルディギァを慕う国民は少なかったようであり、城に出入りし、商売をしていた者も新たに顧客が変わるだけのことと思っているのか、文句を言う奴はいなかった。
だが、そうは思わない輩もいた。
それらの者は後で、この新生した王国に抵抗をすることになるのだが、それは、まだ少し後の事…
「本当にありがとうございました。」
エルネイアに戻った俺に頭を下げるのはアルグレイト・ドルフ・イリノス王だ。
新たな国の名前はイリノス王国といい、ウィルマジス王国の本来所有統治していた領土はもちろんだが、既に、王族を失っていた二つの国については、イリノスが引き継いで統治することとなった。
王族を失っていた国はゴートワイナリとデコロンディアという国で、いずれもウィルマジスに激しく抵抗したため、王族は全員が捕まり処刑されていたためだ。
どちらも旧ウィルマジス王国の土地に隣接し、特にゴートワイナリはイリノスとも隣接していた関係もあり、全てが地続きとなり、飛び地となったりせず、統治しやすい環境となっていた。
また、そんなこともあって、新たな王都は国の中間地点となる旧ゴートワイナリの中に作られ遷都される予定である。
以前ウィルマジス王国の属国となっていた国のうち、解放出来た国は、ほとんどがイリノス王国に協定関係を結び連合国となった。
まあ、クーデターの如く、1日で強大な軍事国家を壊滅に追いやった国なのだから協力関係を結んでおいても損はしないというのが各国の本音だろう。
たが、その力を利用しようとする国は少なからずあったが、俺が【スキル 神の目】で各国の首脳陣を【探索】し、思惑を探ったが、大体はかなり『友好的』であった。
だがそれに加えて多かったのが『疑惑』という感情が大半であり、それまでウィルマジスの属国となっていたはずのイリノスが何故、この様な事が可能にできたのかという事に疑いを持っているようであった。
「まさか、あのまま出て行って、ウィルマジス王国を潰しにかかっていたとは思いませんでした。」
そう言ったのは、スワシュワで、全くもって信じられないと言うような表情であった。
今回の件で、国王親衛隊長を命じられたようだ。
「俺に頼むということはそう言うことだ。」
俺がスワシュワにそう言うと、スワシュワも、
「肝に命じておきます。」
と神妙な顔をした。
「で、ヒロシ様はこれから何を?旅をされるとかは噂で聞きましたが…?」
「そうだな、とりあえずは『獅子奮迅』に戻って、『魔猪の香辛料煮込み』を…あっ!うーむ…」
「どうなされました?」
俺があることを思い出し声を上げると、それに驚いたスワシュワが尋ねてきた。
「そうだよ!【スキル 神の目】に進化したんだから、『米』の場所も分かるんじゃないのか?それにカレーを作るための具材となる野菜や香辛料も…」
『可能です。時間は少々かかりますが、【探索】されますか?』
久しぶりに【神の導き手】さんの声が聞けた。
そんなもの答えは、
「探せ!どんなことがあっても!」
『了解しました。』
このやり取りはスワシュワには聞こえていないため、先程から俺が一人でしゃべっている状態であり、単に『危ない人』と思われただけであった。
よし、これでいい、後は、調理用の道具を手に入れなければ…
俺は『シュセン堂』に行った。
そこでイケズウに聞くことがあった。
それは鍛冶師の事を聞くためであった。
【神の目】があるのに何故かって?
図書館や役所の資料等で得た知識は、所詮、表面上のことであり、本当に良いものは、その筋の者に聞くのが一番だからだ。
その為にその筋のプロ、情報ならばこの男、イケズウなのである。
口入れ屋という人の斡旋を扱う仕事上、様々な情報が彼には寄せられる。
当然ながら鍛冶師の事も、何かしら知っているはずだと思たからだった。
「鍛冶師ですか…」
イケズウは俺が、店に戻って来たときには満面の笑みを浮かべて出迎えた。
情報通であるイケズウは、俺がウィルマジスの件でこの街を救ったことも直ぐに耳に入れていたこともあっての笑顔だったが、
「それがですね、最近、この街の鍛冶師がいなくなるって言うか、廃業する者が増えましてね。」
と何やら、残念そうな表情となる。
「それは一体?」
「何でも、街に入ってくる鉄鉱石なんかの流通量がほとんど無くなっているみたいで、仕事が出来ないらしいんです。」
「なるほど、原因はあるのか?」
「魔物ですよ。」
「魔物?隠し鉱山は?」
「ええ、私はこのような仕事をしておりますのでよく存じておりますが、イリノス様の持っておられる隠し鉱山はまだ、公表されていませんので、誰も知りません。確かにあそこは魔物はおりませんが、あれは元々ウィルマジス王国用に利用することが決まっていましたし、元々の産出量が少ないため、そこから鉄鉱石を譲って頂くことは出来ないようでした。それ以外の鉱山としては『トライア鉱山』が豊富な採掘量を誇っていましたが、その鉱山がある魔物の出現で、鉱山内に入ることが出来なくなってしまったらしいのです。そのため、鉄鉱石を扱う鍛冶師の仕事が激減し、廃業に追い込まれている者が多数いるという話なんです。」
「冒険者ギルドの者達は?」
「ええ、何人か討伐に向かわれたそうなんですが、全てが返り討ちにあったみたいで、誰も戻って来ていないみたいです。この件で今ではかなりの上位冒険者がいなくなってしまったとか。」
「そう言うことだったのか」
俺はイケズウの話を聞くまで全くそのような話を聞く事はなかった。
流石、口入れ屋だなと思った。
さて、どうしたものか…
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