第13話 アイアンスパイダー

俺は一旦、宿屋に戻り、対策を練ることにした。

俺が【スキル 神の目 図書館】で調べたところ、『トライア鉱山』に巣食っている魔物は『アイアンスパイダー』という金属を食べる魔物らしいが、特に好んで食べるのが鉄鉱石ということで、体の硬さは鋼鉄並みで、動きは魔猪よりも速いらしい。

うーん、魔猪の速度がイマイチよくわからないんだが。


最初にここの管理者が『アイアンスパイダー』を発見したらしく、初めはかなり小さかったらしいが、今では10m以上の個体に成長しているという事がわかっている程度で、それ以外の情報は入ってきていない。

俺ならば倒せることは倒せるだろうが、勝手に冒険者ギルドの仕事を取る訳にもいかないしな。


あーあー、情報が余りない以上、俺が直接、現場に行かなくちゃならないか、【スキル 神の目】をさらにここに使うかどちらかということか。


まあ、【スキル 超人】のお陰でスーパーマ○並みの身体の能力があるので、簡単には殺られることはないだろうが、とにかく、相手の情報を知っておくべきだな。

とりあえず、俺は【スキル 神の目 探索】を使って、『トライア鉱山』を探索さがした。

目の前に地図の画面が現れ、『トライア鉱山』の状況や、その付近に生息している『アイアンスパイダー』を指定して捜索する。


「おー、いたいた!どれどれ、1、2、3、4、5、、6、六匹か…で、他には、えっと、これは人間か?えっ?!三人だけ?ちょっと待て、いくら魔物の情報が無いからといっても、この人数じゃ、これはダメだろ。」

と驚く俺。

何人もの冒険者が殺されているだろうと言われる鉱山に三人程度で入り込むとは命知らずにも程がある。

だが、次の瞬間、画面の表示を見てさらに驚く。

「ええっ!!?パーティー名『ファングオブラビット』…カナリア達か!?」

この間、助けたばかりだというのに、こんな危険な現場に行かせるとは…

冒険者ギルドの暗黒面を見たような気がした。


よく見ると彼女達の画面表示が『調査』となっていた。

恐らく、斥候のインコを中心に現場の状況を『調査』に来たのであろう。


「まあ、アイツらの実力で流石に討伐は有り得ないからな。」

とホッと胸を撫で下ろしたが、画面の状態を見ているとどうも様子がおかしい。

『アイアンスパイダー』の一体に少しづつ近付いている様な動きをしている。


バカな!アイツら、調査と言われて来ているのに、欲を出しやがったな。

確かに『アイアンスパイダー』を一匹倒せばかなりの報酬が貰えることは間違いない。

だが、奴の体は鉄以上の硬さだ。

並みの剣やショボい魔法等では傷すら付かない。

それに、加えて動きも敏捷で、性格は凶暴、人間が一人や二人掛かっていったところで、勝ち目はない。


「ちっ、アイツら、後で説教だな。」

俺は、ローブを纏うと、宿屋の窓から飛び出した。

急いでいるときの○ーパーマンの気持ちがよくわかった様な気がした。


俺がその気を出して空を飛ぶと、秒速で2000m/s以上、戦闘機より速い。

拳銃の弾が340m/sだから、かなり速いとだけ言っておく。

『トライア鉱山』までは約20km程なので、大体10秒程で到着だ。


そして、カナリア達がやられる、数秒前に現場付近に到着したのであった。


カナリア達は、『アイアンスパイダー』の吐き出す『鉄糸てついと』という、金属の硬さと先端がサバイバルナイフの様な形状と鋭さを持つ糸状のものにより、文字通り体を岩場の岩に釘付けの様な状態となっていた。

