第9話 上位悪魔倒します
俺は新しい刀『
そりゃ銀貨三枚で最強の刀を入手出来たのだのだから何も云うことがない。
恐らく、トランクラージュ城の魔法剣よりもランクは上かも知れなかった。
飯は先程【スキル 宇宙衛星】で検索して見つけた『魔猪の香辛料煮込み』を食った。
味はどうだったかだって?
美味いに決まってるじゃないか!
まあ、この煮込みが元でちょっとした問題が起きるのだが、それはもう少し先の話だ。
それよりも先へ進もう。
俺がそこで、飯を食ってた時の話なんだが、面白い話を耳にした。
それは、その店で酒を飲んでいた日雇い労働者達がしていた話なのだが、この街で、金持ちだがケチで有名な口入れ屋『シュセン堂』の主人イケズウの娘が何か知らんが、変な呪いにかかってしまったらしいというのだ。
口入れ屋とは、今で言う『人材派遣業』の事を言うが、彼は冒険者ギルドと違って、討伐や護衛等の荒っぽい仕事の人材は扱っていない。
どちらかと言うと、奉公人や使用人等の家事を中心にこなす人材を扱っていた。
なので、ギルドの扱う仕事とはうまく住み分けが出来ているようだった。
話を戻そう。
労働者達の話では、なんでも、つい最近になって、そのイケズウの娘が夜な夜な起き出しては狂った様に騒ぎ出し、それに伴って家財道具が部屋の中を飛び回る、いわゆる『ポルターガイスト』状態になっているということらしいのだ。
だが、その娘は朝になると、それらの記憶は全く無くなり、普通に生活をしているという。
流石のイケズウもこれにはホトホト困ってしまい、自分の人脈をフルに使って、魔法使いや呪術師、祈祷師など、あらゆる人間に依頼して彼女にかかっている『呪い』を祓ってもらおうとしたが、全てが無駄に終わってしまったというのだ。
そのため、昨日、その娘にかかっている『呪い』を祓ってくれた者には全財産の半分を渡すとまで言っていると、その日雇い労働者達が話していたのだ。
俺はくれるという財産の話は置いといて、その話に興味を持ち、その日は、飯屋の二階にある宿屋に泊まり、翌日、その噂の店『シュセン堂』に顔を出すこととした。
驚いた事に、店の前には長蛇の列が出来ていた。
全員、この『シュセン堂』の親父の財産が目当てだと直ぐにわかったが、よく見ると、中には小さな子供や老人まで並んでいる。
何かのイベントと間違えているのであろうか?
まあ、その中には、まともな感じの者達も何人かいたが、これまでイケズウが連れてきた人間以外にもかなりの人間が挑戦して駄目だったらしく、『呪い』を祓うことは難しそうだった。
俺は列に並ぶこと無く、先ずは【宇宙衛星】で『シュセン堂』全体を『探し』た。
俺が展開している【宇宙衛星】の俯瞰地図は普通、他の者には見えない。
俺が許可をして初めて見ることが出来るようになっている。
俺は、建物、家具、家庭で使っている食器や衣服等の道具類に至るまで『探す』。
「家には何も異常は無いようだな。あと、奉公人や使用人、家族のイケズウと母親。」
俺が、全ての構造物や物、それに本人以外の人間を調べたがそれでも全く反応が無い。
呪いと言うのは結構、別の所にあることが多いのだが、
「ふむ、やはり本人に原因があるのか?」
俺はイケズウの娘を『探し』た。
「これは…」
俺は原因を突き止めた。
だが、これは非常に厄介な事になっていた。
普通の呪術者や魔法使いでは太刀打ちが出来ないだろうというレベルだ。
俺は並んでいる奴等に声をかけた。
「お前達!ここの娘がかかっている『呪い』を下手に取り除こうとしたりすれば、その呪いが移動してお前達にその呪いが降りかかるらしいぞ!」
俺が、そう言うとあれだけ並んでいた人間があっという間にほとんどいなくなった。
人間とはこうも、流言飛語に弱いのかとつくづく思う。
