第11話 先制攻撃
俺がスワシュワに依頼の内容を聞いた。
「お願い?」
「はい、私はこのエルネイアの街に所在します国の衛士隊に所属しています。現在、この国を統治しているのがウィルマジス王国という国なのはご存知だとは思いますが、どうも、そのウィルマジス国王が、ここイリノス領の領主であるアルグレイト・ドルフ・イリノス様にあらぬ疑いをかけて、この地を接収しようとしているらしいのです。」
接収とは、強引に召し上げ、要は理屈をつけて取り上げることだ。
「ほう、それで?お前達の国の役所の上層部は何と?」
「いえ、王家のやることに関してはほぼ不干渉ですので…」
「ふむ、で、この地が取り上げられたとして、どうなるのだ?」
「元々ウィルマジス家は数々の侵略で領土を拡げていった国ですし、現在も、領土拡大のため隣接する国と戦争を繰り返している状態です。そのため、軍事費がかさみ、税額は肥大し、国民は疲弊している状態なのです」
「まあ、そうなるわな。」
俺は転移前の日本で色々と学び、知識を得たが、戦争をすれば、最終的に皺寄せがくるのはいつも国民である。
「そして、今、このイリノス領に手を出そうとしているという訳なのです。」
「それは…」
俺は、この時、スワシュワに、
『それは、どういう事だ?』
と聞こうとした。
だが、それは必要無かった。
俺の脳内には、この地の成り立ちの歴史でさえ、修得されていた。
それは、こういうことだった…
イリノス領は、元々、ウィルマジス王国に関係の無い独立した国であった。
だが、約10年前、ウィルマジスの侵攻が激しくなり、イリノスにその牙が届くと思われた時、イリノス伯爵は、戦うことなく無血でウィルマジスに国を開放し降伏した。
そして、高額の税を支払うことや、ウィルマジス家に忠誠を誓うことを約束した。
それにより、国民は守られ、伯爵本人も命を救われた。
また、それに加え、領地を守る衛士と呼ばれる兵士はほとんどがイリノスの元々の部下であり、ウィルマジス家は戦争をする金さえあれば、特に何も言ってくることは無かったのだ。
要は金さえ出していれば自分達の国の治安は維持出来ていたのだった。
だが、ここに来てその状況が変わってきたという話なのだろう。
「それは、ウィルマジスが、この国の利権に目をつけたと?」
「えっ?…はい、その通りです。」
スワシュワは一瞬ドキリとした表情をする。
「ふーん。」
俺は全てを知った上で、スワシュワに話をぶつける。
「ウィルマジスの狙いはこの国の隠し鉱山『ダイナサイト鉱山』、そして、お前達はそれを守るため、ウィルマジスと戦争をするつもりと、言うことだな?」
「なっ!?何故その事を?」
利権について言及されたときは、一瞬だけ驚いたようだったが、俺がその利権の正体、つまり、隠し鉱山の事を知っているとは流石に思ってもみなかったのだろう、
恐らく、イリノス伯爵はこの鉱山で産出した鉱物の売却利益分をウィルマジスに上納し、領民の税に負担をかけないようにしていたのだろう。
それが、あらぬ疑いと言うよりも、ついにその隠し鉱山の事が何らかの形で発覚、漏洩したことから、接収という格好を執ろうとしたのかも知れない。
「我々は、この10年、アルグレイト様と共にウィルマジス王国の弾圧や他の列強国からは『腰ぬけ王国』とさえ言われ、罵られてきました。そんな中でも希望を失わず、耐えるだけの屈辱に耐えて参りました。そのためにもあの鉱山の事だけは何としても知られたく無かったのです。それが、我々の最後の砦だったからです。ですが、それが、ウィルマジスに知られたからにはもう、おとなしく彼等の下に付いている訳には参りません。刺し違えてでも、奴等には我等の最後の足掻きを見せたいのです。しかし、そのウィルマジスと事を構えるとして、私共だけでは、絶対数の戦力が足りません。このままでは、結局、ウィルマジスの戦力の波に飲まれ、この街やこの地に住む人々の命が奪われる事は確実でしょう。この国の者ではないヒロシ様には、全くもって何の利益もない話であることは重々承知しておりますし、このような不躾な願いを受け取られる立場でないこともわかっております。我々には時間も金も武力も、何もありません。ヒロシ様の恐るべきお力はこの街の皆から聞き及んでおります。どうか、我等の救世主として、その偉大なるお力をお貸しくださいますよう…何卒、何卒この通りです!よろしくお願いします。」
とスワシュワは座っていた椅子から立ちあがり、その場に膝をついて土下座する。
おいおい、お前もかい!
やっぱりこの世界は土下座が基本なのか?