彼等は肉食ではないが、獰猛な性質なので、かなりの確率で敵対する者は殺しにかかってくる。

実際、カナリア達は『鉄糸』で手足だけでなく、胸や腹を撃ち抜かれた状態であった。

幸いにして、装備品がその部分を守っていたため、命を奪われるところまでには至ってはいなかったが、それでも内臓に到達しそうな傷だ。

それに手や足は辛うじてくっついてはいるが、半分以上がちぎれ飛んでいる様なレベルであり既に動けない状態であった。


「おいおい、マジかよ!間に合え!」

俺はようやく肉眼で彼女達を捉えたが、その惨状に危機感を覚える。

いくら俺でも死んでしまった奴は生き返らせることは出来ないからだ。


『アイアンスパイダー』は最後の攻撃と思われる大技を繰り出そうとしていた。

俺は接近しながらも【スキル 神の目】で奴を【探索】した。

奴がやろうとしている技は『鉄球モンケン』というもので、大きな鉄の玉を作り、それで殴り付けて相手をペシャンコに潰してしまうという技のようで、『鉄糸』とのコンボ技のようだ。

この鉄球は1~2トンはありそうで、それがカナリア達に向けて放たれた。


「うおおーー!」

ガーーンーンーンーーー!!

金属の響く音が鉱山の岩場に響き渡る。


『鉄球』はカナリア達には届かなかった。

その間には、俺がいたからだ。

俺はその『鉄球』を片手で受け止めていた。

そう、俺は超スピードで現場に到達していたのだった。

あの重い『鉄球』は【超人】の力で受け止め、さらに一瞬で跳ね返し、『アイアンスパイダー』にぶつけた。

ゴーンという大きな音がして、一回、『アイアンスパイダー』は地面に転んだが、流石に自分の体から出たものだからなのか、特に効き目がある感じではなく、『アイアンスパイダー』は直ぐに立ち上がってきた。


「仕方ない。悪く思うなよ。」

俺はそう言うと『アイアンスパイダー』に【火魔法 溶解】を展開した。

そう、ウィルマジス王国の王城内で使用し、剣や槍を溶かした魔法だ。

これは金属をも溶かす高熱を金属自体に発生させる魔法であり金属系の魔物にはよく効く。


「グルルルァァーー!!」

体の大半が金属体で出来ている『アイアンスパイダー』はその高熱で一瞬にして溶けていく。

断末魔を上げて『アイアンスパイダー』は死んでしまった。

まだ六体のうちの一体を倒しただけだから油断は出来ない。

それに、重症のカナリア達を助けなくてはならないのだ。


俺はまず、彼女達の手や足を固定している『鉄糸』を外す事にした。

岩にガッチリと食い込んでいる『鉄糸』は指で慎重に取り外した。

普通なら取り外しにはかなりの力と工具が必要になるところだが、それは俺の【スキル 超人】の指の力で何とかなった。

ちなみに俺の指は鋼鉄の剣すらひん曲げる程の力を持っている。


俺は『鉄糸』を外しながら傷口に治癒の魔法と回復魔法をかけた。

今の俺の回復魔法などのレベルは最上位である。

というのもあの【魔法全鑑】に載っている魔法を全て修得していたからだ。

その中には、ちぎれ飛んだ肉体の部位を修復する【部位蘇生】というのもあったり、また、【究極回復】(ウルティメットリカバリー)という魔法も修得していたので、カナリア達は完全回復状態に戻せた。


「ヒロシ様、この度は誠にありがとうございました。」

カナリア達は俺に土下座していた。

それは俺の説教を食らっているからだ。


というのも今回は、『調査』ということであったのに、彼女らは欲を出して命を失うところだったからだ。

前回も欲を出して、餓死寸前のところを助け出したが、あの時は、魔法剣の入手やその他の宝物を手に入れる為のクエストの最中であり、また、引っ掛かったのはそういう物欲を掻き立てるような財宝を餌にした罠であり、財宝を前にして、ギルドの冒険者としては手を出さないという訳にはいかなかったのだろうが、今回は目的外の行動を取って、自分達を命の危険に晒してしまったということであり、状況は前回と違いかなり良くない。