まあ、去っていったものは大体、適当にやってうまくいけばラッキー程度の考えしか無い奴ばかりだったのであろう。
それに、下手に関わって自分の命に危険が及ぶとなれば、誰しも近寄り難くなるのは当然であった。
だが、今回、俺がこの件に関わらなかったら、この街自体、いや、イリノス領全体が壊滅的な状況に陥ってた可能性があったのだ。
今回の原因は『さまよう魂』というものだった。
普通、『転生』や『転移』といったものは、異世界に飛ばされる際に、『精神』のみ、もしくは『精神と肉体』の両方が世界を 渡ってくる現象である。
『転生』なら新たに生まれる子供に『精神』が、『転移』なら自分の『肉体』と共に『精神』がくっついて移動してくるのだが、時折、『精神』が異世界で入るべき肉体を見失い、『迷子』、つまりはぐれた状態となり、入るべき肉体を探してさまよい続けていることがある。
それが、『さまよう魂』の正体であり、弱っている魂に取付き、最悪の場合、その者の主人格を支配して奪い取ってしまうこともある。
だから『さまよう魂』は呪いではない。
呪いなら呪力を無くせば呪いは祓われる。
『さまよう魂』が元の魂に取り付いているのはどちらかと言えば『憑依』に近い。
魂が魂に寄生している状態であり、複雑に絡み付く『さまよう魂』を下手に取り除こうとすれば、元の魂に傷が付き、精神崩壊を起こす恐れがあった。
また、今回、イケズウの娘に取り付いている魂はどうも、転生するはずの『上位悪魔』の魂だったみたいなのだ。
転生は何も『勇者候補』や『ブラックな仕事に疲れ、転生用トラックに跳ねられた日本人等』だけの専売特許ではない。
全ては公平なものであり、ただ今回はたまたま『悪魔』であっただけなのである。
だが、そんな『転生』事故 が今回起きてしまったということだ。
「うわあああ~!!」
行列から離れずに残り、『シュセン堂』に入っていた者が、五人ほど大声を上げて店から飛び出してきた。
それは俺が、ちょっとはマシな呪術者や祈祷師と見ていた奴達だった。
まあ、中には俺の忠告にも耳を貸していないような奴もいたが…
「こんな恐ろしいもの、オレ達では無理…」
と、途中まで言いかけたところで、彼等の体がプクッと膨らんだかと思うと直ぐに弾け飛んだ。
路上に彼等の体がバラバラになって落ちる。
「キャーー!」
「うわあーー!」
その光景を見た街の者達が次々に叫び声を上げる。
まあ、相手が悪魔ならそうなるわな。
今まではおとなしかった悪魔も、段々と娘の魂を侵食してきたのか、次第にその姿というのか本性が表に出てきたようだった。
「た、た、助けてくれえー!」
今度は店の者達と共に、『シュセン堂』から飛び出してきたのはこの店の主人イケズウであった。
地響きの様に、建物やその周囲が震え、店の柱や壁にも亀裂が入る。
店から異常な程の黒い妖気が立ち込め始めていた。
「誰か、誰か!娘を、娘を助けてくれえー!」
それは父親としての悲痛な心の叫びであった。
まあ、偶然にしろ、こんなナイスなタイミングで人助けが出来るとは思わなかった。
せっかく与えられた力を有意義に使えるチャンスではないかと心の中でほくそえむ俺。
店の中から現れたのは一人の女であったが、それは既にこの世の者とは思えない程醜悪な顔をし、体の周囲から禍禍しいオーラを発していた。
まさに悪魔と呼ぶべき存在である。
こんな存在が暴れだしたら、誰にも手はつけられないだろう。
先程も言ったようにイリノス領は壊滅するのが目に見える。
だが、この街の人は非常にラッキーだった。
それは、何故か、それはこの街に俺がいたからだ。
俺は既に【宇宙衛星】で、その正体と共に解決方法を見出だしていた。
俺は、インベントリに入れていた【天照】を取り出した。