「俺はこの国の人間ではない。だから、お前達が誰とどこで戦争をしようが、それはお前らの勝手だ。」
「えっ?あっ…たっ確かにそうですよね…」
スワシュワの顔色が真っ青になっていくのが手に取るようにわかる。
俺が手助けしなければ、このイリノス領はウィルマジス王国に蹂躙されるであろう。
スワシュワの言う通り、俺にはコイツらに手を貸す、義理もなければ恩もない。
勝手にやっていろと思うのは当然であろう。
しかし……
「だが、ここの料理が食えなくなるのはちょっと困るな…」
と俺が言うと、スワシュワが失意のために下がっていた顔を上げて俺を見る。
「そ、それでは…」
「仕方がない。手伝ってやるか。」
「あ、ありがとうございます!」
スワシュワが再び土下座で頭を下げる。
涙が床にポタポタと落ちているのが見える。
それはもういいって!
ということで、俺はスワシュワに連れられ、馬車に乗り、イリノス伯爵の屋敷に行くことになった。
飛んで行けば一瞬なのだが、そこは空気を読む俺。
大きな屋敷に到着すると、執事の案内でイリノス伯爵の部屋に通される。
そこは彼の執務室のようであり、部屋の奥に置かれた大きめのデスクに向かって何やら書き物をしている様子であった。
イリノス伯爵は、年齢が50歳くらい、体格はやせ形で、意思の堅そうな顔付きに短い口髭を生やしている。
ブラウンの短髪を七三に分けた、一見して超真面目人間に見えた。
そして、俺はスワシュワから紹介を受ける。
「イリノス様、こちらが賢者ヒロシ様でございます。ヒロシ様、この方が当領主アルグレイト・ドルフ・イリノス様でございます。」
俺は紹介を受けると軽く会釈をした。
イリノスはスワシュワから、俺がウィルマジス王国への宣戦布告に助力する旨を伝え聞くと、いきなりデスクから俺の前に回り込み、その場に土下座する。
「ヒロシ様、この度の御助力、大変感謝いたします。スワシュワからも話を聞かれたと思いますが、私は10年前に、恥を忍んでウィルマジスの傘下に下りました。ですが、それも全ては国民のためを思ってこその決断でした。ですが、今回の接収は我々の限界を超える非情な侵攻行為と同じです。前回ならいざ知らず、このまま無抵抗の状態では我々イリノス領の者達はウィルマジス王国に皆殺しにされてしまうでしょう。貴方様の噂は、昨日、街の衛士から聞かされました。私は、それを聞いたとき、これは神の導きだと確信しました。どうか、我々の守護神としてその偉大なるお力をお貸し下さるよう、伏してお願い申し上げます。」
かなりの責任感が俺を襲う。
まあ、ウィルマジスの蛮行は今に始まった事ではない。
一言で言えば残虐非道、そんな国で10年間も堪え忍んでいたのだから、今回の接収行為は到底耐えられないものなのであろう。
だけど俺って、この間まで、平和な国、日本の中でのんびりと暮らしていたのに、何この状況?
いきなり手を貸せとか言われて、要は人を大量に殺してくれと言うのでしょ?
俺、生き物でも魔物は何とか殺せるとしても、同じ人間にこの力を使えるのかなあ。
そんなにこちらの国に馴染みがある訳でもないし、相手の国に対しても、恨みや辛み、憎しみの気持ちが無いのだから。
そんなことを思いながらも、この状況は刻々と過ぎていく。
とうとう領主にまで土下座させてしまう俺って一体何者って感じである。
だが、人は大量に殺さなくても要は戦争を回避、若しくは最小限の戦闘でこの争いを終結させればいいんだろ?
じゃあ、話は早い。
相手の大将を殺れば良いのだ。
じゃあ、どうすればいいのか。
まあ、ウィルマジス国王はウィルマジス王国の王都ルゴルディンにある王城にいる。
そこで話をつけるだけだ
王都や王城の場所は俺の頭の中にある。
仕方がない、とりあえず、ルゴルディンに行くことにするか。
俺はイリノス伯爵に少し待っておくように言うと、一旦イリノスの屋敷の庭に出てから空に飛び上がる。
それを見たイリノス達が驚いている。
「そ、空を飛んだ!?ヒロシ様!い、一体何を!!?」
「方を付けてくる。」
「えっ?えっ?えーーーーっ!!??」
俺は単身、ルゴルディンに乗り込む事にした。
別に蛮勇でも勇者気取りでもない。
面倒なことは早く片付けるに限るというのが俺の信条なのだ。
俺はそのまま【スキル 超人】の持つ能力【超高速飛行】で王都ルゴルディンに向かって飛んだ。
そして、片道約500kmはあると思われる道のりを一瞬で移動して、ウィルマジス王国の王城に到達した。
【スキル 神の目】により国王がどの場所にいるのか既に把握済みである。
それは『王の間』であり、常に国王を守護する衛兵達が周りを取り巻き、鉄壁の守りを維持していた。
俺はその場所へ、壁をぶち抜いてダイレクトに飛び込む。
ドゴオォォーーーンンンーーー!!