保険金なら支払われないレベルだ。


だから、俺が説教をしているのだ。


「今回はたまたま俺がお前達の存在に気付いたから良かったものの、今度こんなことをしたら、同じ様に助けられるとは限らないからな!」

「はい…すみませんでした。」

「もう二度と命を粗末にするような危ないことはしません。」

「ごめんなさいですう。」

と三人は土下座しながら俺に謝った。


「ところで、何でB級のお前達が、こんな危険なクエストを受けているんだ?」

と俺が尋ねると、カナリアが顔を上げて応えた。

「実は、S級とかA級の冒険者のパーティーがこの『トライア鉱山』の件で何チームかが、潰れてしまったのと、別件で出払っていて、私達しか動けるパーティーが無かったんです。」

「しかしなあ、相手はあの『アイアンスパイダー』だぞ、お前達もその恐ろしさを身に染みて覚えたことだろうが、そんな危険な魔物の調査に行かされるとはな…」

と俺はギルド長のヤイダルの顔が目に浮かぶ。

「うーん、ヤイダルがそんな事を言ったのか?」

「いえ、これは私達が志願しました。ヤイダルさんもその別件に対応していたんで…私達が独断でギルドの受付けに頼み込んだんです。」

「はん、なるほどな…」

俺は岩に座りながら彼女らの話を聞いていたが、別の『アイアンスパイダー』の気配がし始めたので、立ち上がる。


「ここで、じっとしていろ。」

俺は、カナリア達に防御結界魔法をかけてから、移動した。


他の『アイアンスパイダー』五匹はかなり近くまでこちらに接近していた。

さっきの仲間の叫び声を聞いたのだろう。


先程の『アイアンスパイダー』は個体の大きさは 7~8mというところだったが、今度のは、体長が10mを超える個体ばかりであり、少しだけ上位個体だと思われた。


俺は、先程と同じ様に【火魔法 溶解】を展開して、残りの『アイアンスパイダー』を溶かす。

これらの個体も大きな叫び声を上げて絶命した。

全部をやっつけた。

奴らはすべてドロドロに溶けた鉄の塊の様にになってしまったので、俺は【瞬間冷凍魔法】で冷やしてからインベントリを展開して、すべての『アイアンスパイダー』を収納する。


「これって、買い取りとか、素材として利用できるのかな?」

と言うと【神の導き手】が、

「『アイアンスパイダー』の素材はかなりの高額で買い取りをしてくれます。また素材は金属の製品や剣や鎧などの材料としても幅広く利用されています。」

「うむ、なるほど、その情報は正確のようだな、俺の脳内の情報も更新されているようだ。」

これは俺の【全知全能】が更新され、その内容が【神の導き手】と同調されている事を確認したため、この様な表現となっているのだ。

つまり【神の導き手】はもう俺から離れても、俺は一人で大丈夫ということなのだろう。


『違います。勝手に決めつけないようにお願いします。』

うおぃ!?違うのかーい?

【神の導き手】さんが喋りかけてきた。


『それは認識が違います。あくまでも【スキル 全知全能】は【魔法全鑑】を修得したことにより、単に【神の目】へ進化したときに付属しただけのスキルであって、まだまだ本来の【全知全能】と言われる知識の深淵には程遠い状態、つまり未完成であります。なので、このスキルがあるからと言ってこの世の全てを知っているという訳ではないのです。』

「と言うことは【神の導き手】さんは全てを知っていると?」

『ま、まあそうですね。ですが、全てをお伝えすることは不可能です。』

「それはどうして?」

『今の段階で、お伝えしてもヒロシ様が理解できないためです。』

「ということは、理解するためにはまた進化するのか?」

『それも、今の段階ではお答えできません。』

ちょっとドヤってる?

「うーんちょっと怪しいが、そう言うことにしておこう。」


俺はカナリア達の所に戻り、『アイアンスパイダー』は全て討伐したことを教えてやる。


「ひえー!さ、流石ヒロシ様ですう!」

それを聞いた魔法使いのスズメが感動している。

やはり賢者という魔法使いからしてみれば神のごとき存在にはとても憧れがあるのだろう。


こうして、ようやく鉱山の魔物問題は解決したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る