別名『
この刀のスキルは『切断不可避』である。
『不可避』とは…避けることが出来ないこと。
要は神でも悪魔でも、目標を示せば何でも切っちゃうよという刀だ。
俺は娘の前で、刀を一振りする。
別に直接剣戟を当てなくてもいい、切る対象物を刀に指定すれば良いだけの話だ。
『グガアアアーー!!こ、こんな、バカなああーー!!グオオオーー!!』
悪魔に魂を乗っ取られそうになっていたイケズウの娘が苦しみ始める。
体の周囲を取り巻いていた醜悪なオーラが掻き消される。
娘の声は、まるで悪魔の声の様に聞こえたが、それはまさしく『上位悪魔』の断末魔であった。
そう、俺が切ったのは『上位悪魔の魂』であった。
それだけを選択して【天照】で完全に切断したのだ。
また、スキルの能力はこの刀の守護神であり、神の中の神、ゴッドオブゴッド!最高神である『ヴィシュヌ神』様で完全に保障されているので切れ味に心配はない。
まさに『切れぬ物無し』という、やっぱりスンゲー刀だった。
値段は銀貨三枚だったけどね。
イケズウは店の前で倒れている娘を妻と共に抱き起こす。
「マリヤ~!」
「う、うーん。」
気絶していたマリヤが目を覚ます。
どうやら精神も肉体も無事のようである。
あれだけ醜悪だった顔付きも美しい顔に戻っていた。
俺はそれを見届けるとその場を立ち去ろうとした。
「お、お待ちくだされ!」
イケズウが俺に向かって叫ぶ。
そして俺に土下座をしながら、
「あなた様にお礼を!、お礼をさせて下さいませ!」
まあ、仕方ない、確かに娘を助けてもらえればそうなるわな。
しかし、また土下座だよ。
この世界、土下座が流行ってるのか?
まあ、俺が、知っている奴の最高の技は土下座ではなく、『
まあ、どう見ても、うつ伏せに寝ているだけにしか見えないのだが、本人曰く、『相手に手も足も出せない完全服従の姿勢』だとか。
まあ、そんなことはどうでもいいのだが、とりあえず、俺はイケズウのたってのお願いということで、『シュセン堂』に立ち寄る事になった。
俺は店の来客用の部屋に通された。
金持ちというだけあってかなり良い造りだ。
置いてある調度品も高級品ばかりだ。
「ヒロシ様、この度は娘のマリヤが大変お世話になりました。」
とイケズウが再び頭を下げる。
俺はイケズウに対し、マリヤの体が一体どうなっていたのか、どういう状態だったのかを説明したところ、飛び上がって驚いていた。
「まさか、上位の悪魔が取り憑いていたとは…」
流石の金持ちイケズウも金ではどうすることも出来ないことを知ったようだった。
イケズウは俺に、公約通り自分の資産の半分を渡すと申し出た。
俺は半分以上、彼、イケズウを疑っていた。
金持ちは金に汚いと思っていたからだ。
助けた後で、
『そんなことは一言も言っていません』
と言われてしまえば終わりだからだ。
だがイケズウは、
「お金なんてものはまた貯めればいいんですよ。それよりも私がヒロシ様に約束の金を渡さなかった事で、世間様から信用を失う事の方がもっと恐ろしいことなんですよ。」
と言ったのだった。
なるほどなあと、俺も少し彼から勉強した。
まあ、かと言って、大金をインベントリに入れて持ち歩いていても、増えることはないので、俺は貰うはずだった金の大半をイケズウに預けた。
そして、それを『シュセン堂』の今後の運営資金にしてもらうよう申し出たのだった。
それは俺が、イケズウという人間を信用した結果であり、イケズウもその申し出に快く承諾した。
まあ、それで利益が出れば、俺にも得だからな。
ということで、また俺は次の目的を探すことにした。
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