轟音を立てながら『王の間』に到着した。
粉々に砕ける石の柱や壁、立ち込める粉塵。
辺りは爆撃を受けたような惨状となる。
なお俺については、【自動絶対防御】と【超人】の肉体強化スキルのお陰で肉体には一切影響はない。
逆にこの事態に驚いたのが第18代国王コルディギァ・ウェノサイド・ウィルマジスであった。
驚きで王座から転げ落ちる。
「な、な、な、な、何事だ?!」
突然の事に、慌てふためいている。
「わかりません!何かがこの城にぶつかったものと思われます!」
コルディギァ国王は高さが100m以上もあるような、まさかそんな城のど真ん中に飛び込んでくるような命知らずの人間は見たことはないであろうさ。
俺は、ガラガラと崩れ落ちた壁の残骸の中から姿を現す。
普通、こんな人間はいない。
もうこの時点で怪物みたいなものだ。
なので、この場にいる者全員が恐怖に体が固まる。
「なっ、なっ、?お、お前は一体何者だ!?」
そんな中、国王を守る衛兵どもが何とか勇気を振り絞り、手に剣や槍を持って俺に突きつける。
【火魔法 溶解】
俺がその呪文を唱えたのではない、【スキル 適当】により、俺の望む最適な魔法が展開されるのだ。
その魔法により、俺の直近にいた衛兵達が手に持っていた武器は、ドロドロの溶鉄に変化する。
「ギャーー!」
「ぐぁーー!」
溶けた鉄が、持っていた手に張り付いて炎を上げる。
肉が焦げる臭いが辺りに立ち込める。
「人に武器を向けたら、その報復を受けることは頭の中に入れておいて貰わないとな。」
さらに周囲にいた20人以上いた衛兵達も、その身に付けていた鎧が溶け、全身が燃え上がる。
みんな大声をあげてその場に転げ回る。
全員同罪だ。
これは、いわゆる正当防衛というやつだ。
殺されそうになって、大人しく攻撃を受ける馬鹿はいない。
まあ、俺が、国王に会うために先に『王の間』に飛び込んで原因を作ったんだけどな。
でも、正攻法で面会を要求しても時間がかかり過ぎるだけだろうし、下手をすれば会わせて貰えないかも知れないからな。
「なっ、おま、おま、お前は!?」
コルディギァ王は、余りにも突然で、無慈悲な攻撃に開いた口が閉まらない。
「コルディギァ王よ、お前が現在、各国で行っている戦闘行為を全て停止しろ。さもなくば、お前やお前の親族に死の呪いをかける。」
と俺は言った。
こんな言葉で言うことを聞くとは思わなかったが、とりあえず戦争を回避するには死の恐怖によって抑制しなければならないと思ったからだった。
「な、何をバカな事を!そんな脅しにこのワシが恐れるとでも思っているのか!このウィルマジス王国の頂点たるこのワシに向かって、不敬も甚だしい!」
「お前、この状況がわかっているのか?」
俺は、コルディギァ国王に、周囲に倒れて焼け死んでいる衛兵の事を言うと、コルディギァは、
「衛兵はこのワシを守って死んだのだ。当然だろう。」
「いやいや、そうではなくて、周りの皆が全部死んだら、誰もお前を守ってくれる者がいないのだぞ!」
「は、そんなことか。ワシはそんな魔法程度では死なんぞ。」
俺が【スキル 神の目】で【探索】したところ、彼の身体の周囲には物理防御魔法が掛けられていた。
それが先ほどの自信なんだろうが、それって魔法防御はできないんだけどね。
「食らえい!」
そう言うとコルディギァは俺に向かって魔法を行使してきた。
何かショボい【火の魔法】を俺の方へ飛ばしてきた。
それはピンポン玉のような小さい玉状の火であり、これで誰かが死ぬのかと言うくらいショボすぎて、俺は別の意味で驚いた。
速度も遅すぎて、スキルを使わなくても余裕で躱すことができる。
「なっ?このワシのファイヤーボールを躱しただと?!」
えっ?それって驚くとこなの?
それで驚かれるなんて、逆に俺が驚くわ!
俺は、仕方なくコルディギァに対して呪いの魔法を展開した。
今度、俺に物理若しくは魔法攻撃を加えようとした時には攻撃対象がその者に特定され、反射する様にして『死の呪い』の魔法が本人に降りかかるという恐怖の魔法であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます